運命のつがいと初恋

鈴本ちか

文字の大きさ
8 / 76
運命のつがいと初恋 第1章

しおりを挟む
「疲れているのかもしれないな」

 東園はぽつりと呟き凛子の額をそろっと撫でる。幼稚園を探しているようだから他園も見学したのかもしれない。
 そういえば、凛子の母親が来ていない。幼稚園選びは母親が中心である場合が多いが、東園は育児に熱心なのかもしれない。
 ピピッと測定終了の電子音が鳴り、東園が凛子の脇から体温計を抜いた。東園の手元を除くと37.7℃とあった。これから夜に掛けて熱が上がっていくかもしれない。東園は体温計を見たあと久保に顔を向けた。

「せっかくお時間頂きましたのに、済みません。日を改めて伺ってもよろしいでしょうか」
「もちろんです。いつでもいらして下さいね」 

 いつでもいいのかと思う。同級生情報が正しければ東園は陽向のような地方出身の田舎者が顔を合わせる機会もない上流階級の人間だ。園としても繋がりが欲しいのかもしれない。久保だけじゃなく同僚の女性教諭も大きく頷いているのは東園のルックスのせいだろう。
 眠り始めた凛子を抱きなおし、東園は皆に礼をいうと陽向をちらりと見て「ちょっといいか」と囁いた。  
 なんだろうと思いながら頷く。職員室を出る東園のあとについて陽向も廊下へ出た。

「三田村、今日何時に終わるんだ?」
「今日? 今日、一応もうすぐ終わる予定だけど。三十分、いや一時間位かな」

 不意に聞かれ腕時計を見る。

「どうしたの?」
「いや」 

 言葉を切った東園は凛子の寝顔に目を落とした。しばらく黙ったままだったが靴箱が見えて来たときようやく口を開いた。

「久しぶりに会ってこんな話を聞かせるのも申し訳ないんだが、事情があって凛子と二人で暮らしている」
「え、そうなんだ」

 陽向は声を落とした。離婚したのか、それとも奥さんが病気か。理由はどうあれ仕事と子育て、大変な状況なのは想像に難くない。

「もし今日仕事が終わって時間があるなら、少しでもいい、手を借りたい」

 東園を見ると肩をすくめて苦笑した。

「いや、実は結構困ってる。熱が出るのは何度か経験したがいつもなら両親が一緒に見てくれているんだ。だが今、二人とも日本にいない。三田村、ここで先生をしているんだろ? 子供の扱いに慣れているだろうし、手伝ってくれるとすごく助かる」 

 凛子は発熱している、これから病院にも連れていくのだろう。水曜日の夕方、小児科は込み合っているのだろうか。まだ初冬で本格的なインフルエンザ流行期には入っていないけれど。病児は目を離せないから人手は多ければ多いほど良いとは思う。
 本日、九月末日、陽向は最終出勤日だ。同僚が送別会を開いてくれるのだが別日なので今日はこれから帰宅するだけ。だが、ほんの少し躊躇を覚え即答できない。
 東園の匂いは気になるが病児の世話とは比べるまでもない。しかし一番は東園がどう見てもαというところだ。
 親兄弟から耳にタコが出来るほどαには気を付けろと言われ続けて育った。陽向が知るαは身内を除けば康平くらいだが、大学にはきっと数名はいただろう。
 Ωは本能的にαが分かるらしいが、陽向はΩ性のホルモンが薄いのかその本能とやらが働いたことがない。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

処理中です...