ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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八、|異国《とつくに》の王子

10、

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「ウォルター。今日の茶会では、スタッファン殿下の動向に注意するように。わざと煽るようなことを言って来るかも知れないが、そこから乗せられて、迂闊な発言をしないように気を付けなさい」 

「はい。父様」 

 スタッファンとの茶会を前に身支度を終えたウォルターは、心配する父、エアリー公爵から注意事項を繰り返されていた。 

「今日は、王家の一員として参加するのだから、きちんとした態度で臨むこと」 

「はい。肝に銘じます」 

「だが、嫌なことを幾度も言われるようなら、そう我慢することはない。今日は、王家の一員として参加するけれど、本当にウォルが王家の一員となるかは未定なのだから」 

「おい、エアリー公爵」 

 そこまで黙って話を聞いていたアリスターは、聞き逃せない言葉を聞いたと、胡乱な目でエアリー公爵を見やる。 

「はい。なんでしょうか?殿下」 

「ウォルターが、王家の一員となることは確定だ。なぜなら、この私の伴侶となるのだから」 

「確かに、予定ではそうですね。ですが、予定とは未定ですから」 

 不機嫌さを籠めてアリスターが言うも、エアリー公爵は、涼し気な笑みを湛えたままにそう言った。 

「ああ言えばこう言う・・・まったく、食えない御仁だ」 

「恐れ入ります」 

「父様とアリ様って、仲いいよね。だって、会話のテンポがいいもの」 

 『息が合う証拠だよ』と、屈託なく笑うウォルターに、ふたりは何ともいえない顔をする。 

「それになんか、似ていると思うんだよね。アリ様と父様」 

「「・・・・・」」 

「自分たちでも、そう思わない?気が合うなとか、意見が合うなとか」 

「気が合うなんて、有り得ない」 

「意見が合う?・・むしろ、対岸にいないか?」 

 アリスターとエアリー公爵にとっては、何の冗談かというような話でも、ウォルターにしてみれば真剣に話をしていると分かったふたりは、それぞれ自分の意見を口にした。 

「そうなの?ぼくから見たら、似ている感じなんだけど・・・あ、もしかして。ぼくが大好きっていう共通点があるから、そうぼくには思えるのかな?」 

「ウォルが父様を大好きか。知ってはいても、改めて口にされると嬉しいものだな」 

「確かに。ウォルに大好きと言われると、こう、力が湧く」 

「ほら、意見が合った!」 

 嬉しそうに言うウォルターに、アリスターとエアリー公爵は目を合わせて、互いに嫌そうな顔になる。 

「「意見が合うというよりは、宿敵」」 

 そしてふたりは、同時に言い切った。 

 

 

 

「ほう・・・これは、素晴らしい茶器ですね」 

 茶会の席で、スタッファンは出された茶器を賞賛した。 

「恐れ入ります。我が国で作られる、最高峰の品です」 

 この茶会で、茶器の選定を任されていたウォルターは、賛辞の言葉にほっと息を吐く。 

 

 良かった。 

 王妃陛下が最終確認をしてくれたとはいえ、結構自由に選ばせてくれていたから、どきどきした。 

 ・・・まあ。 

 スタッファン殿下の為人ひととなりを知った今は、オメガであるぼくと王妃陛下が選んだって知った時、どう出るかもどきどきものだけど。 

 

「公爵家のオメガが説明するということは、選んだのは」 

「はい。わたくしです」 

 途端、侮蔑の色がスタッファンの目に浮かんだのを見たウォルターは、王妃を巻き込むことは無いと判断し、そう答えた。 

「なるほど。流石、晩餐会の席も、茶会の席もオメガが同席する国ですね。わたくしの祖国では、考えられません。客人に、オメガが選んだ品を出すなど」 

「ですが、お褒めくださいましたよね?」 

 微笑みを絶やさないまま、ウォルターは静かに言葉を紡ぐ。 

「品を誉めたのです。公爵家のオメガの審美眼を誉めたわけではありませんよ」 

 忌々しそうに言われ、ウォルターが許可を求めるように王妃を見れば、いい笑顔での頷きが返った。 

「この品を作ったのは、オメガです。彼が生み出す作品は、緻密で繊細なうえ、使い心地も最高の逸品なのです。アルブム王国の王子殿下も、そうお感じになられたのではありませんか?」 

 やんわりと言ったウォルターを、スタッファンがじろりと睨む。 

「思うわけがない。オメガが作った品だと知って入れば、絶対に誉めなかった。まったく。いいですか。オメガとは下等な生き物なのです。アルファの温情なくては生きていけない哀れな存在。そんな奴らが作った品を出すなど、客であるわたくしと、わが国を冒涜する所業です。オメガなど汚らわしい。もてなすどころか、不快にさせるとは」 

「確かに、国によって思想は異なりますからね。私も、そちらの国へお邪魔する際には、そちらの国に合わせましょう。郷に入れば郷に従えと言いますものね」 

 優雅にカップを扱いながら、言葉優しく言った王妃をスタッファンは鼻で笑った。 

「つまり。ここは、そちらの国なのだから、その方針に従えと・・・ふっ。オメガのくせに」 

「いやいや、殿下。それは、王妃がオメガということとは関係ない。我らとて、客人が居心地よく過ごせるよう、細心の注意を払う。しかし如何せん、わが国はオメガも活躍しておる関係で、どうしてもそちらの国に添わないこともあるということ。そして、その反対も、もちろんあるということで・・・そうですな。殊に、オメガを侮蔑する行為、発言などは、わが国では言語道断です」 

 そして、あからさまに王妃を蔑視したスタッファンに、国王が笑顔のまま、厳しい言葉を発した。 

 

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