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運命の相手
フェルゼンは自分の身に起きていることが信じられず、夢を見ているのではないかと疑いたくなった。
思ってもいなかった展開に目頭は熱くなり、気を抜くと泣き出してしまいそうだ。
今、自分の右手には、ナタリアの小さく温かい手が重ねられている。
緊張しているのか、ぎこちない歩みだが、頬が赤くなって恥じらう様子がフェルゼンにはとてつもなく可愛らしく見えた。
ああ、これは夢だろうか。
彼女の白いドレスに、色付いた頬が映えてとても美しいな。
まさか私と対面して話し、エスコートに耐えられる女性がアメリ以外にいるなんて夢にも思わなかった。
しかも、私に向かって微笑みかけてくれようとは。
あれはまさに輝くような天使の笑顔!
ナタリア嬢はこんな特異体質の私に、神が遣わした天使に違いない。
苦節19年。
己のフェロモンのせいで人から距離を置かれ続けたフェルゼンは、ナタリアは神が自分に特別に与えた運命の相手なのだと理解した。
今まで多くの人が目の前で倒れていき、常に他人と距離をとって生きるしかなかった。
腫れ物に触るような扱いをされ、避けるようなあからさまな態度をとられても、『それも自衛なのだから仕方がない』『こんな体質の自分が悪いのだから』と、自分を納得させてここまできた。
しかし、本当はずっと寂しく、フェルゼンの心は悲鳴をあげていたのである。
「大丈夫、いつかあなたを全て受け止めてくれる人が現れるわよ」
アメリはいつも言っていたし、その言葉を信じたかった。
でもそれと同時に、『そんな人がいるはずはない』『自分は一生寂しさを抱えて生きていくしかないのだ』と、なかば諦めの気持ちもあった。
だから尚更ナタリアの存在が信じられず、何にも代えがたい彼女を、自分のものにしたくて堪らない。
さあ、どうやって距離を縮めようか。
「あの、殿下?私、ダンス下手なんです・・・」
ホールの中央へと向かう最中、思い悩むフェルゼンにナタリアがこっそり話しかけてきた。
身を寄せて囁くナタリアは、困ったような恥ずかしそうな表情をしており、それを目にした途端、フェルゼンはナタリアのあまりの愛らしさに心臓が止まりかけた。
なんなのだ、今の表情は!
大体、私に近付いて内緒話なんてしてくる者は初めてで、それだけでも衝撃的だというのに。
胸が高鳴りすぎて頭が真っ白になり、一瞬天に召されるのかと思ったほどだ。
ああ、もしかして今まで私の前で倒れた者も、同じような気持ちだったのだろうか?
それならまだ救われるのだが。
罪悪感から少し解き放たれたフェルゼンは、穏やかな口調で返す。
「大丈夫ですよ。私も下手ですから」
フェルゼンもアメリ以外と踊った経験が無い為、ダンスにはさほど自信がない。
「それって大丈夫なんでしょうか?」
クスクス笑われ、フェルゼンも自然に口角が上がる。
確かに大丈夫な要素の感じられない返事だと思ったからだ。
「私にとって記念すべきダンスなので、ナタリア嬢も楽しんで踊ってくれると嬉しいです」
デビュタントのナタリアにとっては、もちろん記念のダンスになるが、数々の夜会で踊っているはずのフェルゼンにとって、どうしてこのダンスが特別なのかがナタリアにはわからない。
しかし素直に頷いておいた。
「はい。頑張って楽しみます!」
音楽が流れ、2人はステップを踏む。
お互い遠慮がちに始まったが、徐々に息が合い、スムーズに動きが重なりだした。
「とても踊りやすくて楽しいですよ。ところで、城の料理は口に合いましたか?」
「あら、やっぱり見られていましたか。とっても美味しかったので、止まらなくなってしまって」
ナタリアを促すと、ナタリアはクルッと回転してみせた。
うん、可憐でまるで妖精のようだ。
「集中されているようでしたので、つい気になって」
「私、お菓子が大好きなんです。でも普段はあまり食べられないので興奮してしまいました。お恥ずかしい」
普段は食べられない?
ダイエットでもしているのだろうか?
フェルゼンが不思議そうな顔をしていたからだろう。
照れていたナタリアが少し俯きながら言った。
「あの、うちってそんな裕福じゃないので。実はこのドレスも良く行く修道院のシスター方があつらえて下さったのです」
レンダー家は古くからある子爵家だが、そんな苦労をしていたとは。
しかしそれより、このドレスにそんな経緯が。
修道院との結び付きが強いなんて、ナタリア嬢はまさに天使じゃないか!
あっさりと、「ナタリア=天使」の図式がフェルゼンの中で出来上がった。
「そうなのですか。あなたによく似合っていますよ。ではダンスが終わったら、一緒にお菓子を食べませんか?まだ召し上がっている途中でしたよね?」
ダンスの後も共に過ごせるように画策してみる。
逃す気など毛頭ない。
「はいっ!さっきは他に食べてる方がいらっしゃらなくて少し寂しかったんですよね。お菓子、全種類制覇したいです!」
無邪気にお菓子に釣られるナタリアの笑顔が眩しく、フェルゼンは破顔したのだった。
思ってもいなかった展開に目頭は熱くなり、気を抜くと泣き出してしまいそうだ。
今、自分の右手には、ナタリアの小さく温かい手が重ねられている。
緊張しているのか、ぎこちない歩みだが、頬が赤くなって恥じらう様子がフェルゼンにはとてつもなく可愛らしく見えた。
ああ、これは夢だろうか。
彼女の白いドレスに、色付いた頬が映えてとても美しいな。
まさか私と対面して話し、エスコートに耐えられる女性がアメリ以外にいるなんて夢にも思わなかった。
しかも、私に向かって微笑みかけてくれようとは。
あれはまさに輝くような天使の笑顔!
ナタリア嬢はこんな特異体質の私に、神が遣わした天使に違いない。
苦節19年。
己のフェロモンのせいで人から距離を置かれ続けたフェルゼンは、ナタリアは神が自分に特別に与えた運命の相手なのだと理解した。
今まで多くの人が目の前で倒れていき、常に他人と距離をとって生きるしかなかった。
腫れ物に触るような扱いをされ、避けるようなあからさまな態度をとられても、『それも自衛なのだから仕方がない』『こんな体質の自分が悪いのだから』と、自分を納得させてここまできた。
しかし、本当はずっと寂しく、フェルゼンの心は悲鳴をあげていたのである。
「大丈夫、いつかあなたを全て受け止めてくれる人が現れるわよ」
アメリはいつも言っていたし、その言葉を信じたかった。
でもそれと同時に、『そんな人がいるはずはない』『自分は一生寂しさを抱えて生きていくしかないのだ』と、なかば諦めの気持ちもあった。
だから尚更ナタリアの存在が信じられず、何にも代えがたい彼女を、自分のものにしたくて堪らない。
さあ、どうやって距離を縮めようか。
「あの、殿下?私、ダンス下手なんです・・・」
ホールの中央へと向かう最中、思い悩むフェルゼンにナタリアがこっそり話しかけてきた。
身を寄せて囁くナタリアは、困ったような恥ずかしそうな表情をしており、それを目にした途端、フェルゼンはナタリアのあまりの愛らしさに心臓が止まりかけた。
なんなのだ、今の表情は!
大体、私に近付いて内緒話なんてしてくる者は初めてで、それだけでも衝撃的だというのに。
胸が高鳴りすぎて頭が真っ白になり、一瞬天に召されるのかと思ったほどだ。
ああ、もしかして今まで私の前で倒れた者も、同じような気持ちだったのだろうか?
それならまだ救われるのだが。
罪悪感から少し解き放たれたフェルゼンは、穏やかな口調で返す。
「大丈夫ですよ。私も下手ですから」
フェルゼンもアメリ以外と踊った経験が無い為、ダンスにはさほど自信がない。
「それって大丈夫なんでしょうか?」
クスクス笑われ、フェルゼンも自然に口角が上がる。
確かに大丈夫な要素の感じられない返事だと思ったからだ。
「私にとって記念すべきダンスなので、ナタリア嬢も楽しんで踊ってくれると嬉しいです」
デビュタントのナタリアにとっては、もちろん記念のダンスになるが、数々の夜会で踊っているはずのフェルゼンにとって、どうしてこのダンスが特別なのかがナタリアにはわからない。
しかし素直に頷いておいた。
「はい。頑張って楽しみます!」
音楽が流れ、2人はステップを踏む。
お互い遠慮がちに始まったが、徐々に息が合い、スムーズに動きが重なりだした。
「とても踊りやすくて楽しいですよ。ところで、城の料理は口に合いましたか?」
「あら、やっぱり見られていましたか。とっても美味しかったので、止まらなくなってしまって」
ナタリアを促すと、ナタリアはクルッと回転してみせた。
うん、可憐でまるで妖精のようだ。
「集中されているようでしたので、つい気になって」
「私、お菓子が大好きなんです。でも普段はあまり食べられないので興奮してしまいました。お恥ずかしい」
普段は食べられない?
ダイエットでもしているのだろうか?
フェルゼンが不思議そうな顔をしていたからだろう。
照れていたナタリアが少し俯きながら言った。
「あの、うちってそんな裕福じゃないので。実はこのドレスも良く行く修道院のシスター方があつらえて下さったのです」
レンダー家は古くからある子爵家だが、そんな苦労をしていたとは。
しかしそれより、このドレスにそんな経緯が。
修道院との結び付きが強いなんて、ナタリア嬢はまさに天使じゃないか!
あっさりと、「ナタリア=天使」の図式がフェルゼンの中で出来上がった。
「そうなのですか。あなたによく似合っていますよ。ではダンスが終わったら、一緒にお菓子を食べませんか?まだ召し上がっている途中でしたよね?」
ダンスの後も共に過ごせるように画策してみる。
逃す気など毛頭ない。
「はいっ!さっきは他に食べてる方がいらっしゃらなくて少し寂しかったんですよね。お菓子、全種類制覇したいです!」
無邪気にお菓子に釣られるナタリアの笑顔が眩しく、フェルゼンは破顔したのだった。
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