9 / 76
運命のつがいと初恋 第1章
⑨
しおりを挟む
そもそも誰かに教えてもらわなければα、β、Ωの見分けすら自信がない。おそらくβ、あの人はαかも、とその程度だ。そんな陽向だから身内は過剰に心配したのかもしれない。
どうしようと陽向はそっと凛子を見る。鼻が詰まっているせいか寝息をつくたびすぴ、すぴと鼻が鳴っている。
「仕事とは内容が違うから役に立たないかもしれないけど、でも予定もないし、僕で良ければ手伝うよ」
自分がΩだろうが東園がαだろうがやはり病児を放っておけない。それにΩだと小学生の時に判明した陽向はすぐに診断を受け、抑制剤を服用し始めた。現在、日本在住のΩは月一の定期検診と日々の抑制剤服用を義務付けられており、陽向はその管理によって今まで発情を感じることなく過ごせている。発情期と思われる期間、身体の怠さは感じるものの、フェロモンを発生し他人を惑わせる事もなければ誰かに抱かれたくなる衝動を感じた事もない。コントロールは完璧だ。まあ問題ないかと結論づけた。
東園は凛子を抱いているのにも関わらず片手でスマホを操り陽向の連絡先を登録した。陽向も登録して、仕事が終わったら連絡することになった。
園児用の低い靴箱の上に良く磨かれた革靴と、ピンクの小さな靴が並んでいる。
「凛子ちゃん貰おうか、靴履くだろ」
寝ている凛子を慎重に受けとる。やはり身体が熱いなと思いながら動かされてむずがる凛子をゆっくりゆらゆら揺らしながらあやす。しっかり起きなかったので助かった。
「慣れてるな、先生」
「茶化すなよ」
睨むと笑顔を返された。整った容貌の笑顔って破壊力があるなとひそかに思う。女性に向けたら百人が百人落ちそうだ。
「家に行けばいいんだよね、住所、あとで送ってくれる? あ、車で来たの? 駐車場まで行こうか?」
凛子が起きないようにそっと抱き渡す。東園が近付いた瞬間、漂う匂いに動きが止まったが徐々に嗅ぎ慣れてきたようで息を止めなくても大丈夫だった。
「ありがとう。ここでいいから仕事に戻ってくれ。連絡する」
間近で目が合う。美しい色合いの瞳に目が離せなくてついじっと眺めてしまう。凛子がむずがり東園が抱き直した。
「あ、じゃああとで。何か買っていくものとかあったら言ってね」
「ああ」
ほんの数秒でも凝視してしまって申し訳なく感じる。じろじろ他人に顔を見られるなんて嫌に決まっている。
笑みを浮かべた東園は背をむけて進み始めたかと思ったら急に立ち止まり振り返った。なにか忘れ物かと思ったが東園は陽向を見たあとすぐ向き直り歩き始めた。
どうしようと陽向はそっと凛子を見る。鼻が詰まっているせいか寝息をつくたびすぴ、すぴと鼻が鳴っている。
「仕事とは内容が違うから役に立たないかもしれないけど、でも予定もないし、僕で良ければ手伝うよ」
自分がΩだろうが東園がαだろうがやはり病児を放っておけない。それにΩだと小学生の時に判明した陽向はすぐに診断を受け、抑制剤を服用し始めた。現在、日本在住のΩは月一の定期検診と日々の抑制剤服用を義務付けられており、陽向はその管理によって今まで発情を感じることなく過ごせている。発情期と思われる期間、身体の怠さは感じるものの、フェロモンを発生し他人を惑わせる事もなければ誰かに抱かれたくなる衝動を感じた事もない。コントロールは完璧だ。まあ問題ないかと結論づけた。
東園は凛子を抱いているのにも関わらず片手でスマホを操り陽向の連絡先を登録した。陽向も登録して、仕事が終わったら連絡することになった。
園児用の低い靴箱の上に良く磨かれた革靴と、ピンクの小さな靴が並んでいる。
「凛子ちゃん貰おうか、靴履くだろ」
寝ている凛子を慎重に受けとる。やはり身体が熱いなと思いながら動かされてむずがる凛子をゆっくりゆらゆら揺らしながらあやす。しっかり起きなかったので助かった。
「慣れてるな、先生」
「茶化すなよ」
睨むと笑顔を返された。整った容貌の笑顔って破壊力があるなとひそかに思う。女性に向けたら百人が百人落ちそうだ。
「家に行けばいいんだよね、住所、あとで送ってくれる? あ、車で来たの? 駐車場まで行こうか?」
凛子が起きないようにそっと抱き渡す。東園が近付いた瞬間、漂う匂いに動きが止まったが徐々に嗅ぎ慣れてきたようで息を止めなくても大丈夫だった。
「ありがとう。ここでいいから仕事に戻ってくれ。連絡する」
間近で目が合う。美しい色合いの瞳に目が離せなくてついじっと眺めてしまう。凛子がむずがり東園が抱き直した。
「あ、じゃああとで。何か買っていくものとかあったら言ってね」
「ああ」
ほんの数秒でも凝視してしまって申し訳なく感じる。じろじろ他人に顔を見られるなんて嫌に決まっている。
笑みを浮かべた東園は背をむけて進み始めたかと思ったら急に立ち止まり振り返った。なにか忘れ物かと思ったが東園は陽向を見たあとすぐ向き直り歩き始めた。
21
あなたにおすすめの小説
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
出会ったのは喫茶店
ジャム
BL
愛情・・・
相手をいつくしみ深く愛すること・・・
僕にはそんな感情わからない・・・
愛されたことがないのだから・・・
人間として生まれ、オメガであることが分かり、両親は僕を疎ましく思うようになった
そして家を追い出される形でハイワード学園の寮に入れられた・・・
この物語は愛情を知らないオメガと愛情をたっぷり注がれて育った獅子獣人の物語
この物語には「幼馴染の不良と優等生」に登場した獅子丸博昭の一人息子が登場します。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした
圭琴子
BL
この世界は、αとβとΩで出来てる。
生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。
今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。
βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。
小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。
従って俺は戸籍上、β籍になっている。
あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。
俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。
今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。
だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。
だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。
学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。
どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。
『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。
耳付きオメガは生殖能力がほしい【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全7話。猪突猛進型な医療魔術師アルファ×巻き込まれ型な獣耳のある魔術師オメガ。
オメガであるフェーレスには獣の耳がある。獣の耳を持つ『耳付き』は膨大な魔力を有するが、生殖能力がないとされている存在だ。
ある日、上司を経由して、耳付きに生殖能力がない原因を調べたい、と研究協力の依頼があった。
依頼をしたのは同じ魔術研究所で働くアルファ……イザナだった。
彼は初対面の場で『フェーレスの番に立候補』し、研究を一緒に進めようと誘ってくる。
急に詰められる距離を拒否するフェーレスだが、彼のあまりの勢いに少しずつ丸め込まれていく。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
二人のアルファは変異Ωを逃さない!
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります!
表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡
途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。
修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。
βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。
そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる