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子爵令嬢は特異な体質

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国王らが見守る中、ナタリアはなんとかファーストダンスを躍りきった。
相手は父、兄のみ、しかも屋敷で練習したことがあるだけのナタリアにとって、王太子フェルゼンの足を踏むことなく無事に躍り終えられたことは奇跡に近い。

良かったわ、なんとか醜態を晒さずに済んで。
こんなところで悪目立ちなんてしたら、お兄様の将来にも関わるものね。

とっくに目立っている上、ナタリアが王家に目を付けられたであろうことは、この場に残っている全員が気付いている。
むしろ気付いていないのは、ナタリア本人だけだろう。
しかも、他家より先にレンダー家や、兄のクリスに取り入ろうと目論む貴族も既に存在していた。
屋敷でハラハラしながらナタリアの心配をしている父は、今頃くしゃみをしているに違いない。

下手だと仰っていたけれど、王太子殿下はリードがとても上手なのね。
初めての私でも踊りやすくて、とても楽しかったわ。

ダンスのせいで少し息が上がったのか、ナタリアの頬はほんのりと色付き、満足そうにニコニコと楽しそうな表情を浮かべている。
フェルゼンは頬を赤らめながら、そんな彼女を愛おしそうに見つめているのだが、ナタリアはそんなことには少しも気付かない。
静かに見守っている外野は、そんな二人をほほえましく思っていたが、ふとあることに気付いた者がいた。

「あれ?僕、先程から殿下のお顔を目にしているのに、動悸だけで済んでいるのですが?」

「あらほんと!わたくしもお声を拝聴しても立っていられますもの」

「誰も新たに倒れてはいないようですな」

王太子が侯爵令嬢のアメリ以外と踊るところなど見たことのなかった貴族達が、つい好奇心で二人のダンスや、会話する様子を盗み見ていたのだが、驚くことに身体の異常を訴える者は誰一人いなかった。
この出来事をつぶさに観察していた宰相は浮き足立ち、すぐさま国王に進言した。

「これは私の仮説に過ぎませんが、殿下の興味がレンダー子爵令嬢に向かったことで、周囲に放たれるフェロモンが薄まっていると考えられます。ナタリア嬢は殿下の影響を受けにくい体質のようですし、このまま殿下がナタリア嬢へ関心を寄せていれば、フェロモンの影響も軽減出来るかもしれません!!」

「なんだと!?令嬢の体質自体も貴重であるが、及ぼす効果は更に見過ごせぬ。王家としては、益々ナタリア嬢を手放す訳にはいかぬな」

「はい、あのようなご令嬢は他にはいらっしゃらないと断言出来ます!」

兄のクリスは壁の側に立ち、妹ナタリアが王太子と踊る様子をお腹を押さえながらずっと見守っていたが、大きな失敗をしなかったことに胸を撫で下ろしていると、国王らの不穏な言葉が耳に入ってきた。

まずい、王家に目をつけられてしまったみたいだ。
うちはしがない子爵家だけど、王家にしてみればもはやそんなことはどうでもいいんだろうな。
物理的に、殿下と並び立てる女性などいないに等しいんだから。
ナタリアは僕とそっくりって言われるけど、僕よりずっと度胸があるよな、お腹は強いし・・・ああ、聞くんじゃなかったな、お腹が痛い・・・

ストレスマックスのクリスだったが、直後に国王に呼ばれ、ナタリアについて、婚約者の有無や普段の行動について確認されてしまった。

「あら、それではナタリアちゃんは婚約者も居ないし、もっぱら修道院で孤児達に教育を施してるってわけね。素晴らしい女性じゃないの!スキャンダルもないし、合格よ!!」

王妃はすっかりナタリアを気に入ってしまったらしく、合格をもらってしまった。
親しげに名前を呼び、浮かれている。
しかも、まさか修道院通いがそんな美談として受け取られるとはクリスには驚きだった。
食費を浮かせていただけなのに・・・

勝手に話が進められ、ナタリアが王太子の婚約者候補となりつつある。
いや、もはや王太子妃に決定したかのような話しぶりであった。

「レンダー子爵令息、明日にでも城から屋敷に使いを出そう。帰ったら子爵に伝えるように」

宰相から告げられ、あまりの急展開に戸惑いながらも承諾するしかなかったクリス。
父の狼狽する様子を想像し、お腹をさすったのだった。
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