偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと

文字の大きさ
7 / 45

​第7話 生活魔法は万能です

しおりを挟む
​「ふぅ……食った食った」

「最高だったな。肉汁がこう、口の中で踊るっていうか……」

​ 私の作った特製ハンバーグ定食を完食した騎士様たちは、すっかり骨抜きにされた様子で椅子にもたれかかっていた。
 強面だった第一印象が嘘のように、皆、幸せそうな顔をしている。

​「お粗末さまでした」

​ 私が食後の冷たいお茶を配ると、リーダー格の赤髪の騎士様――ガイル副団長が、ハッとしたように身を起こした。

​「あ、ああ、すまねぇな嬢ちゃん。こんなに美味い飯、久々に食ったよ」

​ 彼は満足そうに笑ったが、ふと自分の格好を見て気まずそうに眉を寄せた。

​「……っと、悪いな。訓練の後だったから、少し店を汚しちまったかもしれん」

​ 言われてみれば、彼らの装備は土埃にまみれていた。激しい訓練の直後なのだろう、汗の匂いも少し漂っているし、あちこち服が擦り切れたり、ボタンが飛んだりしている者もいる。

​「本当だ。せっかくこんなに綺麗な店なのに、俺たちの泥がついちまった」

「おい、座布団に汗が染みるぞ、立て立て」

​ 騎士たちは慌てて立ち上がろうとした。
 根は真面目でいい人たちのようだ。
 私は盆を胸に抱えて、クスクスと笑った。

​「ふふ、気にしないでください。汚れるのは一生懸命お仕事された証拠じゃないですか」

「いや、でもなぁ……」

「それに、汚れならすぐに落ちますから」

​ 私はカウンターから出ると、彼らの前に立った。
 ちょうどいい。常連さんになってもらうための、ちょっとしたサービスだ。

​「少しじっとしていてくださいね。――【広域洗浄エリア・クリーン】! 【消臭デオドラント】! 【衣服修復クイック・リペア】!」

​ 私が指を鳴らすと同時に柔らかな風のような光が騎士たちを包み込んだ。

​シュワワワッ……!

​ 炭酸が弾けるような爽やかな音と共に魔法が発動する。

​「うおっ!?」

「な、なんだ!?」

​ 騎士たちが驚きの声を上げる中、奇跡は起きた。彼らの体にこびりついていた泥汚れや汗のベタつきが一瞬で消滅。
 さらに汗臭かった体臭は森の木漏れ日のような爽やかな香りに変わり、擦り切れていた袖口や取れかけていたボタンが、まるで時間を巻き戻したかのように元通りに修復されていく。
​ 光が収まると、そこには卸したての制服を着たようなピカピカの騎士団員たちが立っていた。

​「……は?」

​ ガイル副団長が、自分の腕や服をペタペタと触って呆然としている。

​「おい、嘘だろ……? 泥汚れが完全に消えてる。それに、この肩の破れ、昨日の討伐で魔獣にやられたやつだぞ? 跡形もねぇ!」

「俺のブーツもだ! 泥だらけだったのに、新品みたいに輝いてる!」

「すげぇ……体が軽い。ベタつきが一切ないぞ!」

​ 彼らは信じられないものを見る目で私を凝視した。

​「じょ、嬢ちゃん。今の魔法は一体……? 王都の高級魔導クリーニング店だって、ここまでは出来ねぇぞ」

「え? ただの【生活魔法】ですよ? 家事をするにはこれくらいできないと」

「いやいや! これを『家事』で片付けるのはおかしいだろ!?」

​ ガイル副団長が大声でツッコミを入れた。
 そうだろうか。王城では「誰でもできる底辺魔法」扱いだったけれど、こうして感謝されるとやっぱり悪い気はしない。

​「飯は美味いし、服まで直してくれるなんて……」

「女神だ……ここには女神がいるぞ……!」

​ 騎士たちの目が、崇拝の色を帯び始めた、その時だった。

​カラン、コロン。

​ 再びドアベルが鳴り、店内の空気が一瞬で凍りついた。
 物理的に温度が下がった気がする。

​「…………」

​ 入り口に立っていたのは、今日も今日とて美しくも恐ろしい、『氷の騎士団長』クラウス様だった。
 しかし、その表情は昨日よりも険しい。
 彼はピカピカになった部下たちと、その中心にいる私を交互に見ると、アイスブルーの瞳をスゥッと細めた。

​「……お前たち。私の『隠れ家』で、何をしている?」

​ 地獄の底から響くような低音ボイス。
 背後から冷気という名のオーラが漏れ出している。

​「げっ、団長!?」

「ち、違います! 俺たちはただ、閣下が最近楽しそうだから、一体何があるのかと……!」

​「ほう。偵察か。……それで? なぜ私の店主を囲んでいる?」

​「ひいっ!?」

​ クラウス様が一歩踏み出すと、床がミシミシと音を立てた。

(やめて、床は直したばかりなのに)

 彼、もしかして怒ってる?
 ていうか、「私の店主」ってどういう意味ですか。

​「全員、即刻帰還しろ。グラウンド五十周だ」

「そ、そんなご無体なー!!」

​ ガイル副団長たちは、脱兎のごとく店から逃げ出した。
 嵐のように去っていった騎士たちを見送り、私は苦笑しながらクラウス様に向き直る。 

​「いらっしゃいませ、クラウス様。部下の方たち、仲が良いんですね」

「……仲良くなどない。あいつら、余計なことを」

​ 彼は不機嫌そうに唇を尖らせながら、いつもの定位置であるカウンター席にドカッと座った。
 そして、逃げていった部下の方を睨みながら、ボソリと呟く。

​「……ここは、俺だけの場所にするつもりだったのに」

​ その声が少しだけ拗ねた子供のように聞こえて、私は思わず胸がキュンとしてしまった。

 あら、意外と独占欲が強いタイプ?

​「ふふ。まあまあ、機嫌を直してください。今日はとっておきの『角煮丼』をご用意してますから」

​ 私が言うと、彼ピクリと反応し、即座にこちらを向いた。
 瞳の冷気はすでに消え、そこには「早くそれをくれ」という熱烈な期待だけが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音
恋愛
ここはステイプルドン王国。 エッジ男爵家は領民に寄り添う堅実で温かな一族であり、家族仲も良好でした。長女ジャネットは、貴族学園を優秀な成績で卒業し、妹や弟の面倒も見る、評判のよい令嬢です。 一方、アンドレアス・キーリー公爵は、深紅の髪と瞳を持つ美貌の騎士団長。 火属性の魔法を自在に操り、かつて四万の敵をひとりで蹴散らした伝説の英雄です。 しかし、女性に心を閉ざしており、一度は結婚したものの離婚した過去を持ちます。 そんな彼が、翌年に控える隣国マルケイヒー帝国の皇帝夫妻の公式訪問に備え、「形式だけでいいから再婚せよ」と王に命じられました。 選ばれたのは、令嬢ジャネット。ジャネットは初夜に冷たい言葉を突きつけられます。 「君を妻として愛するつもりはない」 「跡継ぎなら、すでにいる。……だから子供も必要ない」 これは、そんなお飾りの妻として迎えられたジャネットが、前妻の子を真心から愛し、公爵とも次第に心を通わせていく、波乱と愛の物語です。 前妻による陰湿な嫌がらせ、職人養成学校の設立、魔導圧縮バッグの開発など、ジャネットの有能さが光る場面も見どころ。 さらに、伝説の子竜の登場や、聖女を利用した愚王の陰謀など、ファンタジー要素も盛りだくさん。前向きな有能令嬢の恋の物語です。最後には心あたたまるハッピーエンドが待っています。 ※こちらの作品は、カクヨム・小説家になろうでは「青空一夏」名義で投稿しております。 アルファポリスでは作風を分けるため、別アカウントを使用しています。 本作は「ほのぼの中心+きつすぎないざまぁ」で構成されています。 スカッとする場面だけでなく、読み終わったあとに幸福感が残る物語です。 ちょっぴり痛快、でも優しい読後感を大切にしています。 ※カクヨム恋愛ランキング11位(6/24時点) 全54話、完結保証つき。 毎日4話更新:朝7:00/昼12:00/夕17:00/夜20:00→3回更新に変えました。 どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...