あなたの愛はもう要りません。

たろ

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3話

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 バァズの屋敷の前を通り過ぎてクーパーの屋敷まで行こうとしたので慌てて「ここで停めてください!」と御者のおじさんにお願いした。

「屋敷まで送るよ」

「ううん、駄目。バァズが何言われるかわからないわ」

「平気だよ」

「駄目。私はここから歩いて帰るから。あと10分くらい歩けばいいだけだもの」

 馬車を降りた私がチラリとバァズの屋敷ではなく少し離れたところへ目線を移したのを見ていたバァズは、馬車の中から顔を出したまま悔しそうに唇を噛んだ。

 あ……

 私の考えていることがなんとなくわかったのだろう。バァズに何か言い訳しなければと頭を働かせるも、何も思い付かなかった。

 だって、多分正解だから。

 私が思わず見てしまったのは、私が生まれ育った実家の屋敷。

 良い思い出ばかりがあるわけではない。でも、母との大切な思い出が詰まった屋敷ではあることも確か。

『結婚したからには二度とこの屋敷には戻ってくるな』

 父から屋敷を追い出された時に言われた言葉。

 あの場所はもう私には関係のない場所になってしまった。

 そう思うと胸がズキッと痛んだ。

 母とよく歩いた散歩道。今日はゆっくりと歩いた。今、私が暮らしているクーパー侯爵邸へと向かう。

 帰ったら部屋には山積みになった書類の山があるんだろうな。

 気が重くなりながらも懐かしい道を歩いた。

 バァズのおかげで美味しいチョコレートも食べられたし、残りは鞄に入れてるし、しばらくは楽しみながら過ごせそう。

 ダイガットはまだデート中で帰ってこないだろうし、考えてみたらいい事だらけかもしれない。



 侯爵邸に着くと門番が私に気がついてすぐに門を開けてくれた。

「お帰りなさいませ」

 門番さんたちは、私に対しても優しく接してくれる。もちろんそれが仕事なのだろうけど、16歳の小娘。一応ダイガットと結婚してるとは言え、政略であり、ある意味人質的なところも含まれた結婚。

 互いの家が、裏切らないように、私はそのためだけにダイガットに嫁いだ。

 ううん、ダイガットの屋敷に、体よく捨てられた。

 どちらにも利のある今回の共同で行われた土地開発。どちらかが裏切れば国まで巻き込む大きな問題になるかもしれないらしい。

 そんな大変な事業に、ダイガットはともかく、家族に相手にされていない私を使っても、上手くいくのかしら?

 屋敷に帰ると、裏に周り使用人たちが使う玄関から屋敷の中に入る。

 使用人たちが使う部屋を通り過ぎ、侯爵家の人たちが使う2階の階段は使わず、1階の大広間や客室、台所を通り過ぎて、奥にある離れの部屋にたどり着いた。

 正面玄関からならぐるっと大回りしなくてもいいのだけど、私が玄関を使う許可はおりていない。

 仕方なく毎回大回りして自分の部屋へ行く。

 まあ、簡単にいうと使用人部屋の前を通って、人気のない離れ部屋に住んでいるんだよね。

 ここは……天国!

 最高なの。窓を開けると木々が広がり、優しい風の音が耳に心地良い。

 裏庭といっても朝日が入るし、夜空が綺麗だし、お風呂もしっかり掃除をして磨き上げたのでとっても気持ちよく入れる。

「あああ、疲れたぁ……」

 ベッドにガバッと倒れてしばらくボーッとしていた。チラリと横目で机の上を見ると、やはり書類が。

 はいはい、今日も侯爵家の嫁として働けということよね。

 ダイガットは恋人とイチャイチャ中なのになんで私だけが……と愚痴りたくなるけど、親に捨てられた私はとりあえず授業料と生活費をこの屋敷の人に出してもらっているから働くしかないか………

 頑張ろ。うん、頑張ろ、うん、でもお腹すいたな。



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