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しおりを挟む董哉のシフトは週に4日入っている。勉強やシフトの都合で多少ズレるが、基本的に平日3日、土日のどちらかに1日の割合だ。
普段は休日でも午後からのシフトだが、今日は時間をずらして朝から入れてもらっていた。
午前中の雑用や下準備を終え、昼休憩に入る。普段ならばスタッフ用の出入り口で自作弁当を食べているところだが、エプロンだけを置いて再びキッチンに戻る。
再びキッチンに戻ってきた董哉に、コック達は二度見した。そりゃそうだろう。董哉は苦笑いを返して、ホールへと出る。
ちょうど兵士達の休憩時間が重なる時間に休憩を入れたので、お目当ての人物は10分後に現れた。
「……お前、なんでここに」
董哉の姿を目にしたフレッドは、あからさまに苦い顔をした。嫌われてはいないと思っていたが、こうも露骨に扱いづらそうな反応をされると、それはそれで快くはない。
「一度しっかり話そうと思って」
「俺はない。さっさとキッチンに籠ってろ」
「今日はフレッドと話す為に休憩を貰った」
フレッドは不服そうに唇を若干尖らせた後、董哉をスルーして料理を盛り付けるための皿を手にする。
対して董哉は臆することなく、フレッドの隣をキープして、同じように料理を取る。まさか一緒に食事を取るとは思わなかったのだろう。流石にフレッドもギョッと董哉の行動に驚いていた。
こういう時、下手に引くと弱気なオメガとみくびられる。強気で行くのが大切だと、董哉は学んでいた。
因みに軍の関係者であれば、この食堂は誰でも利用可能であり、董哉も例外ではない。その代わり、1回の利用で給料から天引きされる仕組みなので、董哉はわざわざ今日のためにお金を払って利用している。
結局フレッドがついた席の向かい側に、董哉も席を付けた。
オメガを快く思わないアルファと、そんなアルファに助けられたオメガ。奇妙な組み合わせに、周りの兵士は興味深々なようだ。2人をクスクスと笑う人もいれば、チラチラと伺う視線だけをよこす人もいる。周囲の視線にフレッドは居心地が悪そうにしているが、董哉は特に気にしない。好奇の視線に晒されるのはもう慣れた。
フォークでフライドポテトを突きながら、董哉の意識はずっとフレッドに向いていた。董哉の関心に対し、フレッドは目を合わせる事なく鼻で笑った。
「アジア人ってのは随分単純だな?ちっさい恩1つで白々しかった態度をコロッと変えやがる」
「小さくない」
以前だったらシカトをしていた嫌味に、間髪入れずに董哉は答えた。あまりにも早い食いつきだったからか、フレッドの丸い目とが董哉を見た。
「あの時、助けられた恩は、小さくない」
ハッキリ、訴えるように繰り返した。
金銭面だけじゃない。親しい者など誰もいない異国で、やれアジア人だオメガだとヤジを投げられる敵だらけの頼り辛い環境で。見返りを求めずに助けてくれた事実は、董哉にとって決して小さくはない大恩だった。
「だから、フレッドのことを知りたい」
そしてフレッドという人物にも興味が湧いた。軍人としてはエリートだが、人格は差別意識を持つわりとイヤなやつ。その印象自体は今も変わってはいない。
だからこそ、何故董哉を助けてくれたのか。その真意を知りたいと、知るべきだと感じたのだ。
董哉はフォークを置いてフレッドを見据える。その愚直とも言える視線に耐えきれなくなったフレッドは、空いた手で居心地悪そうに自身の頭を掻きむしった。
「……じゃあお前は恩の為なら何でもするってか?」
「何でもは流石に無理。学生だから、お金は特に」
あっけらかんと答える董哉に、フレッドは苛立ちを通り越して呆れたらしい。自分で掻きむしってボサボサにした金髪を雑にかき上げた。
「学生の俺でもできる範囲の、少しでもフレッドに返せること」
「…………なら、メシ」
「え?」
英単語の真意が分からず、董哉は聞き返した。フレッドは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「なんでもいいからメシ作ってよこせって言ってんだよ」
「え、でも……」
『オメガの作ったメシなんか食えるかよ』
あの時唯一真正面から董哉の料理を罵倒した本人こそ、目の前のフレッドだ。流石に口にはしなかったが、董哉の正直な感想は「どの口が言ってんだ」である。
フレッドも頓珍漢なことを言っている自覚はあるらしい。まだトレイの上には食材が残っているのに、ヤケになったように立ち上がった。
さっさと何処かへ行ってしまいそうなフレッドの腕を、董哉は慌てて掴んだ。軍人らしく太くて逞しい腕は董哉の片手では止めきれず、両手で掴む羽目になった。
結果的にしがみつくような形になったことに董哉本人は気づいていないが、しがみつかれたフレッドは目を白黒させて立ち止まった。
「わかった、作る!作るから、自分で取った料理は責任を持って全部食べろ!勿体無い!」
せめて自分の目の前で食材を捨てることは許さない。固まったままのフレッドに董哉はずい、と顔を近づけるが、180cmはゆうに超えるフレッドとの距離はあまり縮まっていない。こういう時、人種差に歯噛みしたくなる。
これでもかと、背伸びする勢いで近づくと、フレッドは両手で持っていたトレイを片手に持ち替え、空いた片手で董哉を引き剥がした。現役軍人の力に敵うはずもなく、董哉は抵抗する間もなく距離を置かれた。
「分かったから、オメガが俺に近づくな」
突き放すようにそれだけ告げて、フレッドは先ほどまで座っていた席に戻った。
触るなというくせに、オメガのメシが食いたいという。チグハグな発言に、董哉はよりフレッドという人間がよくわからなくなった。
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