3 / 19
3
しおりを挟む
アジア人のオメガなんぞに軍の敷居を跨がれたくない。フレッド達の根底にはそんな考えがあることが言動から伝わってきた。
その日以降、フレッド達はわざわざ董哉に嫌がらせをする為に今まで見向きもしなかった食堂を利用するようになった。
……確かにアメリカでは事故を防ぐためにオメガの入隊は禁止されていることもあり、フレッド達の考え自体はわからなくもない。
しかし、董哉は別に兵隊ではない。ただの料理人で、然るべき許可も得てキッチンに立っている。
詰まるところ、フレッド達にどうこう言われる筋合いなどなかった。
董哉に構う時間をもっと有効活用した方がいいのではないかと思ったが、流石に直接伝えるような真似はしない。変なやっかみを受けること間違いなしだったから。
勿論、ヘンリー達も董哉が兵士達から差別を受けていることなど把握している。しかし、彼らもオメガは劣っているという考えは簡単に拭えないらしく、嫌がらせを受ける董哉を励ましこそすれど助けることはしなかった。
こうなってしまえばお手上げだ。董哉はもう諦めて、ただ黙々と雑用をこなすしかなかった。
「やあ、トーヤ!ちょっといいか?」
そんなこんなで耐え忍ぶように雑用をこなしていたある日。キッチンの掃除をしていた董哉はヘンリーに声をかけられた。
「お前は大学でも料理を専攻しているんだよな?なら、日本料理も作れるか?」
「一応、ある程度なら」
「相変わらず歯切れの悪い答えだなぁ……まあいいや。実は食堂に新しいメニューを追加しようと思うんだ。そこで、君に新メニューを頼みたいと思う」
思ってもいなかった提案に、董哉の目の色が変わる。
「お、俺が作ってもいいんですか!?」
「そう言ってるだろう?それで、やるのかい?」
「やります!!」
食い気味に答えた董哉に、ヘンリーも苦笑いを浮かべた。
「おお、こんなに元気な返事をするトーヤは初めて見たよ。なんならさっき聞いたように、日本食でも構わない。あ、でも流石に寿司はコストが高すぎるかな」
「寿司は俺も握れません」
素直にできないことを伝えると、ヘンリーは意外そうに聞き返した。
「日本人は全員寿司が握れるんじゃないのか?」
「ちゃんとした店が出している寿司は日本でも高価な料理ですよ」
「そうなんだ?知らなかった。なんにせよ、一度作ったら僕の元に持ってきてほしい。それじゃあ、よろしく頼むよ」
ヘンリーがキッチンを出て行くのを見届けてから、董哉は思いっきりガッツポーズをした。小躍りしそうなほど有り余ったエネルギーを掃除に充てるが、まだまだ有り余る程に体が軽い。
やっと自分の実力が認められた気がした。耐えれこそすれど、不快だった日々が報われた気がした。
気分よく掃除しながら、董哉はアレコレと思い浮かぶメニューを思考する。
真っ先に思い浮かんだのはトンカツだったが、ビュッフェ形式では出しづらいかもしれない。かと言って卵焼き等はシンプル過ぎる。アメリカ人の舌を納得させるには、やはり最初はガツンとインパクトのある料理が良いだろう。
ああ、メニューを考えているだけで思考が止まらない。やはり自分は料理が好きなのだと、董哉は再確認した。
ヘンリーからの提案を受けて早2日。董哉は早速試作品をタッパーに詰めてヘンリーの元へ持っていった。
まさか2日で物を持ってくるとは思わなかったのだろう。董哉の行動力の高さにヘンリーも驚いていた。
「こんなに早く持ってくるとは思わなかった!それで、これはなんだい?」
「唐揚げです」
「カラアゲ……」
ヘンリーはプスリとフォークで唐揚げを1刺し、まじまじと観察する。
唐揚げなら、濃い味を好むアメリカ人の舌も満足させられるだろうという魂胆だ。何より、ケチャップやマヨネーズ、マスタードなど好みの味付けなども自由自在。
ヘンリーも訝しみながらも唐揚げを一口。サク、と音を立てて暫くヘンリーは咀嚼し、そして彼はサムズアップをした。
「いいね、カラアゲ!美味しいよ!でも折角の肉料理ならもう少し濃い味があってもいいかな」
「そう思って、ケチャップも持ってきました」
「わあ!トーヤ、君はなんて気が効くんだ!」
差し出したケチャップをヘンリーは他にもあった唐揚げにぶっかけて再び齧り付く。するとヘンリーは先程よりも深く頷いた。
「これはとてもいい!よし、カラアゲを早速新しいメニューに追加しよう!勿論、作るのは君だ!材料を仕入れるから何を使っているのか教えてくれ」
「はい!材料をは鶏もも肉、生姜、片栗粉……」
その日以降、フレッド達はわざわざ董哉に嫌がらせをする為に今まで見向きもしなかった食堂を利用するようになった。
……確かにアメリカでは事故を防ぐためにオメガの入隊は禁止されていることもあり、フレッド達の考え自体はわからなくもない。
しかし、董哉は別に兵隊ではない。ただの料理人で、然るべき許可も得てキッチンに立っている。
詰まるところ、フレッド達にどうこう言われる筋合いなどなかった。
董哉に構う時間をもっと有効活用した方がいいのではないかと思ったが、流石に直接伝えるような真似はしない。変なやっかみを受けること間違いなしだったから。
勿論、ヘンリー達も董哉が兵士達から差別を受けていることなど把握している。しかし、彼らもオメガは劣っているという考えは簡単に拭えないらしく、嫌がらせを受ける董哉を励ましこそすれど助けることはしなかった。
こうなってしまえばお手上げだ。董哉はもう諦めて、ただ黙々と雑用をこなすしかなかった。
「やあ、トーヤ!ちょっといいか?」
そんなこんなで耐え忍ぶように雑用をこなしていたある日。キッチンの掃除をしていた董哉はヘンリーに声をかけられた。
「お前は大学でも料理を専攻しているんだよな?なら、日本料理も作れるか?」
「一応、ある程度なら」
「相変わらず歯切れの悪い答えだなぁ……まあいいや。実は食堂に新しいメニューを追加しようと思うんだ。そこで、君に新メニューを頼みたいと思う」
思ってもいなかった提案に、董哉の目の色が変わる。
「お、俺が作ってもいいんですか!?」
「そう言ってるだろう?それで、やるのかい?」
「やります!!」
食い気味に答えた董哉に、ヘンリーも苦笑いを浮かべた。
「おお、こんなに元気な返事をするトーヤは初めて見たよ。なんならさっき聞いたように、日本食でも構わない。あ、でも流石に寿司はコストが高すぎるかな」
「寿司は俺も握れません」
素直にできないことを伝えると、ヘンリーは意外そうに聞き返した。
「日本人は全員寿司が握れるんじゃないのか?」
「ちゃんとした店が出している寿司は日本でも高価な料理ですよ」
「そうなんだ?知らなかった。なんにせよ、一度作ったら僕の元に持ってきてほしい。それじゃあ、よろしく頼むよ」
ヘンリーがキッチンを出て行くのを見届けてから、董哉は思いっきりガッツポーズをした。小躍りしそうなほど有り余ったエネルギーを掃除に充てるが、まだまだ有り余る程に体が軽い。
やっと自分の実力が認められた気がした。耐えれこそすれど、不快だった日々が報われた気がした。
気分よく掃除しながら、董哉はアレコレと思い浮かぶメニューを思考する。
真っ先に思い浮かんだのはトンカツだったが、ビュッフェ形式では出しづらいかもしれない。かと言って卵焼き等はシンプル過ぎる。アメリカ人の舌を納得させるには、やはり最初はガツンとインパクトのある料理が良いだろう。
ああ、メニューを考えているだけで思考が止まらない。やはり自分は料理が好きなのだと、董哉は再確認した。
ヘンリーからの提案を受けて早2日。董哉は早速試作品をタッパーに詰めてヘンリーの元へ持っていった。
まさか2日で物を持ってくるとは思わなかったのだろう。董哉の行動力の高さにヘンリーも驚いていた。
「こんなに早く持ってくるとは思わなかった!それで、これはなんだい?」
「唐揚げです」
「カラアゲ……」
ヘンリーはプスリとフォークで唐揚げを1刺し、まじまじと観察する。
唐揚げなら、濃い味を好むアメリカ人の舌も満足させられるだろうという魂胆だ。何より、ケチャップやマヨネーズ、マスタードなど好みの味付けなども自由自在。
ヘンリーも訝しみながらも唐揚げを一口。サク、と音を立てて暫くヘンリーは咀嚼し、そして彼はサムズアップをした。
「いいね、カラアゲ!美味しいよ!でも折角の肉料理ならもう少し濃い味があってもいいかな」
「そう思って、ケチャップも持ってきました」
「わあ!トーヤ、君はなんて気が効くんだ!」
差し出したケチャップをヘンリーは他にもあった唐揚げにぶっかけて再び齧り付く。するとヘンリーは先程よりも深く頷いた。
「これはとてもいい!よし、カラアゲを早速新しいメニューに追加しよう!勿論、作るのは君だ!材料を仕入れるから何を使っているのか教えてくれ」
「はい!材料をは鶏もも肉、生姜、片栗粉……」
28
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~
大波小波
BL
鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。
彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。
和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。
祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。
夕食も共にするほど、親しくなった二人。
しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。
それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。
浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。
そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。
彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる