追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

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第17話 【クリスの好意】

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 第17話 【クリスの好意】

 夜の王都は、祝祭の空気に包まれていた。

 石畳の通りには、魔法の街灯が青白い光を灯している。

 アクセルは、歩きながら新しい冒険者カードを見つめた。

 白銀色の表面に、A級の紋章が刻まれている。

 まだ、実感が湧かない。

 本当に、俺が。

「着いたわ」

 クリスの声で、顔を上げた。

 見覚えのある建物。

 銀の翼亭だ。

 前回来た時と同じ、温かな光が窓から漏れている。

「また、ここですか」

 アクセルは微笑んだ。

「気に入ったから」

 クリスが答える。

 その声が、いつもより柔らかい。

「いい店だよな」

 ダリウスが豪快に笑った。

「今日も俺のおごりだ」

「え、でも」

「いいから」

 ミラが腕を引っ張る。

「アクセルくんの昇格祝いなんだから」

 店内に入ると、給仕が顔を覚えていた。

「いらっしゃいませ。またのお越しを」

 前回と同じ、窓際の席に案内される。

「さあ、座って座って」

 ダリウスが椅子を引く。

 アクセルが腰を下ろすと、隣にクリスが座った。

 いつもより、近い。

 肩が触れそうな距離だ。

 メニューが配られる。

 文字を追うが、やはり料理名が難しい。

「えっと」

 アクセルは困惑した。

「これ、どういう料理なんでしょう」

カモのコンフィね」

 クリスが、すぐに答えた。

「低温でじっくり火を通した料理よ」

 彼女の指が、メニューの別の場所を示す。

「あなた、肉料理が好きだったでしょう」

「あ、はい」

 アクセルはウナズいた。

 覚えていたのか。

 そんな些細ササイなこと。

「じゃあ、これがいいわ」

 クリスが給仕を呼ぶ。

 アクセルの分まで、注文を伝えている。

 その横顔を、何気なく見つめた。

 いつものリンとした表情。

 だが、どこか柔らかい。

「クリスさん、詳しいんですね」

「……まあ、多少は」

 彼女は視線を逸らした。

 耳が、僅かに赤い。

「よし、じゃあ乾杯と行こうぜ」

 ダリウスがグラスを掲げた。

「アクセルのA級昇格、おめでとう」

「おめでとう、アクセルくん」

 ミラが笑顔で続ける。

「見事だったわ」

 クリスの声が、いつもより低い。

 グラスが、テーブルの上で静かに触れ合った。

 澄んだ音が響く。

「ありがとうございます」

 アクセルは頭を下げた。

「皆さんのおかげです」

「謙遜すんな」

 ダリウスが肩をタタく。

「お前の実力だ」

「そうそう」

 ミラが身を乗り出した。

「あの試験、私も見てたけど」

「すっごかったよ」

「いや、でも」

「素直に受け取りなさい」

 クリスが口を挟んだ。

 その目が、真っ直ぐアクセルを見ている。

「あなたは、それに値する」

 胸が、不思議な温かさで満たされる。

 彼女に認められることが、こんなにもウレしいとは。

 アクセルは、小さく微笑んだ。

 料理が運ばれてきた。

 湯気が立ち上る。

 香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

「うわ、美味そう」

 ダリウスが目を輝かせる。

「いただきます」

 四人で、同時に手を合わせた。

 フォークを取る。

 肉を切り分けようとした時。

「待って」

 クリスの手が伸びてきた。

 彼女は、アクセルの皿に添えられたソースの小皿を取り上げる。

「このソース、少し温め直した方がいいわ」

 給仕を呼び、静かに依頼する。

「あ、ありがとうございます」

「……いえ」

 クリスは、また視線を逸らした。

 ミラが、二人を交互に見ている。

 何か言いたげな顔だ。

 だが、口を開かない。

 代わりに、小さく微笑んでいる。

 食事が進む。

 会話も、自然と弾んだ。

「そういえばさ」

 ダリウスが口を開く。

「明日、ギルドで大型依頼の発表があるらしいぜ」

「大型依頼?」

 アクセルが聞き返す。

「ああ」

 ダリウスがウナズいた。

「詳しくは知らねえけど」

「S級でも難しいって話だ」

「面白そうね」

 クリスが興味を示す。

「どんな内容かしら」

「俺も気になる」

 ミラが身を乗り出した。

「アクセルくんも一緒なら、きっと大丈夫だよね」

「いや、俺なんて」

「また謙遜か」

 ダリウスが笑う。

「お前がいなきゃ、俺たちも困るんだぜ」

 クリスが、何か言いかけて止まった。

 唇が、わずかに開く。

 だが、言葉にならない。

 俺を見つめて、すぐに視線を落とした。

「クリスさん?」

 アクセルが尋ねた。

「……いえ」

 彼女は首を振った。

「明日、早い方がいいわね」

「今夜は早めに休みましょう」

 食事が終わり、デザートが運ばれてきた。

 小さなケーキに、果物が添えられている。

 甘い香りが漂った。

「これ、美味しそう」

 ミラが目を輝かせる。

 アクセルがフォークを取ると、クリスの手が動いた。

 彼女は、自分の皿から一切れのイチゴを取る。

 そして、アクセルの皿に置いた。

「え」

「あなた、イチゴが好きだったでしょう」

 クリスが静かに言う。

「私は、そこまで甘いものが得意じゃないから」

「あ、ありがとうございます」

 彼女の指が、一瞬だけ触れた。

 冷たい、と思った。

 だが、すぐに離れる。

 クリスは、窓の外を見つめていた。

 横顔が、キャンドルの光で照らされている。

 いつものリンとした表情。

 だが、ホホに、ほんの少しだけ赤みが差している。

 ミラが、小さく咳払セキバラいをした。

 そして、意味ありげにクリスを見ている。

 だが、クリスは気づかない。

 ただ、窓の外を見つめたまま。

 (何を、考えているんだろう)

 アクセルは、彼女の横顔を見つめた。

 (いつもより、様子が違う気がする)

 だが、その理由は分からない。

 店を出ると、夜風が冷たかった。

 通りは、人影もまばらだ。

「じゃあな、明日またギルドで」

 ダリウスが手を振る。

「お前ら、ちゃんと休めよ」

「うん、おやすみ」

 ミラも笑顔で別れた。

 アクセルとクリスだけが、並んで歩く。

 宿までの道。

 沈黙が、降りてきた。

 だが、気まずくはない。

 むしろ、心地よい。

「今日は」

 クリスが口を開いた。

 その声が、夜の静けさに溶けていく。

「本当に、よくやったわ」

「ありがとうございます」

「これからも」

 彼女が続ける。

 だが、言葉が途切れた。

 俺の方を見て、すぐに視線を逸らす。

「これからも?」

「……一緒に、戦いましょう」

 クリスが、小さく笑った。

 その笑顔が、月明かりに照らされている。

 いつもとは違う、柔らかな笑みだ。

「はい」

 アクセルも笑った。

「よろしくお願いします」

 宿に着くと、クリスは自分の部屋へ向かった。

 扉の前で、彼女は振り返る。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 扉が、静かに閉まった。

 アクセルは、自分の部屋へ戻る。

 ベッドに横になった。

 今日は、長い一日だった。

 試験。

 合格。

 そして、仲間との食事。

 目を閉じる。

 だが、眠れない。

 クリスの横顔が、脳裏に浮かぶ。

 あの、柔らかな表情。

 いつもと、少し違った。

 赤く染まったホホ

 窓の外を見つめる、その横顔。

 (なぜだろう)

 アクセルは、天井を見つめた。

 (心臓の音が、やけにうるさい)

 理由は、分からない。

 ただ、胸の奥が温かい。

 彼女の笑顔を思い出すたびに、鼓動が速くなる。

 これが、何なのか。

 まだ、分からない。

 その夜、アクセルは久しぶりに深く眠った。

 夢の中で、また彼女の笑顔を見た。
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