雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第八章 協力者の思惑

第二十九話

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 ――目が覚めると見慣れた天井、横を見やると窓から明るい陽の光が差し込んでいた。

「おはようございます、遊姫ヨウチェン様」

 ぼんやりと日差しを眺めていると、入口の方からいつもと変わらない無感情な声が聞こえた。

 声の方に視線を移すと、これまた無感情な従者がいつも通りに立っていた。

 従者を眺めていると、少しずつ自分が現実世界に戻ってきたのを実感できた。

「……あれから、何日経ったの?」

 何があったのかを思い出し、現状を理解した私は従者に尋ねる。

「遊姫様が眠りについてから、二日が経過しております」

 二日……か。

 薬はよく効いていたらしいが、予定通りに目覚めたわね。

 正直、目覚めない可能性も考えていた……父が私に毒を持ったかもしれないと。

 私は皇帝を殺した女、それも宰相である父と皇弟陛下の依頼でだ。

 これが露見したら、私達の極刑だけでは済まされない。

 皇族を手に掛けた女・悪徳宰相・兄殺しの皇族とその名は永遠に蔑まれ、一族諸共消される可能性がある……それを恐れた父が、証拠隠滅のために私を消すのではないかと思っていた。

 でも私がこうして目覚めたことを思うと、父はそれなりに私のことが可愛かったのか……はたまた信用してくれていたらしい。

 私は疑っていたけれどね。

 私がもしも一週間経っても目覚めなかったら、やってほしいことを記した手紙を父に渡すように従者に託していた。

 そして私の依頼したことが済むか、父がその依頼を無視した場合、即座に父を消すように指示していたのだけれど……徒労に終わって良かったわ。

 あれこれ考えを巡らせていると、自分の頭が正常に動き始めたのを感じた。

「私が眠っていた間の状況を教えて」

 従者に尋ねると、従者はかしこまりましたと返事をして、この二日間にあったことを語りだした。

 まず私が眠りについた後……夜が明けた頃に、自分の宮に戻ってこない陛下を心配した宮女が、私の宮へとやってきたらしい。

 陛下が来ている間は部屋に入るなと指示されていると従者が告げるも、陛下の御身に何かあっては……と宮女は強引に部屋の中へと入った。

 そこで穏やかに横たわる私と陛下を見つけたが、状況の異様さからすぐに駆け寄り、状況を理解した宮女は、侍医や宦官を呼んだり王宮への連絡に走ったり大騒ぎになったとのことだ。

 呼ばれた侍医は陛下の蘇生を試みたが叶わず……私の方は息があるということで、毒消しの薬を飲ませて様子を見ましょうということになっていたらしい。

 ただの眠り薬だから毒消しなど必要ないのだけれど、死体のある部屋にこれみよがしに湯呑が二つ転がっていたら、まず毒の可能性を疑うわよね。

「……というか、じゃあ今寝ている寝台ってあの時と同じもの?」

 さすがに死体があった寝台で二日間も眠っていたのは気分が悪いなと思っていたら、従者から寝台は他の部屋で余っていた物に変えてありますと言われて、少しだけ安心した。

 私は従者に報告の続きを求めた。

 陛下の死が確認された後、従者は机から手紙を取り出して陛下付きの宦官へと渡し、口元を袖で隠しながら俯き気味に、手紙と同様の内容を伝えたらしい。

「遊姫様は怯えていらっしゃいました。二人きりになると、陛下が『上級妃が消えるのは呪いのせいだ』『お前だけはずっと余の側にいろ』と尋常ではない様子になると……」

 宦官に渡させた手紙には、さらに『陛下はいつか私を殺すかもしれない』と、父宛を装いながら記しておいた。

 上級妃がいなくなる晩、必ず私の宮へ来ていたことも手伝って……宦官たちの間では瞬く間に、呪いに怯えた陛下が、最愛の私を道連れに心中を図ったという憶測が広がった。

 王が側妃を道連れに無理心中など前代未聞……一時は後宮だけでなく、王宮まで巻き込んだ大問題へと発展したらしい。

 けれどそこで皇弟陛下が現れ、事を外に広めないように箝口令かんこうれいを敷き、宰相である父と共に皆の不安を払い支え、事態収束のために動いたそうだ。

 そのこともあって、現皇帝は世間的には病で亡くなったことにして皇族の記録から抹消、早々に皇弟陛下を次期皇帝に……と話が進んでいるらしい。

 元々王宮の人間には皇弟陛下こそ皇帝にふさわしいという声が多かったし、父の根回しや前準備もあったのでしょうが、予想以上に事は早く動き出しているようね。

「次期皇帝から遊姫様が目覚めたら連絡するようにと言付かっておりますが、いかがいたしますか?」

 皇弟陛下……いや、もう次期皇帝か。

 父ならまだしも、なぜ次期皇帝が私からの連絡を求めている……?

 疑問を感じながらも、父への連絡も兼ねて王宮に私が目覚めた旨を知らせてほしいと、従者を使いに出した。

 その間、私は久しぶりの日差しを存分に眺めながら、心から穏やかなひと時を楽しんでいた。
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