152 / 251
未知の瘴気
152. やっておいて損はない
しおりを挟む読みに来てくださってありがとうございます!
再開いたします!
-----------------------------
私の野望については一旦保留となり(あきらめるとは言っていない)話は明日以降の予定に移った。
「浄化が終われば神殿に戻る、という予定ではあったんだが、意見を聞きたい」
アロイスの言葉に空気が引き締まる。
瘴気の発生源というものはどういう仕組みなのか、神官が浄化魔法をかけることで、同じ場所からはもう出てこない。仮に出ることがあるとすれば、かなり年月が経ってからだ。
思い出すのは、前世の母が瘴気について語っていたこと。
『この世界には血液みたいに魔力の流れがあって、いい流れもあれば悪い流れもあるの。それ自体が毒になるほどの悪い流れが、瘴気と呼ばれるものの正体でね。つまるところ浄化魔法は、その悪い流れを治す魔法なわけ』
この世界の神官達は、理屈はわからずとも感覚的にそれを理解している。
「女神のお力だから一度かければもう大丈夫なのだ」と盲目的に納得している人の割合が多いけれど、あながち間違いとも言い切れない。
もちろん使い手によって効果を及ぼす範囲は違っていて、あまりに大きなものだと一介の神官ひとりぐらいでは治せなかった。
そして今回の規模だけを見ると、トマス神官だけでもなんとかなったんじゃないかと思う。
ただ――
「瘴気はともかく、この『霧』ですわね?」
「そうだ。あんたの浄化魔法で一部がごっそり消えたってことは、ただの霧じゃないってことだろ」
つまり誰かが、あるいは何かが、性質のよくない何らかの魔法で発生させている。
「あの宝島を作った奴と根は同じか、同一人物っすかね?」
「有り得そうだが、霧の発生時期はいつなんだ? 発生源があの河で間違いないとすれば、もう何十年もここら一帯が濃霧に包まれてなきゃおかしいだろ。俺はそんな話、聞いたことがないぞ」
リュカに応えながら、アロイスはトマス神官に目を向けた。
トマス神官は首を横に振る。
「私も、そういった相談は聞いたことがありません。それにこれだけ濃い霧が何十年も続いているとなると、行き来に難儀するだけでなく、作物を育てるのにも困るのではないでしょうか?」
彼の疑問はもっともだった。
これほどの長期間、ずっとお日様の光が遮られていたら、ちゃんと育たない作物は多いはずだ。
私はふと気になってトマス神官に尋ねた。
「トマス様、村の方々は最初、どのように仰っていましたの? 『霧が黒くなった』、あるいは『黒い霧が漂ってきた』……どちらなのかしら」
あ、とトマス神官は目を瞠り、必死で記憶を探る顔になった。
「私が聞いた者は、そう……確か、『黒い霧に包まれた』と、そのように言っていたかと思います」
「つまり『白い霧が黒くなった』と仰った方は、どなたも?」
「いません、ね。誰からも、そのようには聞いておりません」
私とトマス神官の会話に、アロイスが「へえ」と反応した。
「そいつはおかしいな。もともと霧深い土地で、それが黒く変じたというのなら、誰か一人ぐらいはそれを異常として訴えそうなもんだが」
そうでないというのなら、最初から黒い霧となって漂ってきたと、そう考えるのが自然だろう。
いったいあの瘴気はいつ頃から発生していて、霧はいつ頃から発生していたのか。
「何者がどんな目的で始めたのかは知らんが、いずれにせよろくな意図じゃないだろ。霧の発生源自体は河で間違いないだろうから、少々手間だが、明日はあの河をもう一度浄化したほうがいいんじゃないかと思う」
「でも頭領、河っつっても範囲が広いし、水はずっと流れてますよ? さすがにアレ全部浄化してもらうのはホネなんじゃないっすか?」
「さすがにそんな無理は言わねえって。試してもらいたいのは水そのものの浄化じゃなく、河の中のどこかにあるかもしれん魔道具の浄化だ。実際に霧が一部晴れたってことは、そいつは水に触れているってことだろ」
「そういうことっすか」
私もリュカに同調して「なるほどそういうことか」と頷いた。
あの壁画と理屈は同じだ。水に魔力を流したら、そこに触れている魔石塗料から魔力が伝って光の絵が浮かび上がった。
見上げれば星も月も完全に隠れ、今もなお濃い霧がそこにあるとわかる。
これを発生させている魔道具とやらは、多分私が魔法を使ったあの岸辺から、そう遠くない場所にあるのだ。
水に浸透させた私の魔力が届く範囲に。
「やってみてもらえるか?」
「もちろんですわ」
試してみて、もし霧に効果がなかったとしても、怪物の出口にあたるあの小島周辺を徹底的に浄化しておくのは得策だ。
放置していたら怪物の仲間が私達のにおいを辿り、こっそり付いてくるかもしれないのだから。
1,450
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる