仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん

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 リビングのテーブルを四人で囲む。
 母はすでに利仁さんの容姿に浮き立っていて、さっきからそわそわ落ち着かない。

 一方で、父は違った。
 無口な父は、刑事ドラマで容疑者を見据える警察官のような鋭い眼差しを利仁さんへ向ける。
 あからさまな牽制。
 その沈黙が室内の空気をひやりとさせた。
 そんな中でも利仁さんは、微笑みを崩さず、静かに頭を下げた。


「この度はお時間をいただき、誠にありがとうございます。紬さんとお付き合いさせていただいております、神崎利仁と申します」


 丁寧に名乗り、差し出した名刺を父が受け取る。
 そこに記された肩書き――神崎グループ常務取締役。
 父も母も、息を呑んだまま固まった。

 しばらくして、沈黙を破ったのは母だった。


「……どうして、紬なんですか?」


 混乱と心配と、娘を想う気持ちがそのまま口をついて出たような、切実な問い。
 利仁さんは、ほんの一瞬も迷わず言葉を返した。


「紬さんは、優しい心根を持った方です。それに……僕は紬さんの笑顔が好きなんです。その笑顔を、もっと引き出したいと思ったのがきっかけでした」


 まっすぐで、迷いのない声だった。


「彼女の声を聞くと、仕事の疲れが吹き飛ぶんです。いつも気を張っていた僕が、紬さんといると自然と力が抜けて、また頑張ろうと思える。こんなにも自然体でいられる相手は初めてでした」


 息が詰まるほどの熱量。
 その言葉のひとつひとつが、胸の奥に深く沈んでいく。


「ずっとそばにいてほしくて……先日、婚約を申し込みました。本来なら、先にご挨拶へ伺うべきでしたのに、申し訳ありません。ただ、僕はどうしても、紬さんでなければダメなんです。その代わり、必ず幸せにいたします」

「…………」


 両親も、私も、言葉をなくしていた。
 こんなにも想ってくれていたのかと胸が熱くなり、頬がじんわりと火照る。

 私の顔をちらりと見た父が、ふっと肩の力を抜いた。


「……どんな男が来ても、俺が見定めてやるつもりだったんですけどね。娘がこんな顔をしているんじゃ……断れませんよ」

「っ……」


 父は利仁さんのスペックではなく、私の“表情”を見て判断したのだ。
 その事実に胸がいっぱいになり、涙が勝手に溢れた。





 そのあとは、和やかな食事会になった。
 母の手料理と、地物の鮮魚。
 「美味しいですね」と何度も口にする利仁さんに、両親もいつの間にか目尻を下げている。

 最初こそ“どうしてこんなハイスペック男子がうちに……?”と動揺していた両親だったけれど、食事が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。

 その夜は客間に泊まってもらい、翌朝。
 父は信じられないことを言い出した。


『利仁くん、ちょっと付き合ってくれないか』


 あれよあれよという間に、ふたりは連れだって出かけていった。


「父さん、無口だから……利仁さん、気まずかったりしないかな……?」

「大丈夫よ。むしろイケメンの助手席に乗って、お父さんだって乙女の気分味わってくるかもよ?」

「やめてよもう……!」


 母と笑い合ったものの、心配は消えなかった。
 けれど――それは完全に杞憂で。

 父は利仁さんをすっかり気に入り、気づけば私よりも彼と過ごす時間のほうが長くなっていた。



 スマートフォンに届いた通知を開くと、見覚えのある名前が並んでいた。


〈ねぇ、紬。今地元?〉

〈市場でさ、紬のお父さんと超イケメンが歩いてたんだけど!? 誰あれ!?〉


「は……早い」


 思わず声が漏れた。

 地元特有の“情報網の速さ”を、すっかり忘れていた。
 私が何も言わなくても、父と利仁さんが並んで歩いていたというだけで、同級生のグループラインは大騒ぎらしい。


〈今日戻ってきてるなら、夜飲まない?〉

〈今年も駅前の店に集まるよ! 紬もおいで!〉


 誘いのメッセージが次々に送られてきて、私は返事に迷った。

(……行かないほうがいいのかな)

 嫌な予感がした。
 なぜなら、同じグループの中に――倫太郎と、彼の仲の良かった元サッカー部のメンバーがいるからだ。
 倫太郎が来る可能性もある。


「紬? どうかしたの?」


 キッチンで食器を片付けていた母が、私の顔をのぞきこんだ。


「ううん。高校の同級生から連絡が来ただけ」

「そうなの。せっかく帰ってきたんだから、会いに行ってきたら?」


 母の声は優しくて、いつも通り。
 それでも、胸のざわめきは収まらなかった。
















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