雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第一章 遊姫の後宮入り

第二話

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 それから話はすんなりと進み、後宮に入る日がすぐにやってきた。

 私が後宮に持っていくのは、屋敷で過ごしていた頃から私の身の回りの世話を任せていた従者と、家具や衣服など普段から使っていた身の回りの物だけ。

 後宮内にも専属の女官や宦官、備え付けの家具はあるらしいが、敵地の人間や物は信用ならない……安心できる物だけを自分の周りに置くことにした。

 幸いにも私の従者は女性だけだったので、問題なく後宮にもつれていけた。

 数人の従者を伴って牛車で王宮にやってくると大きな門がすぐに開いて、このまま皇帝のいる玉座の間まで行くのかと思っていた。

 しかし王宮内の人間と話した従者が牛車の外から、このまま後宮まで来てほしいとのことですと言ってきた。

 どうやら新しい側妃を迎える日にすら、皇帝陛下は後宮に入り浸っていらっしゃるらしい。

「分かりました」

 静かにそう告げ、牛車は真っ直ぐに後宮へと向かった。

 王宮とは別に門が用意されている後宮の入り口まで着く……後宮はもはや、王都とは別のもう一つの街のようになっている。

 後宮内には帝の宮、上級妃それぞれの宮、下級妃たちの大きな宮があるが……皇帝がどんどん女性を後宮に入れるため、何度も増築を繰り返しているらしい。

 すだれの隙間からそんな後宮をぼんやりと眺めながら、まずは皇帝に謁見しなくてはなとこれからのことを考えていた。

 後宮内をしばらく進むと牛車が止まり、従者の一人が到着しましたと声を掛けてきたので外に出た。

 目の前には、皇帝がいる宮。

 従者たちに先に私の宮に行って部屋を整えておくように指示してから、私は皇帝の宮へと入っていく。

 皇帝の宮に入ると、奥に数段の階段がある開けた部屋に通された。

 階段の上には豪華な椅子に座る男性がいた。

 私はお顔を見ないようにしながら階段の下まで歩いていき、両手を地面と並行に合わせながら膝をついて頭を垂れる。

「この度は後宮へのお招き、誠にありがとうございます。私は――」

「お主が、あの宰相の娘か」

 名前を告げようとする私の言葉を遮るように、その御方が話し出す。

「はい。さようでございます」

 お前の名前になぞ興味ないってことか……自分勝手な男だなと思いながらも、高貴な御方に失礼のないように受け答えをする。

「面を上げよ」

 さっき質問したことの答えなどどうでも良いように、そう言われた。

 苛つきながらもはいと答え、心の内側を悟られぬように……何も知らぬ乙女のような微笑みを浮かべ、その御方のお顔を見つめる。

 ……これが女たらしで、上級妃を面白く排除しろと無茶なことばかり言う皇帝陛下か。

 黒々とした髪と髭、彫り深い顔立ち、たくましさを感じる肉体……黙っていれば皇帝としての威厳、男性としての魅力を感じさせる女人受けしそうな御方だ。

「ほう……」

 顔を上げた私の顔から胸、下半身、足元まで舐め回すようにいやらしい目つきで見つめてくるその御方は、それだけで持って生まれた魅力の全てを台無しにしていた。

 しかしその目線のおかげで、確かにこの御方が皇帝陛下だなという確信を得られた。

「宰相から話は聞いておる。余を楽しませてみせよ」

 一通り観察して満足したのか、どっかりと椅子に座り直した皇帝は、髭を触ってニヤニヤと笑いながらそう言う。

「上手くやれば、そちを正妃に迎えても良い」

 正妃という重要な立場をこんなにも軽く与えようとするなんて……父から話には聞いていたが、皇帝という男はなかなかに脳みそが足りない男のようだ。

 正直、皇帝に対してすでに侮蔑と哀れみの心しかなかったが、全てを飲み込んで私は微笑む。

「かしこまりました」

 私の返事に満足したのか、それともこれからのを想像して興奮しているのかは分からないが、皇帝はムフーと鼻息を荒くしている。

「余は上級妃には名を与えておる。そちは余を楽しませる女という意味を込めて『遊姫ヨウチェン』という名前を与えよう」

 椅子の肘掛けに身を預けながら、こちらを指さして皇帝はそう言った。

 自分の女に自分が考えた名前を与えるのは、男性としての独占欲や支配欲から来るものだろうか。

 勝手に私に名前を付けた皇帝は嬉しかろうと言わんばかりに、ニヤニヤとこちらを見ている。

 なんと安直で短絡的な名前だろう。

「恐悦至極にございます。これから遊姫を末永く、可愛がってくださいませ」

 私は全ての不満と、これから起こるであろう苦痛まで飲み込んで、そう言って微笑んでみせた。
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