あなたの愛はもう要りません。

たろ

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55話

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 今日はオリソン国で暮らすようになって初めて親しくなったオリエ様に招待されて家へ遊びに行った。

 彼女は婚約者?元夫?のイアン様と暮らしていた。

 そこにはミーシャさんというこの家でお手伝いをしている女の子が一緒に暮らしていた。

 昼間は学校へ通い、朝と夜はこの家でお手伝いとして働いている。

 私と同じ歳のミーシャさんはとても明るく可愛らしい。

「一応シャトナー国の貴族の娘だったの……と言っても準男爵でほとんど平民と変わりはなくて、生活もままならなくて従兄弟のギルがこの国に来ていると知って私も思いきってこの国へきて暮らすことにしたの」

 そんな説明をしてくれるミーシャさんにオリエ様は優しく微笑んで見ていた。

 まるで妹を愛しむように。

 使用人の彼女をオリエ様は心から大切にしているのがわかる。


「ミーシャ、料理が出し終わったら一緒に食事をしましょう。ビアンカ様は貴女と同じ歳なのよ?この国の学校のことは貴女の方が詳しいから話をしてあげてほしいの」

「はい、もう少しお待ちください」

 テキパキとお料理を出すミーシャさんに「お手伝いさせてください」と席を立った。

「え?お嬢様にそんなことさせられません!」

「私、ずっと侯爵家で使用人のお仕事をお手伝いしてきたので得意ですよ?」

「……じゃあ、お願いできますか?」

「もちろんです」

「ミーシャ、わたしもお手伝いを……」

「駄目です!オリエ様はじっとしていてください!貴女が無駄に動くとせっかく綺麗に飾ったお料理がテーブルに置いた時にはグシャっとなってしまいます!」

 慌ててオリエ様に動かないように叫ぶミーシャさん。

 驚いた顔をした私に苦笑いした。

「オリエ様には家庭的な仕事は壊滅的なんです。騎士としても令嬢としても本当に優秀なんですけどお料理に関することは食べること以外壊滅的です」

「あら?酷いわ。わたしだって努力はしているのよ?」

「知っております。でも今日はやり直すほどの材料も時間もありませんので食べることに集中してください」

「はーい」

 オリエ様がクスクス笑いながら椅子に大人しく座り直した。

 二人の関係が羨ましくて思わず見惚れていたら「どうしました?」と聞かれた。

「とても羨ましくて」

「オリエ様って素敵でしょう?元公爵令嬢で元王太子妃様だったなんて言われなければわからないくらい、今は騎士服が似合っているんです」

「騎士服似合ってるかしら?」

「とても素敵です!」

 私も思わず声が大きくなってしまった。

 この国に来て自分の夢だった騎士になった。本当はとても苦労したと思う。それでも夢を諦めずに努力をしてきたのが、彼女の手を見ればわかる。

 とても綺麗な手のひらにはたくさんのマメができていた。そしてよく見ると服で隠しているけど袖の間から傷跡が見え隠れした。

 それを彼女は恥ずかしがることなく笑って「これはわたしの誇りなの」と言った。

 その後、ミーシャさんの従弟でオリエ様が幼い頃から可愛がっているというギルくんが顔を出した。

「こんにちは、ビアンカ様!」

 元気で明るいギルくんが現れて部屋の中はさらに賑やかになった。

 侯爵家で使用人達と過ごしたあの楽しい時間を思い出された。

 みんな大好きだった。オリエ様が二人といる時とても楽しそうにしているのを横でそっと見ていると目が合った。

 彼女は私ににこりと微笑むと「ビアンカ様は二人と気が合うと思ったの。思った通りでよかったわ」と言ってくれた。

「はい、二人とも素敵な方達です」

「ビアンカ様はこれからこの国で学校へ通ってはどうかなと思っているの。この国は平民も貴族も関係なく勉強をしたいと思えば誰でも通えるのよ?貴女のお祖母様も貴女がまだ学生として過ごすことを望んでいるわ」

「私も……まだたくさん学ばなければいけないことがあると思っています……」

 この国に来てやっとまず自分が何をしたいかわかった。

 ただ屋敷の中でじっとしている生活なんて嫌だ。

 継母の脅威はまだ終わっていない。でもだからと言って怖がってばかりいては前へ進めない。

 逃げるためにこの国に来たのではない。新しい人生を歩き出したい。

「オリエ様……ありがとうございます」

 帰りはフェリックス様が迎えに来てくれた。

「どうだった?」

「とても楽しい時間を過ごせたわ。私この国で学校へ通いたい」

「うん、俺もあと数ヶ月だけど学校へ通うから一緒に通学しよう。
 歩いてなんか行かせないし、一人で馬車にも乗らせない。放課後に図書室で勉強ばかりしなくていいからな。楽しい学校生活を送ろう」

「………知ってたの?」

「知ってたのに何も出来なかった……バァズがいつも報告してくれていたけど俺は……お前の前に顔を出してあげることもできなかった。ダイガットが側近候補でいつもそばにいたからな。あいつをお前に近づけるのだけは阻止するために俺はあいつを見張っているしかなかった……あとは……お前に手を出しそうな奴らをこっそり排除するしかなくて……すまなかった」

 ああ、だからか……一人で歩いていても怖いと感じなかった。なぜか守られているような気持ちになることがあったのは守られていたからなのか……


「フェリックス様の愛って……歪んでて重い……」

 素直にありがとうと言えばいいのに……思わず、心の中で思っていたことが言葉に出てしまった。

 フェリックス様はズーンっと落ち込んでしまって、その姿が可愛くてクスッと笑った。

「………ありがとうございます……守ってくださって……」

「……んっ……」

 フェリックス様の手が私の手をぎゅっと掴んだ。

「手を繋いで学校へ行こう、な?」

「……む、無理です」

 なんなの?この甘い男は?

 いつも私に意地悪ばかりしていた彼の優しさにまだ慣れないでいた。













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