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12 普通の女の子 《倫太郎side》
しおりを挟む女子ウケする顔立ちで、サッカーが得意な俺は、物心ついた頃からそこそこモテてきた。
小中学では、何度も女子に告白された。
可愛い子と付き合ったこともある。
けれど、どの恋も長続きしなかった。
最後は決まって、俺がフラれる。
「なんで向こうから告ってきたのに、俺が振られなきゃいけないんだよ……」
女って、わかんねぇ。
そうぼやく俺に、姉の奈緒子が呆れたように言った。
「アンタは女の“表の顔”に騙されすぎなのよ。幸せになりたいなら、同じ女に好かれるような子を選んだら?」
「…………同じ女に好かれる?」
同性から好かれる女の子。
その言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだのが広瀬紬だった。
飛び抜けて美人ってわけじゃないし、勉強ができるタイプでもない。
けれど、いつもクラスの可愛い女子に囲まれて笑っている。
それが、俺の知る広瀬紬の第一印象だった。
興味本位で話してみると、想像通りの心根の優しい良い子だ。
でも、それだけ。
派手顔が好きな俺からしたら、タイプではない。
それなのに――。
高校の委員会で顔を合わせるうちに、いつの間にか目で追うようになる。
化粧っけのないその横顔が、気づけば可愛く見えていた。
思い切って告白すると、紬は驚いたように目を瞬かせて、それから小さく頷いた。
その仕草が、やけに印象に残っている。
それからの俺たちは、放課後に一緒に帰ったりと、無理のない距離で付き合えた。
今までの“恋人ごっこ”とは違って、穏やかな時間だった。
そんな俺たちの関係に、周囲の反応も変わっていった。
「西橋って、女子が途絶えないイメージだったけど……意外と見る目あったのね」
「紬ちゃんのこと、大事にしてるみたいだよ」
紬の彼氏になった途端、一軍の女子たちの態度がやけに柔らかくなった。
正直、悪い気はしなかった。
彼女と付き合うことで、一目置かれるようになったからだ。
俺の高校生活は華やかなものとなった。
でも、そんなことがなくても紬はいい彼女だった。
部活でスタメンを外され、後輩にポジションを奪われたときも、紬はそばにいてくれた。
誰もが「努力が足りない」とか「技術を磨け」と説教してくる中で、紬だけは黙って俺の愚痴を聞き、最後にこう言った。
――倫太郎ならできる。
――私は、倫太郎を信じてる。
何度も何度も繰り返し伝えてくれた。
それだけの言葉で、俺は立ち直れたんだ。
そのおかげで次の試合ではスタメンを奪い返し、以来、二度とベンチに落ちることはなかった。
そして、高校の卒業式でのイベントでは、俺たちはなんとベストカップルにも選ばれた。
毎年、美男美女が選ばれる恒例の賞に、まさか俺が選ばれるとは思ってもみなかった。
絶対にありえないと思っていた栄光を、紬と一緒なら手にすることができたのだ。
紬は普通の女の子だけど、俺にとっては“勝利の女神”そのものだった。
就職してからも、紬は変わらなかった。
仕事がうまくいかず、先輩や上司のせいにして八つ当たりしても、紬はいつも俺を受け止めてくれた。
――大丈夫だよ。私が行くから、無理しないで。
そう言って、紬は仕事を辞めて上京してきた。
家事を引き受け、俺の帰りを待ってくれた。
もしあのとき紬がいなかったら、俺はきっと折れていたと思う。
――仕事がすべてじゃないよ。
――転職したっていい。
そんな言葉で、何度も俺を救ってくれた。
……その優しさに、俺は甘えきっていた。
『紬ちゃんみたいないい子は、そうそういないんだからね! 大切にしなさいよ!』
「わかってるよ、うるせぇな」
奈緒子は、顔を合わせるたびにそう言った。
家族もみんな、紬を気に入っていた。
俺抜きでも食事をしていたし、たぶん俺より可愛がられていたと思う。
そんな紬の優しさは、全部、俺を想っての行動だったのに――。
いつしか俺は、それを“当たり前”だと思うようになっていた。
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