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13 禁断の金 《倫太郎side》
しおりを挟む仕事の付き合いで、飲みに行く機会が増える。
その場には職場の女性もいたし、商売をしている女性がいる店に顔を出すこともあった。
でも、俺は紬を愛している。
結婚するなら、紬しかいない。
だから、後ろめたいことなんてない。
……そう自分に言い聞かせながら、家で待ってくれている紬に「残業だ」と嘘をついた。
すると、紬はいつもより優しくなって、俺を労ってくれた。
夕飯だけでなく、翌日のお弁当まで作り置きしてくれるようになり、そのぶん食費が浮く。
おかげで、心にも懐にも少し余裕ができて、職場の同僚たちに気前よく奢れるようになった。
そんなある夜、柿谷たちと酔った勢いでキャバクラに行った。
俺の好みの女ばかりで、正直、かなり楽しかった。
でも柿谷も彼女持ちだし、キャバクラなんて、ただの遊びだと思っていた。
――なのに、気づけば俺は、ひとりでもその店に通うようになっていた。
『リンくんって、あの大手神崎グループに勤めてるんでしょう?』
『若くてイケメンで、将来有望。気前もいいし、執拗に迫ってこないし、めっちゃいい人だよねー!』
『ダル絡みしてくるお客さん多くて、いつも気疲れしてるから、リンくんが来てくれたら本当嬉しいっ』
『うちらの休憩卓だよー♡』
「好きなだけゆっくりしていけよ」
美人な女たちに持ち上げられながら、俺は余裕のある男を演じていた。
別に、誰かを好きになったわけじゃない。
色恋に溺れたわけでもない。
ただ、あの空間が楽しかった。
誰かに持ち上げられる感覚が、気持ちよかった。
けれどある日、酒を飲みすぎて帰るのが億劫になった夜。
俺は、指名していた姫奈に誘われるまま、ホテルに泊まってしまった。
長く付き合っている彼女がいるから、他の女には絶対に手を出さない――そう公言していた俺が、酒の勢いで一線を越えた。
(…………やっちまった)
紬を裏切ってしまった罪悪感が、胸の奥で静かに疼いた。
姫奈は、胸がデカくて、スカートも短い。
“痴漢してください”と言わんばかりに露出している姫奈は、清楚な紬とは真逆で、姉の奈緒子が最も嫌悪するタイプの女だろう。
(でも、一度寝ただけだし、バレなきゃ大丈夫だろ)
そんな軽い気持ちだった。
けれど、一度踏み込んだら最後、俺は抜け出せなくなった。
姫奈と会うたびに、ダメだとわかっていながら、ずるずると体の関係を続けた。
紬に合わせる顔がなくて、紬が家にいる時間は帰らなくなった。
ホテル代、タクシー代、姫奈へのプレゼント代。
見栄っ張りな俺の性格のせいで、出費はかさみ続けた。
そしていつの間にか、俺は“ふたりで貯めていた結婚資金”に手をつけていた――。
大学時代からの七年間。
ふたりで月に一万円ずつ貯めたお金が、およそ百七十万。
俺たちの目標金額の半分くらいだ。
「この貯金を少し使っても、次のボーナスで補えばいい」
真面目で無駄遣いをしない紬なら、この貯金以外にも結婚資金を貯めているはず。
そのことが分かっていた俺は、禁断の金に手を伸ばした。
(一回だけ……)
そう思っていたのに、一度使ってしまえば歯止めが効かなくなった。
金があれば女も寄ってくる。
姫奈以外の女とも遊び、給料のほとんどを交際費に使った。
そして半年も経たないうちに、貯金は底をついた。
俺たちが七年かけて積み上げてきたものを、俺は自分の欲で壊したのだ。
……紬に合わせる顔がない。
紬は何も悪くないのに、俺は彼女を避けるようになった。
正直に話せば、紬なら許してくれるはずだ。
それはわかっていた。
でも、今の自由な環境を壊したくなくて、俺は紬から逃げた。
――距離を置きたい。
そう言い残してから、俺の返事がなくても毎日届いていた紬からの連絡は、ぷつりと途絶えた。
そして愚かな俺は、その静けさを“解放”だと勘違いしていた。
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