【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ

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小さな嫉妬心

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目の前でアメリが嬉しそうにナタリアに抱きついているのを、フェルゼンが憮然とした表情で非難していた。
本心では無理にでも二人を引き剥がしたいが、アメリに倒れられたばかりなので触れるのをためらった結果らしい。

「アメリ、ずるいぞ!ナタリアを抱き締める権利は私だけのものだ!!」

いえいえ、意味がわかりません。
なんでこんな高貴な方々が、私を取り合うかのような発言を?
そして、アメリ様は私に怒っていたのではないの?

状況が掴めず、間抜けな顔で首を傾げると、ナタリアは思い切ってアメリに尋ねてみた。

「あ、あの、アメリ様は、今夜のフェルゼン様のパートナーなのですよね?私、知らずに失礼なことを致しまして・・・」

「そんなの全然いいのよ!!それより、わたくしはあなたをずっと待っていたのよ、ナタリア様。あ、ナタリアでいいかしら?もうわたくし達も親戚のようなものだし。ああ、夢みたい!ナタリア、あなたは救いの女神様だわ!!」

ナタリアから腕を離すと、アメリはご機嫌な様子でくるくると回り始めた。
広がるドレスの裾の模様が美しい。

元気になられて良かったけれど、アメリ様の言葉の意味が全然理解できなかったわ。
こんなパッとしない私が『女神』ってどういうこと?

「あ!こうしてはいられないわ。ダンスのパートナーはもう必要ないし、帰って彼に手紙を書いて結婚式を早めてもらいましょう!!ナタリア、近い内に侯爵家に招待するわ。ゆっくりお話しましょう。ではまたね!」

アメリは嵐のように去っていった。
謎の台詞ばかりを残して・・・

「ええと、アメリ様はフェルゼン様の婚約者ではないのですか?私、てっきり怒られると思って身構えてしまいました」

「違うよ!!ただの親戚だよ。確かにいつもダンスパートナーを頼んでいるけれど、それも彼女しか頼めない理由があったからで。これからはナタリアとだけ踊りたい。パートナーをお願い出来る?」

私がフェルゼン様とこれからも踊るっていうこと?夜会の度に?
無理無理、ダンスは楽しかったけれど、本当は一緒に踊るには身分が全然釣り合ってないもの。
それ以前に、ドレスが無いからもう夜会には来られないし。

「あの、私はこれ以外のドレスを持っていないので、もうお城に来ることもないと思います」

正直に言って断ろうとすると、「そんなこと?服ならいつでも用意するよ?」などと言われてしまった。

いやいや、そういう問題でもないでしょう。
婚約者でもない女性に色々おかしくない?

「身分が釣り合った令嬢と踊るべきでは?」

「私はナタリアじゃないと踊れない。いや、ナタリアとしか踊りたくないんだ!」

またしても子犬のような瞳をしていると思ったら、更に切なそうに言い募られてしまった。

「ナタリア、ナタリアは今日、私と出会ってどう感じた?短い時間だったけれど、少しは楽しいと思ってくれた?アメリが現れて、少しでも妬いてくれたりはしなかった?」

うーん、フェルゼン様と過ごせてどう思ったか。
楽しかったよね、格好いいし。
でも妬く?
妬くって焼き餅ってことだよね?
アメリ様はとても美しいから、お似合いだなーとは思ったけれど・・・で、私じゃとても太刀打ち出来ないなーって・・・
あれ?
なんだか今、ちょっと胸がチクッとしたような、しないような?

恋愛に疎いナタリアは、正直に白状した。

「えーと、ちょっとだけ妬いたかもしれません。でもちょっとだけですよ?言われるまで気付かなかった位ですし。でもそれは、フェルゼン様が今まで会った男性の中で一番素敵な方だから当然」

俯きながら答えていると、ガバッと抱き締められてしまった。

「ああ、可愛い!嬉しいよ、ナタリア!!妬く必要なんて全くないけどね。アメリは隣国へ嫁ぐし、私が愛するのはナタリアだけだよ」

は?
愛する??

なんだか衝撃的な言葉を聴いた気がした。

「あの、私は今日フェルゼン様と出会ったばかりですけれど」

「そんなことは関係ないよ。ナタリアは私の天使だと目があったときからわかっていたから」

天使?
私には全然わからないのですが。
その確信はどこから・・・

しかし会話の途中で夜会終了の時間が迫り、兄のクリスがヨロヨロしながらナタリアを迎えに来ると、フェルゼンは名残惜しそうにナタリアの頬にキスをした。

「フェルゼン様!!婚約者でもないのにいけませんよ!!」

「婚約者だったらいいのかな?」

「それは・・・場合によっては?・・・って!そういうことではありません!!」

「怒るナタリアも可愛らしいね。大丈夫、婚約者になればいいだけだから」

「私がなれるわけがないでしょう!!もうっ、お兄様、帰りますよ!!」

埒があかないとばかりに兄を引っ張って会場を去っていくナタリアを、フェルゼンは見えなくなるまで見つめていたが、笑顔を浮かべて一言呟いた。

「逃がさないよ、ナタリア」


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