ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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六、「好きにして」と言ったのは確かにぼくです・・・ええ、確かに。

1、

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 うーん。 

 なに、企んでんだろ。 

  

 いつものように王子妃教育を終えたウォルターは、いつものようにサロンへと先導されながら、見慣れない侍従と護衛に堪らない不信感を抱いていた。 

 確かに、王城には多くの侍従や護衛がいるため、初対面の相手がいたとしても不自然ではないかもしれない。 

 しかし今ウォルターが王城に滞在しているのは、その擁護が大きな目的であるため、ウォルターに付く侍従や護衛はアリスターが見極めた者のみ、とのことで、ウォルターも予め対象である彼らから挨拶を受けていた。 

 故に、このように初対面の相手に付き添われるというのは、何らかの異常事態だと思われる。 

 

 このひと達、アーロン男爵子息の仲間、だったりとか? 

 街中でアリ様に不敬を働いたこと、誘拐未遂の騒ぎを起こしたことが決定打になって、アーロン男爵子息は牢獄に入れられた、って聞いたけど、仲間は活動している、とかなのかな。 

 だとすると、目的はぼくを排除すること? 

 

 ウォルターに付き従い護衛をする、というより、間に挟んだウォルターを逃がさないようにしつつ、辺りを酷く気にしているような侍従と護衛に警戒を強めたウォルターは、先導する侍従が向かう方向に眉を寄せた。 

 その先にあるのは、伯爵位以上の者が使えるサロン。 

  

 ってことは、黒幕は伯爵位のひと、ってことかな。 

 

 いつもなら、王族と、公、侯爵家のみが入ることを許されている区域での移動なのに、これから先は、そうではない区域。 

 さて、どうしたものかとウォルターが足を止めれば護衛に押され、無理にも歩かせられた。 

 

 わあ、有り得ないよね。 

 

 護衛対象の背を押して無理に歩かせる護衛など初めて見た、とウォルターは新鮮ささえ感じる。 

 そして目的と思われるサロンに着くと、侍従は迷わず扉を開け、あろうことかウォルターをその中へと突き飛ばした。 

「えっ・・なっ・・・!」 

「貴方はもうお終いですよ。さあ、お楽しみください」 

 余りの事によろけ、たたらを踏んだウォルターの後ろで、そんな下卑た声と共に扉が閉まる。 

  

 もう、乱暴だなあ。 

 

 流石に突き飛ばされるとは思わなかった、と閉じられた扉を見てため息を吐いたウォルターは、その背後に気配を感じ振り向いた。 

「エアリー公爵子息・・いいえ、ウォルター様。私をお求めくださったと聞き、嬉しく参上いたしました・・・もう、逃がしませんよ?さあ、私の腕のなかで、存分に乱れてください」 

「えっ?・・ええと」 

 その声だけを聞けば、アルファの威圧が籠ったいやらしいものだが、浮かべている表情は可笑しさが堪え切れないような、笑み崩れたもの。 

 そして何より、声を発しているのは、ウォルターもよく知る人物。 

 父、エアリー公爵の部下であるチェスター・ウィルクスは今、その端正な顔に楽し気な笑みを浮かべつつ、それとは似ても似つかない鬼畜な台詞を繰り返す。 

「ああ・・ウォルター様・・その白く柔らかな肌・・ああ・・堪らない・・」 

「なっ・・・むぐ」 

 一体何をしているのか、と尋ねようとしたウォルターは、チェスターが自身の唇に指を当てたことで沈黙を要求されているのだと知り、自分の両手を口に当てることで何とか押し黙ることに成功した。 

「ああ・・なんて甘い・・」 

  

 え? 

 なになにどういうこと? 

 

 常から色恋の噂の絶えない色男が、何やら婀娜っぽい声を出し、淫靡な雰囲気を醸すかのような台詞を吐いている。 

 そう。 

 目の前で見ているウォルターには、台詞、演技だと容易に知れる、そのふざけた表情。 

 一体どういうことなのかと思うウォルターに、チェスターは一枚の書付を見せた。 

《後ほどご説明しますので、暫く私に合わせてください》 

 見せつつ、チェスターは扉の方へと視線を移し、ウォルターに頷いてみせる。 

 

 つまり、彼等を騙すため、ってことかな。 

 

 何故このような芝居をうつのか検討もつかないものの、チェスターの視線から理由があの侍従にあるのだろうとあたりを付けたウォルターは、書付に書かれた台詞が廊下にまで聞こえるよう、声を張り上げた。 

「なっ・・・何をするんだ、チェスター!」 

「何を?そんなもの、決まっているではないですか。心配なさらずとも、ここには私達二人きりです。さあ、共に楽しい時間を過ごしましょう、ウォルター様」 

「寄るなっ。寄るなって言ってるだろ!ぼくはアリスター殿下の婚約者だぞ!・・やっ・・離せっ・・触るなっ!」 

「婚約者?そんなの関係ありませんよ。それにしても、それで抵抗しているつもりですか?ああ、そうやって嫌がるふりをして誘っているのですね?なんてお可愛らしい」 

「そんなわけないだろっ・・・やっ・・そこ・・やあっ」 

「ふふ。素直に、気持ちいい、と言っていいんですよ・・・大丈夫・・存分に可愛がってさしあげます・・ああ、どれほどこの時を待ち望んだことか・・貴方も同じ気持ちだったとはこれ僥倖・・ほんとに幸せです・・この、吸い付くように滑らかな肌・・触れているだけで猛って来るのが判ります・・これですよ・・んっ・・わかりますか?・・早く私のこの熱を放出したいです・・貴方のなかに」 

「やっ・・・さわらなっ・・ああっ・・押し付けないでぇ」 

「ふふ・・・もう逃げ場はありませんよ・・・ウォルター様」 

「やめてっ・・おねがっ・・やめっ・・やあああっ」 

 がたんっ。 

 ウォルターの声に合わせ、タイミングよくチェスターがソファを動かし大きな音を立てると、扉の外で走り去る靴音がふたり分、聞こえた。 


~・~・~・
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