雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第九章 最後の仕事

第三十五話

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 しばらく泣いていた未来も、少しすると落ち着きを取り戻したのか、ハッとしたように顔を赤くして私から離れた。

 そんな姿を見て、小さいなりに矜持があるのだなと思うと、ついつい微笑ましくてクスッと笑ってしまった。

 それに気づくと未来はジトッとこちらを見ながら、頬を膨らませてむくれていたが……そんな姿もまた可愛らしく、実に微笑ましかった。

 未来を見ていると、どうしても生家の弟を思い出す。

 弟も小さくて、すぐ泣いて、すぐむくれて……姉である私のあとをついて回っては、くるくると表情を変えていた。

 生家で弟の遊び相手をしながら、ただただ穏やかに暮らしていた日々が思い起こされる。

 ずっとそんなやり取りを続けていたかったが、私は心を決めて……改めて長椅子に腰を下ろし、真剣な表情をして未来に語りかける。

「……未来様、大切なお話があります」

 むくれていた未来も、空気が変わったことを察したのか……私の隣へ静かに腰をおろした。

 その姿はまるでお人形のようだなと思ったが、余計なことを考えないように努める。

 ちょこんっと手を揃えて座っている未来の手に自分の手を重ね、私は未来の目を見つめながら語りかける。

「……この国の皇帝が亡くなりました。私達はもう、皇帝の妃ではありません。なので、これからのことを決めなければなりません」

 私は事実だけを淡々と、できるだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。

 未来は皇帝が亡くなっていることすら知らなかったらしく驚いた表情をしていたが、しばらく考え込んだかと思うと、黙って私の目をじっと見つめ返し、私の言葉を待っているようだった

 キラキラ輝く金の瞳が、私を捉えて離さない。

 瞳だけを見つめていると、彼女が幼い少女であることを忘れそうになる。

 それほど魅力的で魅惑的な瞳だった。

「他の妃は後宮を去りました。……未来様は、どうしたいですか?」

 そんな瞳を見つめながら、私はまず、未来の意思を問うことにした。

 彼女はずっと国に・陛下に・後宮に・上級妃という立場に縛られ続けてきた……でももう自由になっても良いだろう。

 したいことがあれば、彼女の意思を尊重したい。

「ワタシ……ワからない……」

 そう思って尋ねてみたのだが……未来は戸惑ったようにうつむき、泣きそうな様子だった。

 幼くして突然他国の皇帝へ嫁に出されて、この国の言葉を覚えろと言われても不気味がられ、ずっと後宮に押し込められたのだ……分からないという答えは、致し方ないことだろう。

 むしろ私は酷なことを聞いてしまったなと反省し、彼女の頭を撫でながら落ち着くのを待った。

「ワタシ……ナニ、できる?」

 落ち着いた様子の彼女は顔を上げたかと思うと、潤んでさらに輝きを増した金の瞳をこちらに向けてきた。

 どうしたら良いかではなく、何ができるか……か。

 私は未来の質問にニヤリと笑ってしまいそうになって、とっさに口元を袖で隠した。

 相手に全てを委ねるのではなく、自分で考える姿勢……見た目だけではなく、中身にも将来性を感じさせる。

「……そうね、選択肢は二つ。生まれた国に帰るか、この国で結婚するかですね」

 私はニッコリと微笑んで、そう答えた。

 未来は真剣な表情で考え込んでいるようなので、私はそれをニコニコと眺めながら彼女の答えを待った。

 将来有望な子供の成長というのは、見ていて楽しいものですね。

 弟も幼さ故に感情を制御しきれずに頼りないこともあったが、ちゃんと根底には強かさや思考力を持っていた。

 だから一緒に遊んだり、成長を見守るのはすごく楽しかった。

 未来にも、それと似たものを感じていた。

 だから彼女がどちらを選んでも、私の中では彼女をどうするかはもう決まっていたが……彼女にどちらかを選ばせることが、私には重要だった。

「……ワタシ、クニにカエッても、オナジコトのクリカエシ」

 俯きながら、たどたどしくではあるが、自分で考えたことをちゃんと口に出す彼女。

 ……幼いが、姫として自分の立場はよく理解しているらしい。

 戦争に負けて、幼い娘を敵国に献上するような国だ……このまま帰っても、またどこぞの男と政略結婚させられることは目に見えている。

 しかし国内での結婚となれば、他国に嫁いで出戻った女・傷物であると認識されて、まともな嫁ぎ先は望めないだろう。

 かといって他の国に出されれば、また知らない土地で言葉を覚えるところから始めなければならない。

 どう転んだとしても、彼女の幸せは望み薄だ。

 やはり言葉は不慣れだが、幼いなりにちゃんと考えることのできる少女らしい。

「ダカラ、ワタシ、このクニでオヨメさんなる。……そのタメに、遊姫にキョーイクガカリなってモラいたい!」

 彼女の考えに感心していると、彼女はさらにを力強く伝えてきた。

 あまりの驚きに口元を袖で隠してしまったが、その下では口角が上がるのを止められずにいた。
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