プリンなんだから食えばわかる

てぃきん南蛮

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キッチンから覗いた反応は、予想していなかったわけではなかった。
「なんだ?コレ」
「ジャパンの料理だってよ」
「揚げものか?こんなのが?」
誰も彼もが董哉の作った唐揚げを怪しんで、一切手をつけようとしない。中には口をつけてもいないのに舌を出して嫌そうなアピールをする。
揃いも揃って食べてもいない料理を貶すその傲慢な態度に、董哉の今まで抑えていた蓋をしたものが、吹きこぼれそうになるのを感じた。
別に董哉自身がどう蔑まれようが関係ない。人の好みに関する印象なんてそれぞれだ。
だが、食べてもいない料理を貶される、食そのものへの侮辱だけはどうにも許すことができなかった。
「お、おい……気持ちは分かるがカッとなるなよ?」
「大丈夫…………大丈夫」
董哉の顔を見て、ギョッとした1人のコックが宥めるように声をかける。プライドの高いここのコックにあるまじき、狼狽えた声だったがおかげで少し冷静になれた。
苛立つ気持ちは高まれど、彼らはこの食堂の客だ。そして董哉は進行形で勤務しているただのバイトだ。
運ばなければいけない料理はまだ残っている。煮える思いを飲み込んで、他の料理のが盛り付けられたトレイを取る。
キッチンを出た瞬間、まとわりつく好奇の視線と嘲笑。そのくせ距離だけ一丁前に置いて、董哉へと道を譲る。
トレイを置くところまではまだ良かった。しかし、振り返った瞬間にもうダメかもしれないと、半ば諦めていたかもしれない。
キッチンへの道を塞ぐように、フレッドが立っていた。
「なあ、コレお前が作ったんだって?」
コレ、とフレッドは唐揚げを見せつける。唐揚げは箸もフォークも使われることなく、素手で摘まれていた。
「ああ、何言ってもお前は聞こえないんだったな?でもこんなの作ったのは意外だったよ。まさか日本のオメガでもフライドチキンが作れるなんてな?」
フレッドの演説がかった煽り文句に、同調すふように周囲が吹き出した。
「残念だったな、そんなに日本料理が作りたきゃ、日本のオウチで食ってろ。こんなの俺たちの口に合わないんだよ」
そう告げながら、フレッドは指で摘んだ唐揚げを董哉の口に押し込もうとするように押し付けた。
「オメガの作ったメシなんか食えるかよ」
フレッドの一言で董哉が抑え込んでいたものが全て吹き飛んで、ひっくり返った。
董哉は左手で唐揚げを奪い取り、右手で胸ぐらを掴み寄せる。
「差別主義もいい加減にしろ、ボケカス!!!」
腹の底から出た日本語に、目の前まで近づいたフレッドの顔は唖然としていた。
しかし、この程度で怒りが収まるなら、董哉の腑は今煮えくり帰っていない。
「全部聞こえてんだよ、自由の国の面汚しども!!どいつもこいつもガキみたいな難癖つけてんじゃねぇ!!!」

そしてついに、董哉は左手に持ったままの唐揚げを、ポカンと空いたままのフレッドの口に突っ込んだ。

「食う食わないは勝手にしろ!!だけどな!!食は作るのも、食べるのも、平等の権利だ!!!」
董哉が力の限り叫ぶと、食堂の兵士たちは水を打ったように静まり返った。食堂だけではない、まだ調理器具を動かしている筈のキッチンからすら、物音ひとつ聞こえてこない。
当然だ。英語ならまだしも、日本語で全てをぶちまけたのだ。オメガの猿が突然騒ぎ立てれば怖くもなるだろう。
それでも、黙ってくれたことは董哉にとって好都合だった。目の前のフレッドを押せば、彼はすんなりと道を譲った。
カツカツと足音を鳴らしてキッチンに戻れば、おっかなびっくりな視線が董哉に突き刺さる。その中からヘンリーを探し、声をかける。
「今日はもう体調が悪いので帰る。いいかい、ヘンリー」
「え、おお……」
肯定とも否定ともつかない返事だったが、董哉は自身の都合よく捉えた。いつもだったら曖昧なまま終わらせたりはしないが、今日はもう何も考えたくなかった。
その場でエプロンを外しながら、キッチンを後にする。背中にずっと刺さる視線は、いつも通り気づかないフリをした。
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