あなたの愛はもう要りません。

たろ

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65話

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 侯爵家に着くとお祖母様が私のそばに駆けつけた。

 いつも穏やかで優しいお祖母様が今はとてもお怒りのようで。

「ビアンカ!大丈夫?大丈夫なんかじゃないわよね?まぁなんて酷い顔、それにそんな格好をして……」

「侯爵夫人、ビアンカ様のお怪我は背中が特にひどく締め付けるドレスを着ることが難しいのです」

 付き添ってくれた女性のお医者様がお祖母様に説明をしてくださった。

「まずはビアンカ様をお部屋にお連れしてゆっくりとさせてあげてください」
 
「そうね、ビアンカ」

 私は心配しないでと小さく微笑んで見せた。

 やっとゆっくりと横になれる。

 仰向けでは眠れないので体を横向きにして傷が当たらないようにベッドで眠る。

 流石に疲れた。

 目を瞑った瞬間、もう意識はなくなった。



 眠りについた後、お祖母様、叔父様家族、そしてオリエ様やミーシャや友人達が代わる代わる部屋に入ってきては、私の顔を覗き込んでいたらしい。

 そして、最後にフェリックス様がやってきて私が目覚めるまでずっとそばにいてくれた。

 どれだけ眠り続けたのだろう。

 重たい瞼を開けた。
 目の前にフェリックス様がいた時は驚いた……でも嬉しかった。

 大好きな彼がそばに居てくれた。

 それだけ不思議に胸が熱くなり心から安心できた。

「起きた?」

「……うん」

「痛みは?」

「まだ……痛いかな……」

「かなり熱が高かったから……心配したんだ」

「熱?が出たの?」

「覚えてない?六日も高熱で寝込んでいたんだよ?」

「あっ………だから体がこんなに怠いの?」

「うん、心配したんだからね?」

 フェリックス様は私の手を握りしめた。その手は少し震えていた。

 眠り続けていた私は何も覚えていないけど、なかなか熱が下がらずお医者様もかなり慌てたらしい。

「喉が渇いた……」

「起き上がれる?」

「……うん」

 いつものようにサッと起きあがろうとするけど体がベッドに張り付いたように重くて起き上がれなかった。

「……起き上がれないみたい」

「待ってて」
 彼はそう言うとグラスをサイドテーブルに置いて私の体を優しく抱き寄せてそっと起こしてくれた。背中には柔らかい大きなクッションを置いてくれた。

 フラフラとして座っているのもきつい。

 それでも彼がグラスを口元に近づけてくれて、水分を取ることができた。

「美味しい」

 水かと思ったらレモン水だった。少し蜂蜜も加えているようでとても美味しかった。

 眠り続けている間、いろんな人がお見舞いに来てくれたと話してくれた。

「ミラー伯爵は、今も騎士団にいてセシリナのことで後始末中だ。ここに姿を見せてはいない」

「そうなんですね……」

 お父様のことを言われるとなんとなく気持ちが落ちる。

 助けに来てくれたのに素直になれない。いつか……お父様を受け入れられる時が来るのだろうか。

 セシリナ様は本当にお父様の子供を身籠もっていると訊いて驚いた。

「赤ちゃんがいるの?」

「ああ、なんで今になって……」

「だからこそ私が邪魔だったのかもしれないですね。お父様の子供は彼女のお腹の中の赤ちゃんだけで十分だだだのでしょうね」

 最初に比べれば傷の痛みも減りあの時の絶望や恐怖心も減って落ち着いてきた。

 だけどまだ学校への登校はやめて、自宅学習へと切り替えている。

 時々、ミーシャ達が遊びにきてくれる。

 学校での楽しい話を聞かせてくれて少しずつ気持ちも落ち着き始めた。

 助けた猫ちゃんは今私のベッドの上で丸まって眠っている。

 あの猫ちゃんを助けたことは後悔していない。

 フェリックス様も猫が可愛いらしく顔を出しては猫と遊び、私と少し話をして帰る。

「しばらくは仕事が忙しくてゆっくり顔を出せないけど毎日会いに来るからね」

 私の頬にキスを落とし「じゃあ明日」と帰って行く。

 今は静かに時間が過ぎるのを待つ。

 継母がもう襲ってくることはない。常に心配と不安の中過ごすことはなくなった。

 だけど、セシリナ様には赤ちゃんがいる。

 異母弟か異母妹……

 もう向こうの国のこと、私には無関係のはず。

 このまま……静かに……何事もなく過ぎますように。





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