聖女転生? だが断る

日村透

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未知の瘴気

153. ひとまず解決?

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 一夜明けて、河の浄化に取り掛かった。
 日に二回ある干潮――と思しき現象――の、一回目の時刻はまだ来ていないようだ。
 あの小島への道は、相変わらず水の中にある。それを見て安堵を覚えつつ、水位が下がる前にさっさと浄化を済ませることにした。

 あの小島が視界に入る範囲で移動し、場所を変えて浄化の魔力を水の中に流し込んでいくと、三ヶ所目で劇的な変化が起こった。

「うわあ……!」
「すっげー……」

 ジゼルとリュカが思わずといった風に声を上げた。
 ほかの皆も目をみはり、周囲を見回している。

 一瞬にして完全に霧が晴れたのだ。
 蝋燭ろうそくを吹き消す時、『フッ』という音にならない音が聞こえる気がするけれど、まさにそんな消え方だった。
 この地にとって何ヶ月ぶりかも不明な、遮るもののない陽光が降りそそぐ。

 今日は晴れだ。
 澄んだ青空に、ゆったりと浮かぶ雲。

 地上の植物は枯れ果て、荒れた畑に人のいない家しか見かけずゴーストタウンの様相を呈しているのに、あまりにも明るいせいで長閑のどかな空気すら漂っていた。

「これは、すごいですね……あの怪物とやらも、これならばもう出て来られないでしょう」

 トマス神官が感嘆しながら呟き、アロイスが「だな」と頷いた。
 瘴気に順応し変異した生物は、瘴気をエネルギー源として活動している。
 それが失われれば、弱って骨と化すか、どこかへ姿を消すしかない。

「頭領。あの地下のバケモン、ミュリが発見したもうひとつの建物から地下道を通って来たんだよな。ほかに出入口がないか、念のために確かめたほうがいいんじゃねえか?」
「んー……もっともなんだが、ほかの道はないと思うぜ。多分、一本道だ」

 エタンの口にした懸念に、少し考え込んでアロイスは答えた。
 私も、この地下道は一本道だと思っている。
 もし古くから存在した地下道を勝手に使っているのであれば、アリの巣状に張り巡らされている恐れがあったけれど、これは造られた時代が新しい感じがする。

 おそらく、隠し財産をあそこに置こうと考えた誰かが、この道を通した。
 一本道でもこっそり通すのは大変な工事だったろうから、そんなに複雑な構造にはしなかったはずだ。

「わたくしもアロイス様の仰る通りかと考えますの。あの地下道、外側からだとわたくしの魔力を弾く仕組みになっていましたのよ」
「セレ様の魔力を? んなことできんのか」
「実際に弾かれましたもの。人の発する魔力そのものを妨害する仕組みだったのではないかしら。もしアリの巣状の隠し通路を造ってしまうと、ああいった仕掛けに割くお金が足りなくなってしまいますでしょう。複雑な建造物ほど、守りが弱くなるリスクが高いのですわ」
「確かに、あっからここまで距離あんのに、ごちゃごちゃ脇道なんぞ造ってられねぇか」

 シンプルであるほど、予算も人手も最低限に抑えられて、なおかつ守りを強固にしやすい。
 それに出入口が多いと単純に、見つかるリスクが高くなる。
 この説明にはアロイスや護衛騎士達も納得だったようだ。むしろ私よりアロイス達のほうがこの手の話は詳しいのだから、彼らに同意をもらえると自信を持ってしまう。



 ともかく、これで神殿へ戻ろうという話になったのだけれど。

「あんた、いい加減慣れたんじゃなかったのか? なんでそんなガチゴチになってんだ」
「……気のせい、でしてよ?」

 嘘である。
 ガチゴチになっていた。
 何がって、アロイスとの馬の相乗りにである。
 前に乗せてもらい、後ろから包むように支えられているこの密着体勢。
 いい加減緊張しなくなったと思ったのに何故と、私こそ問いたい。

「晴れたせいですわ……この素晴らしいお天気がいけないのですわ……!」
「あー……お日さんも難儀だな。こんなことで苦情言われるとは」

 頭上から聞こえる呆れ声に、うっと罪悪感を覚えた。
 お日様ごめんなさい。
 でも、実際にこの天気の良さがいけないのである。
 霧深く薄暗い視界の悪さに助けられ、ようやく慣れてきた頃だったのに、何もかもが明るく照らされたせいでふりだしに戻ってしまったのだから。

 ――くっ……ま、負けませんわよ……!

 何の勝負に? とは訊かないでほしい。


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