ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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六、「好きにして」と言ったのは確かにぼくです・・・ええ、確かに。

4、

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「あ、アリ様!?」 

 アリスターの部屋に着くなり浴室に放り込まれたウォルターは、抵抗する間もなく服を脱がされ、いつものアリスターからは考えられない乱暴さで身体を洗われた、と思えば、碌に水気も拭わないままにベッドへ運ばれ、全裸でベッドに落とされた。 

「ウォル・・・本当に何もされなかったか?何処も、何も」 

 かつてなく手荒に扱われたことにウォルターが衝撃を受け動けずにいると、同じく全裸でベッドに乗り上げて来たアリスターが、その瞳に仄暗い光を宿してウォルターに迫る。 

「あ・・アリスター殿下・・何を言って・・・」 

「殿下なんて言うな!」 

 アリスターの感情が読めず、怯えるウォルターが公式の場でのようにアリスターを呼べば、即座に鋭い声が飛んだ。 

「も、もうしわけ・・・」 

「・・・・・・・・・・」 

 そして、その視線にウォルターが謝罪の言葉を紡ごうとすれば、アリスターの目が鋭さを増した。 

「・・・・ご、ごめんなさい。アリ様」 

 暫くそうして、蛇に睨まれた蛙のように見つめ合った末、ウォルターは何とか正解を導き出す。 

「それでいい。しかしそれは、何に対しての謝罪だ?」 

「アリ様を、私室で殿下と呼んだから」 

 ウォルターが、きりきりと胸が痛むのを感じつつ言えば、アリスターが小さく息を吐いた。 

「そうか。その謝罪は受け取った。それで?他に何か言うことは?」 

「他に?」 

 息を吐くと同時に、鋭さが緩んだように見えるアリスターの瞳だけれど、それは未だ、いつものような優しさを含んだものではない。 

 「とぼけるな。あの部屋に奴とふたりで居て、本当に何もされなかったのか、と聞いているんだ。今の謝罪に、それは含まれていないのか?」 

 アリスターの問いに、ウォルターは目を見開いて固まってしまう。 

「なっ!何を言いたいのかと思えば・・アリ様・・なんで・・ぼくを疑っているの?」 

「お前を疑っているわけじゃない」 

「じゃあ、なんで!」 

 アリスターの胸に手を当て、その瞳を覗き込んでウォルターが叫ぶ。 

「部屋に俺以外の奴とふたりきりでいただけでも許せない気持ちになるのに、あの書付は一体なんだ?あの台詞をウォルが言ったと言うことだろう?・・・俺以外のアルファに!」 

「っ」 

 強く腕を掴まれ揺さぶられて、ウォルターは絶句した。 

 アリスターの言っていることは正しい。 

 確かにウォルターは、あの台詞を言った。 

 アリスター以外のアルファに、台詞とはいえ、濡れ場のようなあの言葉を言ったのだ。 

 それが、アリスターをこれほど追い詰めるなど思いもしないで。 

「・・・・分かっているんだ。それが問題解決の為だったことも、あの台詞を、ウォルが望んで言ったわけじゃないことも、そもそもが巻き込まれただけだ、ってことも。頭ではちゃんと分かっている。でも!感情がどうにも付いて行かないんだ。ウォルが、俺以外のアルファと室内にふたりでいた、それだけが、どうしても・・・・!」 

「アリ様・・・」 

 堪えるように顔を俯かせ、全身をぶるぶると震わせながら、それでも拳を握って耐えるアリスターの頬を撫で、ウォルターは自分より大きなアリスターを包み込むように抱き込んだ。 

「ウォル・・・?」 

「アリ様。ぼく、巻き込まれた訳じゃないよ。あの人たち・・アナキン伯爵とフィギス男爵は、ぼくをアリ様の婚約者の座から引きずり下ろしたかったんだから。だから、ぼくがあの場へ連れて行かれた。でもぼくは最初、何も分かっていなかった。ううん。護衛や侍従の動きはおかしいなと思っていたんだ。でも、物事を通して見ることが出来てなかったから、彼らはおかしい、何か企んでいるとは感じていたのに、あそこにチェスターがいたことと結びつけることが出来なかった。結果、おかれた環境がよく分からないまま、安易にチェスターの策に乗ってしまった。しかもその後、ぼくも当事者だってこと、チェスターがあの場にいた意味が分かった時も、万事うまくいってよかった、ってだけ思ってた。それでアリ様がこんなに傷つくなんて考えもしないで。ごめんねアリ様。本当にごめんなさい」 

 涙ぐみ、幾度も謝りながら、しがみつくように抱き締めて来るウォルターのぬくもり。 

 それを確かに感じながらも、アリスターは胸のなかの嵐を抑え込む術を知らない。 

「ウォル・・お前を囲い込んで隠して、俺だけを見つめさせたい。俺だけに溺れて、俺だけを求めるように」 

「アリ様」 

 がぶりと強く耳を食まれ、そのまま首筋に舌を這わされながら、ウォルターはアリスターの頭を愛しそうに抱え込む。 

「いいよ・・・アリ様の好きにして」 

「・・・後悔するぞ?今日の・・今の俺は、かなりおかしい」 

 脅すように言うアリスターに、ウォルターは、うっとりとするような笑みを浮かべた。 

「アリ様・・・ぼくに、アリ様をたくさんちょうだい?」 

「・・・っっ!」 

 そして、甘えるようにウォルターから口づければ、アリスターの瞳が狂暴なほどの欲に染まり、ウォルターの身体をベッドへと押し付けた。 

 

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