運命のつがいと初恋

鈴本ちか

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運命のつがいと初恋 第1章

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 そもそも誰かに教えてもらわなければα、β、Ωの見分けすら自信がない。おそらくβ、あの人はαかも、とその程度だ。そんな陽向だから身内は過剰に心配したのかもしれない。
 どうしようと陽向はそっと凛子を見る。鼻が詰まっているせいか寝息をつくたびすぴ、すぴと鼻が鳴っている。

「仕事とは内容が違うから役に立たないかもしれないけど、でも予定もないし、僕で良ければ手伝うよ」 

 自分がΩだろうが東園がαだろうがやはり病児を放っておけない。それにΩだと小学生の時に判明した陽向はすぐに診断を受け、抑制剤を服用し始めた。現在、日本在住のΩは月一の定期検診と日々の抑制剤服用を義務付けられており、陽向はその管理によって今まで発情を感じることなく過ごせている。発情期と思われる期間、身体の怠さは感じるものの、フェロモンを発生し他人を惑わせる事もなければ誰かに抱かれたくなる衝動を感じた事もない。コントロールは完璧だ。まあ問題ないかと結論づけた。
 東園は凛子を抱いているのにも関わらず片手でスマホを操り陽向の連絡先を登録した。陽向も登録して、仕事が終わったら連絡することになった。
 園児用の低い靴箱の上に良く磨かれた革靴と、ピンクの小さな靴が並んでいる。

「凛子ちゃん貰おうか、靴履くだろ」

 寝ている凛子を慎重に受けとる。やはり身体が熱いなと思いながら動かされてむずがる凛子をゆっくりゆらゆら揺らしながらあやす。しっかり起きなかったので助かった。

「慣れてるな、先生」
「茶化すなよ」 

 睨むと笑顔を返された。整った容貌の笑顔って破壊力があるなとひそかに思う。女性に向けたら百人が百人落ちそうだ。

「家に行けばいいんだよね、住所、あとで送ってくれる? あ、車で来たの? 駐車場まで行こうか?」

 凛子が起きないようにそっと抱き渡す。東園が近付いた瞬間、漂う匂いに動きが止まったが徐々に嗅ぎ慣れてきたようで息を止めなくても大丈夫だった。

「ありがとう。ここでいいから仕事に戻ってくれ。連絡する」 

 間近で目が合う。美しい色合いの瞳に目が離せなくてついじっと眺めてしまう。凛子がむずがり東園が抱き直した。

「あ、じゃああとで。何か買っていくものとかあったら言ってね」
「ああ」

 ほんの数秒でも凝視してしまって申し訳なく感じる。じろじろ他人に顔を見られるなんて嫌に決まっている。
 笑みを浮かべた東園は背をむけて進み始めたかと思ったら急に立ち止まり振り返った。なにか忘れ物かと思ったが東園は陽向を見たあとすぐ向き直り歩き始めた。
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