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第15話 【昇格試験①】
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第15話 【昇格試験①】
翌朝。
ギルドの扉を開けると、エミリアが駆け寄ってきた。
「アクセルさん、お待ちしていました」
「ガレスさんから話があるって」
「はい。奥の部屋へどうぞ」
案内された執務室。
中には、ガレスが立っていた。
腕を組み、こちらを見据えている。
「来たか」
低い声。
圧力がある。
「失礼します」
アクセルは深く頭を下げた。
「顔を上げろ」
ガレスが手を振る。
「お前の活躍は聞いている」
「活躍、ですか」
「ストーンゴーレムの討伐。S級パーティとの連携」
ガレスは窓の外を見た。
「報告書を読んだ。お前のデバフが決定打だったそうだな」
「いえ、みんなのおかげです」
「謙遜するな」
ガレスが振り向く。
「前も伝えたがお前は今、C級だ」
「はい」
「それは、低すぎる」
アクセルの心臓が跳ねた。
「A級昇格試験を受ける意思は固まったか」
A級。
その言葉の重みに、息が止まる。
「ですが、俺は」
「お前なら可能だ」
ガレスの目が、まっすぐこちらを見ている。
「試験内容を説明する」
ガレスは机の上の書類を取った。
「制限時間10分以内に、指定モンスターを単独で討伐」
単独。
その言葉に、アクセルの手が震えた。
「モンスターはアイアンビースト。レベル40相当」
「レベル40」
アクセルは唾を飲んだ。
自分はレベル25。
圧倒的な格差。
「受けるか?」
ガレスの声が、重く響く。
アクセルは拳を握った。
爪が手のひらに食い込む。
痛みが、現実を教えてくれる。
「やります」
声が、少しかすれた。
喉が渇いている。
「よし」
ガレスが頷いた。
「では、地下試験場へ」
階段を降りる。
一段ごとに、心臓の鼓動が大きくなる。
地下試験場は、広い円形の空間だった。
石造りの壁。
天井には魔法の灯り。
観客席には、すでに人がいた。
クリス、ダリウス、ミラ。
三人が手を振っている。
「アクセル、頑張って」
ミラの声が響く。
「お前ならできるぜ」
ダリウスが笑った。
クリスは静かに頷く。
その視線が、温かい。
アクセルは小さく手を振り返した。
少しだけ、緊張が和らぐ。
「準備はいいか」
ガレスが中央に立った。
「はい」
アクセルは短剣を抜く。
手のひらに汗が滲む。
だが、震えはもうない。
「では、始める」
ガレスが手を振った。
魔法陣が床に浮かび上がる。
光が渦を巻く。
そこから、何かが現れた。
巨大な影。
鋼鉄の装甲を纏った獣。
アイアンビースト。
高さは三メートル近い。
全身が金属光沢を放っている。
継ぎ目のない、完璧な装甲。
その目が、赤く光った。
低い唸り声。
空気が震える。
本能が警告を発する。
逃げろ、と。
「開始」
ガレスの声が響いた。
アイアンビーストが動いた。
地面を蹴る音。
一瞬で、距離が詰まる。
速い。
アクセルは横に跳んだ。
風圧が頬を撫でる。
地面に亀裂が走る。
あの一撃を受けていたら。
考えるだけで背筋が凍る。
距離を取る。
冷静に、観察する。
全身を覆う鋼鉄の装甲。
だが、継ぎ目はある。
脚の関節、首の付け根。
そこが弱点か。
いや。
まずは、デバフだ。
深く息を吸う。
魔力を練り上げる。
体内を巡る、温かい流れ。
それを指先に集める。
「【弱体化】」
声に出して、発動する。
紫色の魔法陣が空中に現れた。
黒い霧がアイアンビーストを包む。
ビリビリと空気が軋む音。
魔力が、敵に届く。
効果が現れた。
アイアンビーストの装甲が、鈍い色に変わる。
動きが、目に見えて遅くなった。
観客席からざわめきが起こる。
「おい、あれ」
「デバフだけで、あんなに」
「動きが完全に鈍ってる」
ガレスが腕を組んだまま、じっと見ている。
その目に、わずかな驚きが浮かんだ。
アクセルは確認する。
システム表示が視界の端に浮かぶ。
【弱体化Lv5】→アイアンビースト(Lv40)
攻撃力-70%
防御力-70%
速度-70%
効いている。
予想以上に。
対象レベルが高いほど、効果が増大する。
それが、俺のスキルの真価。
チャンスだ。
短剣を構える。
前に踏み込む。
アイアンビーストが腕を振るう。
だが、遅い。
回避は容易だった。
懐に潜り込む。
継ぎ目を狙う。
脚の関節に、刃を叩き込んだ。
ガキン。
硬い手応え。
だが、亀裂が入った。
デバフで防御力が下がっている。
通常なら傷一つつかないはずの装甲が、崩れ始めている。
もう一撃。
同じ場所を狙う。
亀裂が広がった。
アイアンビーストが咆哮する。
痛みを感じているのか。
右腕が迫る。
バックステップで距離を取る。
息が上がってきた。
時間を確認する。
まだ三分しか経っていない。
残り七分。
魔力も、まだ余裕がある。
いける。
このペースなら。
アクセルは再び踏み込んだ。
今度は反対側の脚を狙う。
短剣が、装甲の継ぎ目に吸い込まれる。
ガギィ。
金属が軋む音。
亀裂が走る。
一撃、また一撃。
少しずつ、確実に。
ダメージを蓄積させていく。
観客席から歓声が上がった。
「すげえ」
「補助職が、単独で」
ダリウスが立ち上がる。
「あいつ、マジでやってるぞ」
ミラが両手を口に当てている。
「アクセルくん」
クリスは微笑んでいた。
その目が、誇らしげだ。
ガレスは動かない。
だが、その視線は鋭い。
全ての動きを、見逃さないように。
内心で、呟く。
(この若者、基礎がしっかりしている)
(無駄な動きがない)
(そして、デバフの使い方が)
(見事だ)
五分が経過した。
アイアンビーストの動きが、さらに鈍る。
両脚の装甲に、深い亀裂。
もう少しだ。
アクセルは呼吸を整える。
汗が額を伝う。
だが、集中は途切れない。
次の一手を考える。
脚を完全に破壊すれば、動けなくなる。
そうすれば、致命傷を与えられる。
もう一度、デバフを重ねるか。
いや、魔力は温存すべきか。
判断の瞬間。
アイアンビーストが、突然動いた。
予想外の速度。
デバフが効いているはずなのに。
右腕が、横薙ぎに迫る。
間に合わない。
アクセルは地面を転がった。
衝撃が背中を襲う。
痛みが走る。
だが、致命傷は避けた。
立ち上がる。
息が荒い。
まずい。
集中が切れかけている。
落ち着け。
まだ時間はある。
残り四分。
できる。
アクセルは再び短剣を構えた。
今度こそ、決める。
深く、息を吸う。
そして。
踏み込んだ。
翌朝。
ギルドの扉を開けると、エミリアが駆け寄ってきた。
「アクセルさん、お待ちしていました」
「ガレスさんから話があるって」
「はい。奥の部屋へどうぞ」
案内された執務室。
中には、ガレスが立っていた。
腕を組み、こちらを見据えている。
「来たか」
低い声。
圧力がある。
「失礼します」
アクセルは深く頭を下げた。
「顔を上げろ」
ガレスが手を振る。
「お前の活躍は聞いている」
「活躍、ですか」
「ストーンゴーレムの討伐。S級パーティとの連携」
ガレスは窓の外を見た。
「報告書を読んだ。お前のデバフが決定打だったそうだな」
「いえ、みんなのおかげです」
「謙遜するな」
ガレスが振り向く。
「前も伝えたがお前は今、C級だ」
「はい」
「それは、低すぎる」
アクセルの心臓が跳ねた。
「A級昇格試験を受ける意思は固まったか」
A級。
その言葉の重みに、息が止まる。
「ですが、俺は」
「お前なら可能だ」
ガレスの目が、まっすぐこちらを見ている。
「試験内容を説明する」
ガレスは机の上の書類を取った。
「制限時間10分以内に、指定モンスターを単独で討伐」
単独。
その言葉に、アクセルの手が震えた。
「モンスターはアイアンビースト。レベル40相当」
「レベル40」
アクセルは唾を飲んだ。
自分はレベル25。
圧倒的な格差。
「受けるか?」
ガレスの声が、重く響く。
アクセルは拳を握った。
爪が手のひらに食い込む。
痛みが、現実を教えてくれる。
「やります」
声が、少しかすれた。
喉が渇いている。
「よし」
ガレスが頷いた。
「では、地下試験場へ」
階段を降りる。
一段ごとに、心臓の鼓動が大きくなる。
地下試験場は、広い円形の空間だった。
石造りの壁。
天井には魔法の灯り。
観客席には、すでに人がいた。
クリス、ダリウス、ミラ。
三人が手を振っている。
「アクセル、頑張って」
ミラの声が響く。
「お前ならできるぜ」
ダリウスが笑った。
クリスは静かに頷く。
その視線が、温かい。
アクセルは小さく手を振り返した。
少しだけ、緊張が和らぐ。
「準備はいいか」
ガレスが中央に立った。
「はい」
アクセルは短剣を抜く。
手のひらに汗が滲む。
だが、震えはもうない。
「では、始める」
ガレスが手を振った。
魔法陣が床に浮かび上がる。
光が渦を巻く。
そこから、何かが現れた。
巨大な影。
鋼鉄の装甲を纏った獣。
アイアンビースト。
高さは三メートル近い。
全身が金属光沢を放っている。
継ぎ目のない、完璧な装甲。
その目が、赤く光った。
低い唸り声。
空気が震える。
本能が警告を発する。
逃げろ、と。
「開始」
ガレスの声が響いた。
アイアンビーストが動いた。
地面を蹴る音。
一瞬で、距離が詰まる。
速い。
アクセルは横に跳んだ。
風圧が頬を撫でる。
地面に亀裂が走る。
あの一撃を受けていたら。
考えるだけで背筋が凍る。
距離を取る。
冷静に、観察する。
全身を覆う鋼鉄の装甲。
だが、継ぎ目はある。
脚の関節、首の付け根。
そこが弱点か。
いや。
まずは、デバフだ。
深く息を吸う。
魔力を練り上げる。
体内を巡る、温かい流れ。
それを指先に集める。
「【弱体化】」
声に出して、発動する。
紫色の魔法陣が空中に現れた。
黒い霧がアイアンビーストを包む。
ビリビリと空気が軋む音。
魔力が、敵に届く。
効果が現れた。
アイアンビーストの装甲が、鈍い色に変わる。
動きが、目に見えて遅くなった。
観客席からざわめきが起こる。
「おい、あれ」
「デバフだけで、あんなに」
「動きが完全に鈍ってる」
ガレスが腕を組んだまま、じっと見ている。
その目に、わずかな驚きが浮かんだ。
アクセルは確認する。
システム表示が視界の端に浮かぶ。
【弱体化Lv5】→アイアンビースト(Lv40)
攻撃力-70%
防御力-70%
速度-70%
効いている。
予想以上に。
対象レベルが高いほど、効果が増大する。
それが、俺のスキルの真価。
チャンスだ。
短剣を構える。
前に踏み込む。
アイアンビーストが腕を振るう。
だが、遅い。
回避は容易だった。
懐に潜り込む。
継ぎ目を狙う。
脚の関節に、刃を叩き込んだ。
ガキン。
硬い手応え。
だが、亀裂が入った。
デバフで防御力が下がっている。
通常なら傷一つつかないはずの装甲が、崩れ始めている。
もう一撃。
同じ場所を狙う。
亀裂が広がった。
アイアンビーストが咆哮する。
痛みを感じているのか。
右腕が迫る。
バックステップで距離を取る。
息が上がってきた。
時間を確認する。
まだ三分しか経っていない。
残り七分。
魔力も、まだ余裕がある。
いける。
このペースなら。
アクセルは再び踏み込んだ。
今度は反対側の脚を狙う。
短剣が、装甲の継ぎ目に吸い込まれる。
ガギィ。
金属が軋む音。
亀裂が走る。
一撃、また一撃。
少しずつ、確実に。
ダメージを蓄積させていく。
観客席から歓声が上がった。
「すげえ」
「補助職が、単独で」
ダリウスが立ち上がる。
「あいつ、マジでやってるぞ」
ミラが両手を口に当てている。
「アクセルくん」
クリスは微笑んでいた。
その目が、誇らしげだ。
ガレスは動かない。
だが、その視線は鋭い。
全ての動きを、見逃さないように。
内心で、呟く。
(この若者、基礎がしっかりしている)
(無駄な動きがない)
(そして、デバフの使い方が)
(見事だ)
五分が経過した。
アイアンビーストの動きが、さらに鈍る。
両脚の装甲に、深い亀裂。
もう少しだ。
アクセルは呼吸を整える。
汗が額を伝う。
だが、集中は途切れない。
次の一手を考える。
脚を完全に破壊すれば、動けなくなる。
そうすれば、致命傷を与えられる。
もう一度、デバフを重ねるか。
いや、魔力は温存すべきか。
判断の瞬間。
アイアンビーストが、突然動いた。
予想外の速度。
デバフが効いているはずなのに。
右腕が、横薙ぎに迫る。
間に合わない。
アクセルは地面を転がった。
衝撃が背中を襲う。
痛みが走る。
だが、致命傷は避けた。
立ち上がる。
息が荒い。
まずい。
集中が切れかけている。
落ち着け。
まだ時間はある。
残り四分。
できる。
アクセルは再び短剣を構えた。
今度こそ、決める。
深く、息を吸う。
そして。
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