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41 傷ついた人
しおりを挟む高校の同級生たちの集まりがあると話すと、利仁さんは迷いのない声で「行っておいで」と背中を押してくれた。
でも、本当は不安があった。
――倫太郎がいるかもしれない。
そのことを伝える前に、父が会話に入ってくる。
「俺は利仁くんと出かけるから、紬は行ってこい。せっかく地元に帰ってきたんだ、顔を出してやれ」
「……うん、ありがとう」
「それじゃあ利仁くん、今日は例の場所に行こうか」
父はすっかり上機嫌で、利仁さんを誘う。
そのままふたりは仲良く外へ出ていった。
(……最初からふたりで出かける予定だったんじゃ?)
そんな疑問が胸に浮かぶほど、父と利仁さんは自然に並んでいた。
ふたりが親しくなるのは嬉しい。
くすぐったいような気持ちが胸に満ちていた。
◇ ◇ ◇
夕暮れの風が顔に触れる。
駅前の居酒屋へと向かう道は、どれも懐かしい匂いがした。
店に入ると、すでに何人もの同級生がテーブルを囲み、昔と変わらない賑やかな笑い声が響いていた。
「紬ー! こっちこっち!」
手を振る友人たちに迎えられ、私は席に押し込まれるように座らされた。
久しぶりの再会に、あれこれ話題が飛び交う。
その賑わいの中で、私はそっと店内を見回した。
(……やっぱり、来ていない)
入口から、奥の座敷まで視線を滑らせる。
どこにも倫太郎の姿はなかった。
(よかった……今日は来ていないんだ)
胸の奥がふっと軽くなる。
友達との再会の嬉しさに、静かな安堵がそっと混じり合っていく。
そして、案の定――話の矛先は利仁さんに向かっていた。
「ねぇ紬、例のイケメン! やっぱどっかで見たことあると思ったら、ネットニュースに出てた人だよね!?」
「そうそう! 神崎グループの御曹司!」
「紬、なんでそんなすごい人と知り合ってんの!?」
女子たちの瞳が一斉に輝く。
圧がすごい。
黙っていたら帰してくれそうにないし、適当なことを言えば「紹介して!」と、さらに迫られる未来が見える。
だから私は、正直に話すことにした。
「……利仁さんと、婚約、してるの」
「「「えええぇぇぇっ!! おめでとうっ!!」」」
店の空気が一気に華やぐ。
その反応に、みんなが既に察していることがわかった。
――私と倫太郎が別れた、という事実を。
けれど誰もその名前を口にしなかった。
それが、逆に救いでもあった。
「都会行って、そんなハイスペック捕まえるのすごくない?」
「いやいや、紬だからでしょ! うちらじゃムリ!」
「御曹司の見る目あるわ~!」
女子たちは心から祝福してくれた。
乾杯の声が次々に上がり、飲み物が運ばれてくるたびに拍手が起きる。
ただ――角のテーブルで固まっている男子グループだけが、妙に静かだった。
彼らとは、高校時代も仲良くしてきた。
それなのに、今は冷えた視線を向けられている気がする。
けれど、それに気づいていない女子たちは無邪気に盛り上がり続けた。
「紬の婚約を祝って~……かんぱーい!」
「「「カンパーイ!!」」」
乾杯の声に合わせてグラスが触れ合う。
そこからは出会いの話、指輪のこと、結婚式はいつか……と質問攻めの嵐。
なるべく角が立たないよう答えようとしていた、そのときだった。
――ドンッ。
乾杯の音よりも重く、テーブルを揺らす音が響いた。
「いい加減にしてくれ」
低く、怒りを押し殺した声。
視線を向けると、ジョッキを叩きつけた男――栗原くんが立ち上がっていた。
高校時代は明るくて真面目で、サッカー部のキャプテンを任されていた。
誰にでも公平だったはずの彼が、目に怒気を宿して私を見ている。
「広瀬さんの婚約は、そりゃめでたいよ。みんな喜んでる。でもさ、そのせいで……傷ついた人もいるんだ」
「……え?」
思わず聞き返す。
“傷ついた人”?
パッと思い浮かばない。
(……利仁さんを好きだった人のこと? でも、なんで栗原くんがそんなことを言うの?)
彼と関係が深いわけでもないのに――。
意味がわからず黙っていると、栗原くんは、ぎり、と奥歯を噛み、言葉を吐き出した。
「広瀬さんが……西橋から社長に乗り換えたって話、広まってるんだよ。そのせいで――西橋のお母さん、ショックで倒れたんだ」
頭の中が真っ白になった。
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