あなたの愛はもう要りません。

たろ

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13話

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 男の人の声に思わずビクッと体が震えた。

 自分は何もしていない。

 勝手にフランソア様が転んだ?いや、わざとらしく倒れただけ。

 そして私がまるで転ばせたかのように悲しそうに痛々しくしているだけ。

 まるで劇でも見せられているみたい。

 ああ、そうか……ダイガットとフランソア様が二人でイチャイチャ、仲良く、くっついているのを見ると、嫉妬しているわけではないけど、なんとも言い難い、モヤモヤした、胸糞悪い気持ちになるのは多分フランソア様が私の前で態とこんなクソ面白くもない、くさい演技ばかりを見せるからなのか。

 そして今度は新たなくさい劇に巻き込まれたみたい。

「おい!何をしたんだ!」

 フランソア様のそばでよく見かける同級生の令息がフランソア様に駆け寄っていた。
 そしてもう一人の令息は私の腕をギュッと力一杯握りしめて捻り上げた。

「痛っ!!」

「はっ?何が痛いんだ。転んでいるフランソア様が見えないのか?」

「フランソア様の膝から血が出てる!貴様!許さないからな!」

「あ、こいつ!ダイガットの屋敷の使用人だ!」

 使用人ではありません。最近、屋敷の方達からダイガットの妻だと認められ始めたので。使用人は卒業かな。
 でもこれはまだ正式に発表されていないけど。このまま、何もバレなくて自然にフェードアウトして私は離縁する予定なので。

「二人とも、ビアンカ様を責めないであげて」

 うん?まるで私が悪者みたいに遠回しに言ってる?フランソア様がそれを言ったら、もう認めているのと同じだよね?

「………」
 私は反論も肯定もしなかった。
 面倒くさい。

 それに二人の形相がこわすぎて、ここで言い訳でもすればさらに悪化しそうな気がした。

「謝れ!」

 腕を捻り上げられた。

「こいつ、生意気だな!」

 フランソア様は抱きかかえられて弱々しく私を見た。

「いいの、ビアンカ様を許してあげて」


「フランソア!」

 ああこの声は……ここで主人公が登場!

 うん、フランソア劇場はしっかり彼女が初めから計画を立ててたみたいね。

 ダイガットが驚きフランソア様に近づくと「どうしたんだ?」と優しく声をかけた。

 フランソア様を抱きかかえていた令息から話を聞きつつ、すぐにフランソア様を自分が抱きかかえた。
 まるで大切な宝物を受け取るような仕草で。

 少し離れた場所で私は腕を捻られたまま青い顔をしていた。

 だって腕が痛いんだもの。

 謝罪しようとしない私に力を緩めようとしない。

「ビアンカ、謝れ!お前はなぜこんなことをするんだ?」

「ダイガット、こいつ、謝ろうともしないんだ!」

「ほんと生意気な奴だ!」

「懲らしめるためにこいつもフランソア様と同じ目に合わせてやろう」

 私の腕を掴んでいた令息が愉しそうに嗤いを含めた声で「生意気なんだ!」と言って突き飛ばした。

 男の人の力は強い。

 思いっきり地面に突き飛ばされ体を強く打った。

「ははっ、言い様だ!」
「自業自得さ」




「おい!お前達!何をしている!」

 ダイガットが言った言葉ではない。私を嫌ってる夫が助けてくれるはずはない。

 この声は………

「そこの女子生徒は勝手に転んだだけだ。俺たちは上から見てたぞ」

 ふと転んだまま見上げると二人の先生が、裏庭の旧校舎の2階から先生が二人こちらを見ていた。

「お前達が騒がしいから窓から覗いてみれば、そこの女子が一人で勝手に転んで、もう一人の女子のせいにしているのを見ていたぞ。そこにわざとらしく男子が二人やって来た。理由も聞かず女子を責めて、今度はダイガット、お前は何もわかっていないくせに何もしていない女子を責めていたな」

「そこの女子!血が出ているし服も汚れている。そこで待っていろ!医務室に連れて行くから」

 先生二人が急いで旧校舎から出て来た。

 見てたのなら早く助けてくれればいいのに。恨めしそうに一人の先生を睨んだ。

 擦りむいた腕と膝を確認している先生に小声で話しかけた。

「兄様、早く助けてくれればいいのに」
「なかなか面白い芝居だったからな、つい見ていたくてな」
「酷い」
「でもあのフランソア、性格悪いな。バァズから聞いてるが、お前、負けてるぞ」

 そう彼はこの学園の教師で、バァズの兄のブラッド。私の幼馴染で幼い頃から兄様と呼んでいた。最近は関わりもなく会っても先生と生徒として挨拶をするくらいの関係。




「お前達、大の男が三人で何もしていない女子を責めるなんて何を考えているんだ。もっと状況を確認してから行動しろ!それも突き飛ばして怪我をさせるなんて。これは問題にするからな!」

「職員室に来い!」

「もう一人の女子は、膝から血が出ているらしいな。医務室に自分で歩いて来い!」

 ニヤリと笑ったブラッドは「どこに血が出てるか見てやるよ」と言った。

 だって膝を擦りむいたなんて言ってるけど、ほんの少し、どこを?くらいしか擦りいていない。ううん、多分擦りむいてもいないし血も出ていないはず。

 チラリと私だって彼女の怪我を確認したんだもの。

 真っ青になったフランソア様は「たいしたことありませんので」と逃げようとした。

 でも先生二人が「のちのち問題になるといけない。医務室に行って医師に診てもらい診断書を書いてもらおう。俺たちからは勝手に転んだことも証言しておかないといけないからな」と真面目な顔で言った。


 うん、そうだよね、これ以上私のせいにされては困るもの。








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