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未知の瘴気
151. 切に知りたいのですわ
しおりを挟むえっ、何、私そんな変なこと訊いた!?
お茶が変なところに入り込んだのか、皆はあちこちでガホゴホグフッと咳き込んでいる。
ジゼルだけがクールに「何やってんのあんたら……」と突っ込んでいた。
「お、俺、知らねっすよ……」
「ごほ……俺も知らねえ。頭領、任せた」
「私の、口からは、とても……」
「おまえら~! おまえらだって言ってたろ!?」
何やら地下突入組の中で、裏切りや責任の押し付け合いが発生しているようだ。
待機組だったトマス神官と二人目の護衛騎士は、代表者のアロイスに非難の目を向けている。
怪物との戦いの最中、似たような言葉を全員が叫んでいた気がするのだけれど、責任ある立場の人はこういう時につらい。
「あ、あのう……アロイス様? わたくし、おかしなことを訊きましたかしら?」
「あ~……それはな、要するに……心底腹の立つ、最低最悪に嫌いな敵を貶めるための罵倒言葉だ。全然これっぽっちもお上品な言葉じゃねえから、あんたは口にするなよ?」
「…………」
心底腹の立つ、最低最悪に嫌いな敵にぶつける言葉……
「おいその顔、いつか誰かに言ってみようとか思ってやがるな!?」
「なっ!? そ、そのようなことはございませんわよっ!?」
「目が泳いでんだよ! あんたが口にしていい種類の単語じゃねーんだから、これを使うのは禁止だ!」
「そんな!? 横暴ですわ!」
私は悪口の語彙がとても少ないのだ。
頭の中で罵ることはできても、言葉自体を知らないから何も言えないこのもどかしさ、きっとアロイス達には理解できない。
「いつかロラン王国の優柔不断自己愛王子ですとか、傲慢強欲王ですとか、陰険腹黒大神官にちらりとでも再会することがあれば、ほんの少しでも心を抉る言葉をぶつけてやりたいと思っておりますのに!」
「……いや、そんだけ言葉知ってりゃ充分だろ」
「俺、そっちのほうが心抉られると思うんすけど……」
しかし私がどれほど訴えても、アロイスは最終的に「禁止は禁止だからな!」とはっきり言い切ってしまった。
バレなければいいんじゃないかしら? と思わなくもないけれど、私はアロイスの禁じたことを積極的に破りたくはないし、彼を含め隊商の皆との約束は破りたくない。
――仕方ありませんわね。別の言葉を覚えるといたしましょう。
彼らはきっと『くそやろう』以外にも豊富に隠し持っているはずだ。
私の前ではなかなか出してくれないけれど、そのうちまた耳にする機会があると期待しよう。
密かにそんな野心を燃やしていると、アロイスがふと不思議そうに言った。
「あんた、もう一人の聖女については特に思うところはないのか? そいつのことで何か言っているのを聞いたことがないんだが」
「そういえばそうでしたわね?」
彼らに話してきたロラン王国での出来事は、その大半が王宮や大神殿の人々に関することばかりで、『リリ』があまり含まれていなかった。
「仲がいいわけでもなかったんだろう?」
「ええ、全然。わたくしのわずかな休憩時間に突撃されて迷惑をこうむったり、目の前でオーギュスト殿下と仲睦まじいところをわざと見せつけてきたりと、腹の立つことをいろいろされましたけれど」
「典型的なアバズ……野心家女じゃねえかよ。それだけされておいて、少しばかり腹は立っても、そんなに恨んではいないって?」
私はさして迷うでもなく、こくりと頷いた。
思い返しては恨み言をグチグチ漏らしたくなるほど、『リリ』のことを憎んだことはない。
「そこまで強い感情を抱くほど、接触する機会がなかったというのもありますけれど。一番の理由は、わたくしが助かったからですわね」
「助かった?」
「だって彼女のおかげで、殿下が口先だけの薄っぺらい方だと悟ることができたのですもの」
あれほどあからさまなのに、あの男はこれっぽっちも察していなかった。
あの時点でもう、この男はダメダメだとわかる。
「そしてこれが重要なことですけれど。仮に『リリ』に野心がなく、控え目につつましく過ごす性格の少女であったとしても、彼女はわたくしの上位に据えられて、王子の妃にされたであろうことは確実なのですわ」
王宮と大神殿、双方の上の方々の意思によって、必ずそうなる。
私は彼らの腹の底が知れて、聖女も王子妃も完全にやる気が失せた。
「ですから、やる気に満ち溢れた彼女が両方に立候補をしてくださって大助かりなのですわ。殿下の首に『不用品』の札とおリボンをかけて、こちらからプレゼントしてさしあげたかったぐらいでしてよ」
途中まで真面目な顔で耳を傾けていたアロイスが、また噴きそうになっていた。
今度は飲み物を口に入れていなかったから、むせる心配はなかったけれど。
「……あんた、それだけ言葉がポンポン出てくるんなら充分だっての」
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更新のお知らせ:所用のため7/31~8/2まで投稿お休みします。
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