雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第九章 最後の仕事

第三十六話

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 になってほしいと力強く語る未来の瞳は、やはり幼さを忘れさせるほどキラキラと輝いて魅惑的だ。

 彼女の教育係になることは、私の中でも決めていた。

 未来が国に帰ると言っても、この国に残ると言っても……最低限の教養と、他人に利用されないだけの思考力・精神力を鍛えたいと考えていた。

 もう国や他者に利用されて、同じことを繰り返さないように。

 幼い弟とも、後宮に送り込まれた自分とも重なる彼女……そんな彼女に、幸せになってもらいたいという人間らしい心が自分にはまだあったのかもしれないと思うと、我ながら意外だった。

 でも私が言い出す前に、それを彼女自ら言い出した。

 これは見込みありどころか、すでに根性は十分ありそうだ。

「私を教育係に……ですか。報酬はなんですか?」

 私はあえてその考えはなかったというフリをして口元を袖で隠しながら、クスッと笑って未来を見据える。

 金も立場も何も持っていない少女に、私は高くつくということを知らしめる。

 彼女は一瞬、報酬という言葉に戸惑った様子を見せたが、少し考えた後にキラキラと輝く瞳でこちらを射抜いてきた。

「……遊姫、タノしませる!」

 おそらくは前皇帝が言っていた、余を楽しませろという言葉を覚えていたのだろう。

 そして自分が差し出せるものは、相手を楽しませることだけ……と理解もしているのだろう。

 だからこその言葉、彼女が差し出せる最上級の報酬。

 ――あぁ……なんて魅力的で魅惑的な答え。

 彼女はきっと素敵な女性になる……他の上級妃よりも麗しい見た目だ、これで中身も整えれば完璧な女性を作れるだろう。

 それを育て上げる過程は、たしかに私を楽しませてくれるという確信がある。

 私はこれからの人生が暇になることを分かっていた。

 だから心のどこかで、を求めていたのかも知れない。

 そんな時にこんな魅力的な提案をされてしまっては、私に抗う術などない。

 ……前皇帝に嫌悪していたのに、私自身も自分を楽しませる存在として彼女に期待してしまっている。

 同じ穴のムジナ……後宮という蠱毒で喰らいあった者同士、私達は似ていたのかもしれませんねと、今は亡き陛下に少し思いを馳せた。

「……良いでしょう。未来様は私を楽しませてください。その対価として私はあなた様に教養を与え、来る日に最高の結婚相手をご用意します」

 私が笑顔でそう答えると、未来は咲き誇る花のような愛らしい笑顔を浮かべた。

 出過ぎる表情、言葉遣い……教えることはたくさんあるが、まずは彼女の愛らしい笑顔を心から楽しんでおくことにする。

 これから成長するにつれて、こんなにも素直な笑顔はもう見られなくなるでしょうからね。

 ただ……これだけはしっかりしておかなければ。

「未来様、これは契約です。途中で辞めることや、対価を払わないことは許されません。その覚悟はおありですか?」

 私が上級妃を次々に排除したのも、前皇帝を殺したのも……全ては対価があって契約があったからこそ。

 幼子との約束事と言えども、これもれっきとした契約。

 だからこそ、途中で辞める・逃げるなんて興ざめなことは、絶対にされたくない。

 そこはしっかりと確認しておかなくてね。

 私はどこか冷めた目で、未来を見据えながら尋ねる。

 すると未来は怯えるかと思ったが、真っ直ぐに私の方を見つめ返してきた。

「ウン。ケイヤク、マモル」

 強い意思を感じさせる金の瞳。

 キラキラと輝き、黄金よりも価値がある彼女の瞳は、私を捉えて離さない。

 ……捕まったのは私の方なのかもしれない。

 でも、それでも良いと思えるだけの魅力・将来性が彼女にはあった。

 前皇帝の女を見る目は確かだったのかもしれない。

 幼い彼女を献上品として望んだことも上級妃にしたことも、決して手放さなかったことも……彼女のこの魅力に本能的に惹かれていたからかもしれないわね。

 ……まぁ、だからと言って幼子を縛り付けて良いということにはならないのだけど。

 けれど……そんな幼子を契約と言って縛り付けている私も、たいして変わらないかと思うとクスッと笑いがこぼれてしまった。

「では、改めて。これからよろしくお願いいたします。未来様」

 私は彼女の身長に合わせてかがみながら、スッと手を差し出す。

「オネガイシマス、遊姫……サマ」

 すると彼女も小さな手を差し出して来て、私達は固い握手を交わした。

 この短いやり取りの間に、すでに相手に敬称をつけるという成長を見せる未来。

 私はこれからが楽しみでしょうがなかった。
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