7 / 76
運命のつがいと初恋 第1章
⑦
しおりを挟む
「あ、ああ、済みません。それでは凛子ちゃん、お話のあいだお預かりしますね」
無意識に息を止めていた陽向は深呼吸をし、一歩前へ進んで東園を見上げた。陽向は背が低い訳ではない、と思うのだが同級生を見上げるというのはなんともつらい気分だ。
「三田村陽向、先生。思い出してはくれないのか。残念だな」
聞き心地のよいバリトンボイスはがっかりしたと言わんばかりに語尾を弱めた。東園はじっと陽向を見下ろしたまま、大げさに眉をハの字に寄せた。そしてため息を一つ零す。感じ悪い事このうえなかった。
「お、覚えてるよ。東園馨だろ。名前聞いてそうかもって思ったけど、違ってたら恥ずかしいし、だから言わなかっただけで」
「そうか」
目元を緩めた東園は「遊んでおいで」と凛子に話しかけゆっくりと廊下へ下ろした。
我が子に優しく話しかける東園を見て意外に感じる。中学生当時しか知らないのだから意外もなにもないけれど。
「あら、お知り合いなんて! もしかして三田村先生から園のこと聞かれていらっしゃったのかしら?」
「いえ、偶然です。なあ?」
同意を求められ頷く。
「凛子ちゃん、教室でお絵かきか、絵本読もうか」
凛子は東園のスラックスを握ったまま、小さく頷いた。凛子の空いた手をそっと取ったがやはり少し熱い気がする。
「東園、凛子ちゃん、風邪引いてない? ちょっと熱いような」
「今朝、くしゃみと鼻が出ていたけれど、熱はなかったんだが」
東園は屈むと凛子の額にそっと手を当てた。東園の横に流した髪がすっと落ちてくる。二人で凛子をのぞき込んでいるから距離が近く、東園の匂いが否応なく流れ込んでくる。
相変わらず香水がきつい。子供と一緒なのに、嫌がられないのかなと思いながら凛子の額を覆う手を眺めた。指が長い、骨張った男性らしい手だ。優しく触れる感じから凛子に対する愛情が感じ取れる。
「熱、ありそう?」
「ああ、ちょっと熱いな」
「あら、体温計持ってきましょうか?」
屈んで心配そうに様子を見ていた久保に東園はうなずいた。
「それより職員室へ行きましょう。ここは寒いかも」
陽向の言葉に東園は凛子を抱え、一行は職員室へ向かった。
この園に保健室はないが、職員室には幼児用の小さなベッドが二台ある。
「平野先生、体温計お願い」
職員室には二人の教諭が作業をしていたが、抱かれている子どもを見て手を止め素早くベッドへ誘導した。
「凛子ちゃん、お熱だけ測ってみようか」
凛子を寝かせようとするが東園から離れるのが不安なようで、ベッドへ東園が座り、その膝に凛子を座らせ体温計を脇へ挟んだ。
凛子が手を伸ばすので、陽向もそばに座り手を握る。小さく柔い手を撫でていると凛子は目を閉じ、うとうとし始めた。
無意識に息を止めていた陽向は深呼吸をし、一歩前へ進んで東園を見上げた。陽向は背が低い訳ではない、と思うのだが同級生を見上げるというのはなんともつらい気分だ。
「三田村陽向、先生。思い出してはくれないのか。残念だな」
聞き心地のよいバリトンボイスはがっかりしたと言わんばかりに語尾を弱めた。東園はじっと陽向を見下ろしたまま、大げさに眉をハの字に寄せた。そしてため息を一つ零す。感じ悪い事このうえなかった。
「お、覚えてるよ。東園馨だろ。名前聞いてそうかもって思ったけど、違ってたら恥ずかしいし、だから言わなかっただけで」
「そうか」
目元を緩めた東園は「遊んでおいで」と凛子に話しかけゆっくりと廊下へ下ろした。
我が子に優しく話しかける東園を見て意外に感じる。中学生当時しか知らないのだから意外もなにもないけれど。
「あら、お知り合いなんて! もしかして三田村先生から園のこと聞かれていらっしゃったのかしら?」
「いえ、偶然です。なあ?」
同意を求められ頷く。
「凛子ちゃん、教室でお絵かきか、絵本読もうか」
凛子は東園のスラックスを握ったまま、小さく頷いた。凛子の空いた手をそっと取ったがやはり少し熱い気がする。
「東園、凛子ちゃん、風邪引いてない? ちょっと熱いような」
「今朝、くしゃみと鼻が出ていたけれど、熱はなかったんだが」
東園は屈むと凛子の額にそっと手を当てた。東園の横に流した髪がすっと落ちてくる。二人で凛子をのぞき込んでいるから距離が近く、東園の匂いが否応なく流れ込んでくる。
相変わらず香水がきつい。子供と一緒なのに、嫌がられないのかなと思いながら凛子の額を覆う手を眺めた。指が長い、骨張った男性らしい手だ。優しく触れる感じから凛子に対する愛情が感じ取れる。
「熱、ありそう?」
「ああ、ちょっと熱いな」
「あら、体温計持ってきましょうか?」
屈んで心配そうに様子を見ていた久保に東園はうなずいた。
「それより職員室へ行きましょう。ここは寒いかも」
陽向の言葉に東園は凛子を抱え、一行は職員室へ向かった。
この園に保健室はないが、職員室には幼児用の小さなベッドが二台ある。
「平野先生、体温計お願い」
職員室には二人の教諭が作業をしていたが、抱かれている子どもを見て手を止め素早くベッドへ誘導した。
「凛子ちゃん、お熱だけ測ってみようか」
凛子を寝かせようとするが東園から離れるのが不安なようで、ベッドへ東園が座り、その膝に凛子を座らせ体温計を脇へ挟んだ。
凛子が手を伸ばすので、陽向もそばに座り手を握る。小さく柔い手を撫でていると凛子は目を閉じ、うとうとし始めた。
20
あなたにおすすめの小説
出会ったのは喫茶店
ジャム
BL
愛情・・・
相手をいつくしみ深く愛すること・・・
僕にはそんな感情わからない・・・
愛されたことがないのだから・・・
人間として生まれ、オメガであることが分かり、両親は僕を疎ましく思うようになった
そして家を追い出される形でハイワード学園の寮に入れられた・・・
この物語は愛情を知らないオメガと愛情をたっぷり注がれて育った獅子獣人の物語
この物語には「幼馴染の不良と優等生」に登場した獅子丸博昭の一人息子が登場します。
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした
圭琴子
BL
この世界は、αとβとΩで出来てる。
生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。
今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。
βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。
小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。
従って俺は戸籍上、β籍になっている。
あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。
俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。
今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。
だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。
だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。
学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。
どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。
『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。
肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)
おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが…
*オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ
*『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。
耳付きオメガは生殖能力がほしい【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全7話。猪突猛進型な医療魔術師アルファ×巻き込まれ型な獣耳のある魔術師オメガ。
オメガであるフェーレスには獣の耳がある。獣の耳を持つ『耳付き』は膨大な魔力を有するが、生殖能力がないとされている存在だ。
ある日、上司を経由して、耳付きに生殖能力がない原因を調べたい、と研究協力の依頼があった。
依頼をしたのは同じ魔術研究所で働くアルファ……イザナだった。
彼は初対面の場で『フェーレスの番に立候補』し、研究を一緒に進めようと誘ってくる。
急に詰められる距離を拒否するフェーレスだが、彼のあまりの勢いに少しずつ丸め込まれていく。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる