雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第九章 最後の仕事

第三十四話

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 話に聞くだけと、こうして実際に会うのとでは……こうも違うものだろうか。

 自分の認識がまだまだ甘かったことを、痛感せずにはいられない。

 寝所に立っていた最後の上級妃は輝く金の髪と瞳をしていて、陽の光が差すと星のように瞬いていて……この国では奇異ではあるが、よく見れば確かに美しい見た目をしていた。

 けれど、なんて……なんて……んだろう。

 もう少しすれば美しい女性になるのだろうという将来性は感じるが、明らかに顔立ちがまだ出来上がっていない……背丈も私の半分ほどしかない。

 歳は十歳ほどだろうか……あまりに小さく、幼い少女。

 彼女を妃に迎えたのは数年前、さらに幼い頃のことだろう……前皇帝の趣味の悪さに吐き気がする。

「ダ……ダレ?」

 口元を袖で隠しながら嫌悪の表情を浮かべていると、彼女は怯えた表情を浮かべながら震える口元で懸命に尋ねてくる。

 私はハッとして、彼女にニッコリと微笑みを向けながら語りかける。

「はじめまして。私は遊姫ヨウチェンです。お名前を教えていただけますか?」

 できるだけ簡単な言葉を選んで自己紹介しながら、彼女の名前を尋ねる。

 父からの話で名前はすでに知っているのだが、こういうのは本人から話してもらうのが大事……だからあえて尋ねる。

「ワ、ワタシ……ナマエ……未来ウィーライ

 未来と名乗ったその少女は、たどたどしくはあるがしっかりと自分の名前を教えてくれた。

 未来……昔、父が話していた内容によると、将来という意味を込めて、前皇帝が付けた名前らしい。

 この幼子に前皇帝が興をそそられなかったのは不幸中の幸いだが、この少女を見てそんな下衆なことを考えていたのかと思うと、前皇帝への嫌悪感が止まらない。

 けれどこれ以上、未来を怯えさせまいと、私は笑顔を崩さないように心がけた。

「未来様、突然来てしまってごめんなさい。お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 私は目の前で怯えている少女に、できるだけ優しく語りかける。

 そうすると震えていた少女は驚いた表情をしたかと思うと、おずおずとこちらを見つめてくる。

「遊姫……ワタシとおハナシ、イヤじゃない?」

 見つめてくる未来の瞳は不安・恐怖・驚愕・嫌疑でごちゃごちゃになっている様子で、幼くしてこの後宮という場所をよく理解しているように感じた。

「嫌じゃないですよ。なぜそう思うのですか?」

 私は少しずつ未来から彼女自身のことを聞きたくて、穏やかな声で問いかけを続ける。

 問われた未来は、驚きと悲しみの表情を浮かべたかと思うと俯き、自分の服を両手でギュッと強く握りしめた。

「ココにくるヒト、ミンナ、ワタシ、キライ。ブキミって……おハナシ、イヤって」

 服を握りしめる手は震えている。

 彼女の言うここに来る人というのは、世話係に嫌々させられていた侍女や、前皇帝の指示で未来に言葉を教えに来ていた宦官のことだろう。

 侍女たちが未来のことを不気味だ妖怪だと気味悪がり、接触をできる限り避けていたのは従者からの報告で知っていたが……彼女の話だと、宦官も似たような対応をしていたらしい。

 だから輿入れして数年経つというのに、彼女は片言でしか話せないのだろう。

 全く……後宮という場所は、なんと醜く狭い世界だろうか。

 幼くして親から引き離され、知らぬ土地に来た少女を……見た目が奇異だからとそれだけの理由で、大人が罵り避けるなど、なんと恥知らずな。

 彼女の侍女や宦官にも怒りが湧き上がるが、顔には出さないように努める。

「……私はそのようなことは言いません。未来様とお話がしたいです」

 私は服をギュッと握りしめている未来の手を優しく取り、顔の前で包み込みようにしながら穏やかな笑みを浮かべ、まっすぐに未来を見つめて私の気持ちを伝える。

 後宮に来てから汚い人間にばかり囲まれていたせいか、彼女の純粋さはまばゆく輝いていて……自分の中の汚れすらも、浄化されていくように感じる。

 ……そんなこと、あるはずないのに。

 未来は私の行動に驚愕と戸惑いの表情を浮かべていたが、気がつくとポロポロと大粒の涙を流し始めた。

 涙を見た時は少しだけ驚いたが、私は生家にいる弟のことを思い出して……思わず彼女をギュッと抱きしめながら頭を撫でると、未来はさらに大きな泣き声を上げながら泣きはじめた。

 もう後宮には私達以外、誰もいない……思う存分、泣けば良い。

 後宮には幼い少女の泣き声だけが、響き渡っていた。
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