追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

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第16話 【昇格試験②】

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 第16話 【昇格試験②】

 短剣を構え直す。

 呼吸を整える。

 残り時間は三分。

 アイアンビーストの装甲は、すでに無数の亀裂に覆われている。

 右脚の関節部が、最も深く割れていた。

 そこだ。

 もう一度、同じ場所を狙う。

 装甲が完全に砕ければ、動けなくなる。

 そうすれば、止めを刺せる。

 アクセルは地面を蹴った。

 アイアンビーストの腕が振り下ろされる。

 デバフで鈍っているとはいえ、まだ脅威だ。

 横に跳ぶ。

 風圧がホホでる。

 地面に亀裂が走った。

 間一髪。

 だが、チャンスでもある。

 懐に潜り込む。

 右脚の関節部が目の前に迫る。

 短剣を逆手に持ち替えた。

 全体重を乗せて、亀裂へタタき込む。

 ガギィ。

 金属がキシむ音。

 亀裂が一気に広がった。

 装甲の破片が飛び散る。

 アイアンビーストが咆哮ホウコウする。

 痛みか、怒りか。

 だが、まだ立っている。

 まだ足りない。

 バックステップで距離を取る。

 息が上がってきた。

 汗が目に入る。

 拭う余裕はない。

 観客席から、声が聞こえる。

「いけるぞ」

 ダリウスの声だ。

「もう少しだ」

 アクセルはウナズいた。

 魔力を確認する。

 まだ、ある。

 デバフの効果時間も、あと五分は持つ。

 今度こそ。

 深く息を吸った。

 魔力を練り上げる。

 体内を巡る、温かい流れ。

 それを、右手に集める。

 アイアンビーストが動いた。

 だが、右脚が崩れかけている。

 バランスを失っている。

 今だ。

 アクセルは跳躍した。

 獣の頭部へ。

 右手の魔力が、淡く光る。

 掌を、額の中心へタタき込んだ。

 鈍い衝撃。

 世界が、一瞬静止する。

 アイアンビーストの全身から、光がホトバシった。

 装甲の亀裂が、すべて発光する。

 まるで、無数の稲妻が走るように。

 ガラスが砕ける音。

 鋼鉄の装甲が、音を立てて崩れ落ちた。

 破片が地面に散らばる。

 金属の雨。

 巨体が、膝をついた。

 そして、倒れる。

 地面が揺れた。

 アクセルは着地する。

 膝が震えた。

 だが、立っている。

 アイアンビーストは、もう動かない。

 勝った。

 胸が激しく上下する。

 空気を吸い込む。

 肺が痛い。

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 だが、立っている。

 観客席から、歓声が上がった。

「やった」

「倒した」

「補助職が、単独で」

 ミラが立ち上がっている。

 両手を口に当てて。

 ダリウスが拳を振り上げた。

 クリスは、静かに微笑んでいる。

 ガレスが、こちらへ歩いてくる。

 腕を組んだまま。

 その目が、アクセルを見ている。

 そして、倒れたアイアンビーストを見た。

 数秒の沈黙。

 アクセルの心臓が、大きく跳ねる。

「時間は」

 ガレスが口を開いた。

「七分十二秒」

 制限時間の十分より、三分近く早い。

「結果」

 ガレスの声が、低く響く。

 空気が張り詰める。

「合格だ」

 その言葉が、ゆっくりと胸に染み込んでいく。

 合格。

 アクセルは、深く息を吐いた。

 やった。

 観客席から、再び歓声。

 ミラが跳び上がっている。

「やったわ」

 ダリウスが笑った。

「当然だぜ」

 クリスが、小さく拍手する。

 その目が、温かい。

 ガレスは、アクセルの顔をじっと見た。

「見事だった」

 短い言葉。

 だが、その重みが伝わってくる。

「ありがとうございます」

 アクセルは頭を下げた。

「顔を上げろ」

 ガレスが手を振る。

「お前は、それに値する」

 そして、続けた。

「そして」

 ガレスの声が、さらに重くなる。

「お前の試験結果を鑑み」

 一瞬の間。

「B級を飛ばして、A級への昇格を認める」

 A級。

 その言葉が、耳に届くまで時間がかかった。

 A級。

 C級だった俺が。

「ギルド五十年の歴史で」

 ガレスが腕を組み直した。

「B級を飛ばした者は、三人しかいない」

 その目が、僅かに細められる。

「お前は、四人目だ」

 四人目。

 アクセルは、何も言えなかった。

 言葉が、出てこない。

 観客席が、静まり返っている。

 そして。

「すげえ」

 ダリウスの声が、静寂を破った。

「マジかよ」

 ミラが目を見開いている。

「A級」

 クリスが立ち上がった。

 階段を降りてくる。

 アクセルの前に立つ。

 そして、肩をタタいた。

「よくやった」

 その声が、少しだけ震えている。

「実力通りだ」

 ダリウスとミラも、駆け寄ってきた。

「おめでとう、アクセルくん」

 ミラが笑顔で言う。

「お前、やりやがったな」

 ダリウスが豪快に背中をタタいた。

 痛い。

 だが、ウレしい。

 ガレスが、懐から何かを取り出した。

 新しい冒険者カード。

 白銀色の、美しいカード。

 表面には、A級の紋章が刻まれている。

「これが、お前の新しい証だ」

 ガレスがカードを差し出す。

 アクセルは、それを受け取った。

 重い。

 C級のカードより、ずっと重い。

 これが、A級。

 俺の、新しい証。

「今夜、祝賀の宴を開く」

 ガレスが告げた。

「グランドホールで。遅れるな」

 アクセルはウナズいた。

 カードを握りしめる。

 無能と言われた。

 足手纏アシデマトいだと。

 だが、今。

 俺は、A級冒険者だ。

「さあ、行くぞ」

 クリスが微笑んだ。

「勝利の宴の準備だ」

 その手が、自然にアクセルの背中を押す。

 四人で、試験場を後にした。

 新しい、一歩を踏み出す。
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