追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

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第9話【初任務・準備編】

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 第9話【初任務・準備編】

 王都の冒険者ギルドは、朝からニギわっていた。

 酒の匂いと肉の焼ける香りが混じり合う。

 剣を担いだ冒険者たちの怒号が響く。

 アクセルは扉の前で、一瞬だけ足が止まった。

「大丈夫よ」

 ミラの声が優しく響く。

 アクセルはウナズいて、扉を開けた。

 クリスとダリウスが先に入り、アクセルとミラが続く。

 ギルド内の視線が、四人に集まった。

「おい、あれ」

「クリスのパーティじゃないか」

「新しいメンバーがいるぞ」

 ササヤき声が聞こえる。

 アクセルは視線を逸らした。

 胸の奥に、小さな緊張が走る。

「依頼ボードを見よう」

 クリスが歩き出す。

 三人が後に続いた。

 依頼掲示板の前に着く。

 板には無数の依頼票が貼られていた。

 左側には白い紙。薬草採取、護衛任務。

 右側には黄色い紙。魔物討伐、ダンジョン探索。

 そして、最奥に赤いロープで区切られた区画。

 黒い紙に、銀の文字。

「S級依頼か」

 ダリウスがツブヤく。

 クリスがロープをくぐり、一枚の依頼票を取った。

 アクセルも近づいて、文字を読む。

 【依頼番号】S-047

 【ランク】S級

 【報酬】金貨30枚

 【内容】古代遺跡のストーンゴーレム討伐

 【備考】過去の挑戦・15パーティ。生還率・33%

 アクセルの指先が、冷たくなった。

 生還率33%。

 三組に一組しか帰れない。

「これでいくぞ」

 クリスが告げる。

「おう、燃えるな」

 ダリウスが笑った。

 ミラが依頼票をノゾき込む。

「レベル60相当ね。手強そう」

「アクセル、お前はどう思う?」

 クリスがこちらを見た。

 アクセルは息を整える。

「俺は……その、まだ」

「心配か?」

 クリスが問う。

 アクセルはウナズいた。

「当然だ。この依頼は危険だ」

 クリスが依頼票を軽くタタく。

「だが、お前のデバフがあれば勝てる」

 断言する口調。

 迷いがない。

「信じてるぜ」

 ダリウスが肩をタタいた。

 少し強すぎて、アクセルがよろめく。

「いたっ」

「悪い悪い」

 ミラが笑った。

 アクセルも、少しだけ口元が緩む。

 受付カウンターへ向かう。

 エミリアが笑顔で迎えた。

「いらっしゃいませ」

 だが、依頼票を見た瞬間、表情が固まる。

「S-047……ストーンゴーレムの討伐ですか」

 エミリアの声が、低くなった。

「ああ」

 クリスがウナズく。

「規則上は止められませんが」

 エミリアが視線を落とす。

「前回の挑戦者は四日前です。A級パーティ、五名編成でした」

 彼女の指が依頼票の備考欄を示す。

「帰還したのは二名。重傷で」

 空気が重くなる。

 アクセルの喉が、乾いた。

「それでも?」

 エミリアが問う。

「ああ」

 クリスが即答した。

「分かりました」

 エミリアがギルドカードを受け取る。

 魔法陣が光り、受理の証が記録される。

「どうか、ご無事で」

 エミリアの目に、本物の心配が宿っていた。

 定型句ではない。

 本気だ。

「ありがとうございます」

 アクセルが答えた。

 エミリアが小さく微笑む。

 ギルドを出ると、ミラが伸びをした。

「さて、装備を整えましょうか」

「武器屋に行くぞ」

 クリスが先導する。

 四人は王都の大通りを歩いた。

 石畳の道。

 両脇に並ぶ店々。

 鍛冶屋の金槌カナヅチの音が響く。

「あそこだ」

 ダリウスが指差した。

 看板には剣と盾のマーク。

『鋼鉄の牙亭』

 と書かれている。

 店内に入ると、武器の匂いが鼻を突いた。

 油と鉄の混じった香り。

 壁には剣、オノ、弓、ツエが並ぶ。

「いらっしゃい」

 店主が顔を上げた。

 ヒゲを生やした大男。

「S級の依頼用か?」

 店主がく。

「なぜ分かる?」

 ミラが首を傾げた。

「目つきでな」

 店主が笑う。

「今週で三組目だ」

 三組目。

 また、その言葉。

 店主の目が、少しだけ曇る。

「まあ、座れ。ゆっくり選んでくれ」

 クリスが奥の武器棚を見る。

 ダリウスはオノを手に取り、重さを確かめた。

 ミラはツエのコーナーへ向かう。

 アクセルは、その場に立ち尽くしていた。

「アクセル、お前から選べ」

 クリスが振り返る。

「え?」

「デバフ役が倒れたら作戦が崩壊する。お前が最優先だ」

 アクセルは目を見張った。

 前のパーティでは、いつも最後だった。

 残り物を選んでいた。

 文句も言わなかった。

「遠慮すんなよ」

 ダリウスが笑う。

「私たちのためでもあるのよ」

 ミラが微笑んだ。

 アクセルは、ツエのコーナーへ歩く。

 何本ものツエが並んでいた。

 木製、金属製、魔石を埋め込んだもの。

「これは?」

 アクセルが一本を手に取る。

 黒い木に、青い魔石。

「ああ、それは魔力増幅型だ」

 店主が近づいた。

「補助魔法の効果が15%上がる。金貨8枚だ」

 金貨8枚。

 アクセルの予算を超えている。

「すみません、やはり安い方に……」

「既に払った」

 クリスが言った。

「パーティの経費だ」

「でも」

「お前が倒れたら俺たちも死ぬ。投資だ」

 言い方は素っ気ない。

 だが、配慮は明確だった。

 アクセルはツエを握りしめる。

「ありがとうございます」

 声が、少しだけ震えた。

 全員の装備がソロった。

 クリスは剣の手入れ用具を、ダリウスは予備のオノを購入。

 ミラは火炎耐性の指輪を選んだ。

「これで準備は万端だな」

 ダリウスが満足げに言う。

 店を出る時、店主が小声で告げた。

「気をつけてくれ」

 その目が、悲しそうに細くなる。

「あんたらで、今月三組目だ」

「三組目?」

「ストーンゴーレムに挑むのが」

 店主が首を振った。

「戻ってきたのは、まだゼロだ」

 宿に戻り、四人は部屋に集まった。

 テーブルに地図を広げる。

 古代遺跡の見取り図だ。

「作戦を確認する」

 クリスが地図を指差した。

「ストーンゴーレムは遺跡の最深部にいる」

「特徴は?」

 ミラがく。

「高さ5メートル。岩の巨人だ」

 クリスが続ける。

「防御力が極めて高い。通常攻撃はほぼ通らない」

「つまり、デバフが要ってことか」

 ダリウスが笑った。

「その通り」

 クリスがアクセルを見る。

「アクセル、お前の【弱体化】でゴーレムの防御力を下げる」

「分かりました」

 アクセルがウナズく。

 だが、手が微かに震えていた。

「大丈夫か?」

 ミラが気づく。

「はい、大丈夫です」

 アクセルは手を握りしめた。

 震えが止まる。

「順番を整理する」

 クリスが続ける。

「まず、アクセルがデバフをかける」

「その間、俺とミラが時間を稼ぐ」

 ダリウスが補足した。

「デバフが効いたら、全員で集中攻撃」

 クリスが地図上のゴーレムの位置に印をつける。

「弱点は頭部と胸の魔石だ」

「魔石を砕けば倒せる」

 ミラが確認する。

「ああ」

 クリスがウナズいた。

「注意点がある」

 アクセルが口を開く。

 三人の視線が集まった。

「俺の【弱体化】は、持続時間が10分です」

「10分あれば十分だ」

 クリスが即答する。

「でも……もし外れたら」

 アクセルの声が小さくなる。

「外れたら、また撃てばいい」

 ダリウスが笑った。

「お前を信じてるぜ」

 ミラが微笑む。

 アクセルは、三人の顔を見た。

 誰も疑っていない。

 誰も責めていない。

 ただ、信じている。

 アクセルは深く息を吸った。

「やります」

「よし、決まりだ」

 クリスが地図を畳む。

「明日の朝、出発する」

 夜。

 アクセルは窓辺に立っていた。

 月明かりが部屋を照らす。

 明日、ストーンゴーレムと戦う。

 新しいパーティでの、最初の大仕事。

 胸の奥に、不安がある。

 でも、同時に。

 期待もあった。

 今度は、失敗しない。

 今度は、証明する。

 アクセルは新しいツエを握りしめた。

 木の温もりが、手に伝わる。

「頼むぞ」

 小さくツブヤいた。

 ツエが、微かに光った気がした。

 翌朝、四人は王都の城門前に集まった。

 空は晴れている。

 風が心地よい。

「全員、準備はいいな」

 クリスが確認する。

「おう」

「ええ」

「はい」

 三人が答えた。

「では、行くぞ」

 クリスが歩き出す。

 四人は城門をくぐった。

 遠くに、山脈が見える。

 その麓に、古代遺跡がある。

 ストーンゴーレムが待つ場所。

 アクセルは前を見据えた。

 不安は、まだある。

 でも、一人じゃない。

 仲間がいる。

 それが、何より心強かった。
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