追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

文字の大きさ
15 / 58

第15話 【昇格試験①】

しおりを挟む
 第15話 【昇格試験①】

 翌朝。

 ギルドの扉を開けると、エミリアが駆け寄ってきた。

「アクセルさん、お待ちしていました」

「ガレスさんから話があるって」

「はい。奥の部屋へどうぞ」

 案内された執務室。

 中には、ガレスが立っていた。

 腕を組み、こちらを見据えている。

「来たか」

 低い声。

 圧力がある。

「失礼します」

 アクセルは深く頭を下げた。

「顔を上げろ」

 ガレスが手を振る。

「お前の活躍は聞いている」

「活躍、ですか」

「ストーンゴーレムの討伐。S級パーティとの連携」

 ガレスは窓の外を見た。

「報告書を読んだ。お前のデバフが決定打だったそうだな」

「いえ、みんなのおかげです」

「謙遜するな」

 ガレスが振り向く。

「前も伝えたがお前は今、C級だ」

「はい」

「それは、低すぎる」

 アクセルの心臓が跳ねた。

「A級昇格試験を受ける意思は固まったか」

 A級。

 その言葉の重みに、息が止まる。

「ですが、俺は」

「お前なら可能だ」

 ガレスの目が、まっすぐこちらを見ている。

「試験内容を説明する」

 ガレスは机の上の書類を取った。

「制限時間10分以内に、指定モンスターを単独で討伐」

 単独。

 その言葉に、アクセルの手が震えた。

「モンスターはアイアンビースト。レベル40相当」

「レベル40」

 アクセルは唾を飲んだ。

 自分はレベル25。

 圧倒的な格差。

「受けるか?」

 ガレスの声が、重く響く。

 アクセルは拳を握った。

 爪が手のひらに食い込む。

 痛みが、現実を教えてくれる。

「やります」

 声が、少しかすれた。

 喉が渇いている。

「よし」

 ガレスがウナズいた。

「では、地下試験場へ」

 階段を降りる。

 一段ごとに、心臓の鼓動が大きくなる。

 地下試験場は、広い円形の空間だった。

 石造りの壁。

 天井には魔法の灯り。

 観客席には、すでに人がいた。

 クリス、ダリウス、ミラ。

 三人が手を振っている。

「アクセル、頑張って」

 ミラの声が響く。

「お前ならできるぜ」

 ダリウスが笑った。

 クリスは静かにウナズく。

 その視線が、温かい。

 アクセルは小さく手を振り返した。

 少しだけ、緊張が和らぐ。

「準備はいいか」

 ガレスが中央に立った。

「はい」

 アクセルは短剣を抜く。

 手のひらに汗がニジむ。

 だが、震えはもうない。

「では、始める」

 ガレスが手を振った。

 魔法陣が床に浮かび上がる。

 光が渦を巻く。

 そこから、何かが現れた。

 巨大な影。

 鋼鉄の装甲をマトった獣。

 アイアンビースト。

 高さは三メートル近い。

 全身が金属光沢を放っている。

 継ぎ目のない、完璧な装甲。

 その目が、赤く光った。

 低いウネり声。

 空気が震える。

 本能が警告を発する。

 逃げろ、と。

「開始」

 ガレスの声が響いた。

 アイアンビーストが動いた。

 地面を蹴る音。

 一瞬で、距離が詰まる。

 速い。

 アクセルは横に跳んだ。

 風圧がホホでる。

 地面に亀裂が走る。

 あの一撃を受けていたら。

 考えるだけで背筋が凍る。

 距離を取る。

 冷静に、観察する。

 全身を覆う鋼鉄の装甲。

 だが、継ぎ目はある。

 脚の関節、首の付け根。

 そこが弱点か。

 いや。

 まずは、デバフだ。

 深く息を吸う。

 魔力を練り上げる。

 体内を巡る、温かい流れ。

 それを指先に集める。

「【弱体化】」

 声に出して、発動する。

 紫色の魔法陣が空中に現れた。

 黒い霧がアイアンビーストを包む。

 ビリビリと空気がキシむ音。

 魔力が、敵に届く。

 効果が現れた。

 アイアンビーストの装甲が、鈍い色に変わる。

 動きが、目に見えて遅くなった。

 観客席からざわめきが起こる。

「おい、あれ」

「デバフだけで、あんなに」

「動きが完全に鈍ってる」

 ガレスが腕を組んだまま、じっと見ている。

 その目に、わずかな驚きが浮かんだ。

 アクセルは確認する。

 システム表示が視界の端に浮かぶ。

 【弱体化Lv5】→アイアンビースト(Lv40)

 攻撃力-70%

 防御力-70%

 速度-70%

 効いている。

 予想以上に。

 対象レベルが高いほど、効果が増大する。

 それが、俺のスキルの真価。

 チャンスだ。

 短剣を構える。

 前に踏み込む。

 アイアンビーストが腕を振るう。

 だが、遅い。

 回避は容易だった。

 懐に潜り込む。

 継ぎ目を狙う。

 脚の関節に、刃をタタき込んだ。

 ガキン。

 硬い手応え。

 だが、亀裂が入った。

 デバフで防御力が下がっている。

 通常なら傷一つつかないはずの装甲が、崩れ始めている。

 もう一撃。

 同じ場所を狙う。

 亀裂が広がった。

 アイアンビーストが咆哮ホウコウする。

 痛みを感じているのか。

 右腕が迫る。

 バックステップで距離を取る。

 息が上がってきた。

 時間を確認する。

 まだ三分しか経っていない。

 残り七分。

 魔力も、まだ余裕がある。

 いける。

 このペースなら。

 アクセルは再び踏み込んだ。

 今度は反対側の脚を狙う。

 短剣が、装甲の継ぎ目に吸い込まれる。

 ガギィ。

 金属がキシむ音。

 亀裂が走る。

 一撃、また一撃。

 少しずつ、確実に。

 ダメージを蓄積させていく。

 観客席から歓声が上がった。

「すげえ」

「補助職が、単独で」

 ダリウスが立ち上がる。

「あいつ、マジでやってるぞ」

 ミラが両手を口に当てている。

「アクセルくん」

 クリスは微笑んでいた。

 その目が、誇らしげだ。

 ガレスは動かない。

 だが、その視線は鋭い。

 全ての動きを、見逃さないように。

 内心で、ツブヤく。

 (この若者、基礎がしっかりしている)

 (無駄な動きがない)

 (そして、デバフの使い方が)

 (見事だ)

 五分が経過した。

 アイアンビーストの動きが、さらに鈍る。

 両脚の装甲に、深い亀裂。

 もう少しだ。

 アクセルは呼吸を整える。

 汗が額を伝う。

 だが、集中は途切れない。

 次の一手を考える。

 脚を完全に破壊すれば、動けなくなる。

 そうすれば、致命傷を与えられる。

 もう一度、デバフを重ねるか。

 いや、魔力は温存すべきか。

 判断の瞬間。

 アイアンビーストが、突然動いた。

 予想外の速度。

 デバフが効いているはずなのに。

 右腕が、横薙ヨコナギぎに迫る。

 間に合わない。

 アクセルは地面を転がった。

 衝撃が背中を襲う。

 痛みが走る。

 だが、致命傷は避けた。

 立ち上がる。

 息が荒い。

 まずい。

 集中が切れかけている。

 落ち着け。

 まだ時間はある。

 残り四分。

 できる。

 アクセルは再び短剣を構えた。

 今度こそ、決める。

 深く、息を吸う。

 そして。

 踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

追放された【鑑定士】の俺、ゴミスキルのはずが『神の眼』で成り上がる〜今更戻ってこいと言われても、もう遅い〜

☆ほしい
ファンタジー
Sランクパーティ『紅蓮の剣』に所属する鑑定士のカイは、ある日突然、リーダーのアレックスから役立たずの烙印を押され、追放を宣告される。 「お前のスキルはゴミだ」――そう蔑まれ、長年貢献してきたパーティを追い出されたカイ。 しかし、絶望の中でたった一人、自らのスキル【鑑定】と向き合った時、彼はその能力に隠された真の力に気づく。 それは、万物の本質と未来すら見通す【神の眼】だった。 これまでパーティの成功のために尽くしてきた力を、これからは自分のためだけに行使する。 価値の分からなかった元仲間たちが後悔した頃には、カイは既に新たな仲間と富、そして名声を手に入れ、遥か高みへと駆け上がっているだろう。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた男が、世界で唯一の神眼使いとして成り上がる物語。 ――今更戻ってこいと言われても、もう遅い。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

☆ほしい
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

処理中です...