雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

文字の大きさ
33 / 40
第九章 最後の仕事

第三十三話

しおりを挟む
 ――あれから一週間ほど経った。

 私はほとんど安静にしているか、身体を慣らそうと自分の宮を歩くだけでも精一杯の状態だったので……外のことは、騒がしいくらいに感じるくらいしかできていなかった。

 しかし突然来た父からの手紙で、外で起きていたことを知れた。

 もう秘密のやり取りや毒の受け渡しをすることもないので、後宮入り口にいる衛兵→女官という普通の経由で、手紙が届いて驚いた。

 手紙を見てみると息災で安堵していること、大変だったなと労いの言葉、後宮内外で起きていることが書かれていた。

 息災であることを知っているということは、陛下から私の話は聞いたようだ。

 労いの言葉はよくぞやり遂げたという、仕事完了を喜ぶ内容が含まれているのだろう。

 私はそれらの内容にさらっと目を通し、後宮内外で何があったのか、今どうなっているのかに視線を移す。

 ――今から一週間前、陛下から側妃解放のお触れが出ると、下級妃たちは次々に後宮を去っていったらしい。

 外の世界に待つ者がいるからと涙を流しながら出ていく者もいたし、市井にも側妃解放の知らせを出していたので、王宮の外で帰ってくる女性を待っている者もいたと聞く。

 後宮よりさらに外……王宮の外ではまさにお祭り騒ぎ、再会を泣き喜ぶ声が上がっていたらしい。

 ……あるべきものはあるべき場所に。

 彼女たちに帰る場所があることも、待っている人がいることも私にはあまりに縁遠く羨ましくて……手紙を読んで微笑みながらも、口元は袖で隠してしまった。

 ただ素直に出ていく者だけではなく、新しい皇帝陛下の側妃にしてもらおうと抵抗する者もいたらしい。

 けれど陛下が一度も後宮に来ないこと、一時金のおかげもあってか、最終的には全員が大人しく出ていってくれたとのことだ。

 宦官や女官たちも、下級妃たちがいなくなると同時に後宮を去っていった。

 正確には少しずつ人数を減らしていって、下級妃がいなくなると同時に、最後に残っていた数人の女官・宦官が出ていったという形らしい。

 宦官と女官に関しては元々働いていた人間だから、すぐに働き口が見つかるだろうと特別な措置は考えていなかったのだが……。

 陛下が取り計らってくれて、希望者には王宮での職や、陛下が暮らす宮・王宮に勤めている者の屋敷への紹介・受け入れなどがなされたらしい。

 私の考えが甘かったことを恥じると共に、陛下の手厚い対応に一人感謝した。

 こうして多くの人が行き交い、様々な思惑が飛び交っていた後宮は……すっかり静かになっている。

 前皇帝の宮はもちろんのこと、上級妃たちの宮も、下級妃が暮らしていた宮もシーンと静まり返っていて、人の気配はまるでない。

 後宮はいま、だ。

 私は一週間かけてようやく寝たきり状態から、自力で動き回れるくらいに体力が回復していた。

 今日は牛車で静かになった後宮を眺めながら、残された最後の上級妃……後宮に残っている最後の人物のもとへと向かっていた。

 父からの話で聞いた限りだと、ファン国が侵略した国の姫……献上品として、半ば強制的に陛下に輿入れさせられた女性とのこと。

 しかし陛下の通いは一度もなく、本人も自分の宮から出てくることはない。

 この国では珍しい見た目のため、自分付きの侍女にも不気味だ・妖怪だと気味悪がられて、孤独に過ごしていると聞く。

 そのせいか彼女付きだった侍女たちは早々に後宮を出ていってしまったので、仕方なく私の従者を数人、彼女のもとにやって世話をさせつつ様子を窺わせていた。

 定期的に従者から報告を受けているが、最後の上級妃はどうやら言葉が不慣れなためか、側妃が解放されている今の状況を理解できずに困惑しているだけらしい。

 だからこのまま待っていても、彼女が出ていくことはないだろう。

 まぁ……もともと、彼女に関しては私が直に対処するつもりだったから、一向に構わないのだけれど。

 あれこれ考えている内に、最後の上級妃の宮に到着した。

 宮の入り口では送っていた私の従者が出迎え、最後の上級妃がほとんどの時間を過ごしているという寝所まで案内された。

 寝所前まで到着して、少しだけ中の気配を窺ってみるが……声も物音もしない。

 意を決して、扉に手をかける。

「……失礼いたします」

 言葉が不慣れということだが、無言のまま入るのは憚られたため……陛下のように、入室前にひと声かけた。

 すると中からガタガタッと慌てた気配を感じたが、しばらく待っても返答がなかったのでそのまま扉を開けた。

 寝所にいた最後の上級妃を目の当たりにして、私は心の底から驚いた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...