35 / 40
第九章 最後の仕事
第三十五話
しおりを挟む
しばらく泣いていた未来も、少しすると落ち着きを取り戻したのか、ハッとしたように顔を赤くして私から離れた。
そんな姿を見て、小さいなりに矜持があるのだなと思うと、ついつい微笑ましくてクスッと笑ってしまった。
それに気づくと未来はジトッとこちらを見ながら、頬を膨らませてむくれていたが……そんな姿もまた可愛らしく、実に微笑ましかった。
未来を見ていると、どうしても生家の弟を思い出す。
弟も小さくて、すぐ泣いて、すぐむくれて……姉である私のあとをついて回っては、くるくると表情を変えていた。
生家で弟の遊び相手をしながら、ただただ穏やかに暮らしていた日々が思い起こされる。
ずっとそんなやり取りを続けていたかったが、私は心を決めて……改めて長椅子に腰を下ろし、真剣な表情をして未来に語りかける。
「……未来様、大切なお話があります」
むくれていた未来も、空気が変わったことを察したのか……私の隣へ静かに腰をおろした。
その姿はまるでお人形のようだなと思ったが、余計なことを考えないように努める。
ちょこんっと手を揃えて座っている未来の手に自分の手を重ね、私は未来の目を見つめながら語りかける。
「……この国の皇帝が亡くなりました。私達はもう、皇帝の妃ではありません。なので、これからのことを決めなければなりません」
私は事実だけを淡々と、できるだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。
未来は皇帝が亡くなっていることすら知らなかったらしく驚いた表情をしていたが、しばらく考え込んだかと思うと、黙って私の目をじっと見つめ返し、私の言葉を待っているようだった
キラキラ輝く金の瞳が、私を捉えて離さない。
瞳だけを見つめていると、彼女が幼い少女であることを忘れそうになる。
それほど魅力的で魅惑的な瞳だった。
「他の妃は後宮を去りました。……未来様は、どうしたいですか?」
そんな瞳を見つめながら、私はまず、未来の意思を問うことにした。
彼女はずっと国に・陛下に・後宮に・上級妃という立場に縛られ続けてきた……でももう自由になっても良いだろう。
したいことがあれば、彼女の意思を尊重したい。
「ワタシ……ワからない……」
そう思って尋ねてみたのだが……未来は戸惑ったようにうつむき、泣きそうな様子だった。
幼くして突然他国の皇帝へ嫁に出されて、この国の言葉を覚えろと言われても不気味がられ、ずっと後宮に押し込められたのだ……分からないという答えは、致し方ないことだろう。
むしろ私は酷なことを聞いてしまったなと反省し、彼女の頭を撫でながら落ち着くのを待った。
「ワタシ……ナニ、できる?」
落ち着いた様子の彼女は顔を上げたかと思うと、潤んでさらに輝きを増した金の瞳をこちらに向けてきた。
どうしたら良いかではなく、何ができるか……か。
私は未来の質問にニヤリと笑ってしまいそうになって、とっさに口元を袖で隠した。
相手に全てを委ねるのではなく、自分で考える姿勢……見た目だけではなく、中身にも将来性を感じさせる。
「……そうね、選択肢は二つ。生まれた国に帰るか、この国で結婚するかですね」
私はニッコリと微笑んで、そう答えた。
未来は真剣な表情で考え込んでいるようなので、私はそれをニコニコと眺めながら彼女の答えを待った。
将来有望な子供の成長というのは、見ていて楽しいものですね。
弟も幼さ故に感情を制御しきれずに頼りないこともあったが、ちゃんと根底には強かさや思考力を持っていた。
だから一緒に遊んだり、成長を見守るのはすごく楽しかった。
未来にも、それと似たものを感じていた。
だから彼女がどちらを選んでも、私の中では彼女をどうするかはもう決まっていたが……彼女にどちらかを選ばせることが、私には重要だった。
「……ワタシ、クニにカエッても、オナジコトのクリカエシ」
俯きながら、たどたどしくではあるが、自分で考えたことをちゃんと口に出す彼女。
……幼いが、姫として自分の立場はよく理解しているらしい。
戦争に負けて、幼い娘を敵国に献上するような国だ……このまま帰っても、またどこぞの男と政略結婚させられることは目に見えている。
しかし国内での結婚となれば、他国に嫁いで出戻った女・傷物であると認識されて、まともな嫁ぎ先は望めないだろう。
かといって他の国に出されれば、また知らない土地で言葉を覚えるところから始めなければならない。
どう転んだとしても、彼女の幸せは望み薄だ。
やはり言葉は不慣れだが、幼いなりにちゃんと考えることのできる少女らしい。
「ダカラ、ワタシ、このクニでオヨメさんなる。……そのタメに、遊姫にキョーイクガカリなってモラいたい!」
彼女の考えに感心していると、彼女はさらに私と同じ考えを力強く伝えてきた。
あまりの驚きに口元を袖で隠してしまったが、その下では口角が上がるのを止められずにいた。
そんな姿を見て、小さいなりに矜持があるのだなと思うと、ついつい微笑ましくてクスッと笑ってしまった。
それに気づくと未来はジトッとこちらを見ながら、頬を膨らませてむくれていたが……そんな姿もまた可愛らしく、実に微笑ましかった。
未来を見ていると、どうしても生家の弟を思い出す。
弟も小さくて、すぐ泣いて、すぐむくれて……姉である私のあとをついて回っては、くるくると表情を変えていた。
生家で弟の遊び相手をしながら、ただただ穏やかに暮らしていた日々が思い起こされる。
ずっとそんなやり取りを続けていたかったが、私は心を決めて……改めて長椅子に腰を下ろし、真剣な表情をして未来に語りかける。
「……未来様、大切なお話があります」
むくれていた未来も、空気が変わったことを察したのか……私の隣へ静かに腰をおろした。
その姿はまるでお人形のようだなと思ったが、余計なことを考えないように努める。
ちょこんっと手を揃えて座っている未来の手に自分の手を重ね、私は未来の目を見つめながら語りかける。
「……この国の皇帝が亡くなりました。私達はもう、皇帝の妃ではありません。なので、これからのことを決めなければなりません」
私は事実だけを淡々と、できるだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。
未来は皇帝が亡くなっていることすら知らなかったらしく驚いた表情をしていたが、しばらく考え込んだかと思うと、黙って私の目をじっと見つめ返し、私の言葉を待っているようだった
キラキラ輝く金の瞳が、私を捉えて離さない。
瞳だけを見つめていると、彼女が幼い少女であることを忘れそうになる。
それほど魅力的で魅惑的な瞳だった。
「他の妃は後宮を去りました。……未来様は、どうしたいですか?」
そんな瞳を見つめながら、私はまず、未来の意思を問うことにした。
彼女はずっと国に・陛下に・後宮に・上級妃という立場に縛られ続けてきた……でももう自由になっても良いだろう。
したいことがあれば、彼女の意思を尊重したい。
「ワタシ……ワからない……」
そう思って尋ねてみたのだが……未来は戸惑ったようにうつむき、泣きそうな様子だった。
幼くして突然他国の皇帝へ嫁に出されて、この国の言葉を覚えろと言われても不気味がられ、ずっと後宮に押し込められたのだ……分からないという答えは、致し方ないことだろう。
むしろ私は酷なことを聞いてしまったなと反省し、彼女の頭を撫でながら落ち着くのを待った。
「ワタシ……ナニ、できる?」
落ち着いた様子の彼女は顔を上げたかと思うと、潤んでさらに輝きを増した金の瞳をこちらに向けてきた。
どうしたら良いかではなく、何ができるか……か。
私は未来の質問にニヤリと笑ってしまいそうになって、とっさに口元を袖で隠した。
相手に全てを委ねるのではなく、自分で考える姿勢……見た目だけではなく、中身にも将来性を感じさせる。
「……そうね、選択肢は二つ。生まれた国に帰るか、この国で結婚するかですね」
私はニッコリと微笑んで、そう答えた。
未来は真剣な表情で考え込んでいるようなので、私はそれをニコニコと眺めながら彼女の答えを待った。
将来有望な子供の成長というのは、見ていて楽しいものですね。
弟も幼さ故に感情を制御しきれずに頼りないこともあったが、ちゃんと根底には強かさや思考力を持っていた。
だから一緒に遊んだり、成長を見守るのはすごく楽しかった。
未来にも、それと似たものを感じていた。
だから彼女がどちらを選んでも、私の中では彼女をどうするかはもう決まっていたが……彼女にどちらかを選ばせることが、私には重要だった。
「……ワタシ、クニにカエッても、オナジコトのクリカエシ」
俯きながら、たどたどしくではあるが、自分で考えたことをちゃんと口に出す彼女。
……幼いが、姫として自分の立場はよく理解しているらしい。
戦争に負けて、幼い娘を敵国に献上するような国だ……このまま帰っても、またどこぞの男と政略結婚させられることは目に見えている。
しかし国内での結婚となれば、他国に嫁いで出戻った女・傷物であると認識されて、まともな嫁ぎ先は望めないだろう。
かといって他の国に出されれば、また知らない土地で言葉を覚えるところから始めなければならない。
どう転んだとしても、彼女の幸せは望み薄だ。
やはり言葉は不慣れだが、幼いなりにちゃんと考えることのできる少女らしい。
「ダカラ、ワタシ、このクニでオヨメさんなる。……そのタメに、遊姫にキョーイクガカリなってモラいたい!」
彼女の考えに感心していると、彼女はさらに私と同じ考えを力強く伝えてきた。
あまりの驚きに口元を袖で隠してしまったが、その下では口角が上がるのを止められずにいた。
12
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる