追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

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第14話 【噂の広がり】

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 第14話 【ウワサの広がり】

 銀の翼亭の扉を開けた瞬間。

 いつもと違う空気が流れ込んできた。

 酒場は満席に近い。

 だが、その喧騒ケンソウの質が違う。

「おい、聞いたか」

 カウンター近くの荒くれ冒険者が、ジョッキを揺らしながら言った。

「ヘルハウンドキングの件だろ」

「ああ。勇者パーティが負けたって」

 別のテーブルから若い冒険者の声。

「マジかよ。あの勇者様が」

「レベル55程度だろ。楽勝じゃなかったのか」

 ベテラン風の男が苦笑する。

「装備もソロってたはずだ。それが撤退とは」

「何が足りなかったんだ」

「さあな」

 男は酒をアオった。

「ただ、一つ思い当たることがある」

 周囲の視線が集まる。

「デバフ使いを追放したって話、覚えてるか」

 沈黙。

 誰もが、その意味を理解した。

「まさか」

「まさか、じゃない。あのストーンゴーレム討伐の話も聞いただろ」

「ああ、S級パーティと組んでるっていう」

「そのデバフ使いが、元は勇者パーティにいたんだとさ」

 ざわめきが広がる。

「つまり、あのパーティは」

「自分たちの要を、自分で捨てたってわけだ」

 誰かが低く笑った。

「バカだな」

 アクセルは、酒場の入り口で立ち止まった。

 自分の名前は聞こえなかった。

 だが、内容は分かる。

 クリスが肩をタタいた。

「気にすることないわ」

「いや、気にはしてない」

 アクセルは小さく首を振る。

「ただ、不思議な感じだ」

 四人は空いているテーブルへ向かう。

 その道すがら。

 視線を感じた。

 何人もの冒険者が、こちらを見ている。

 以前とは違う目だ。

 ダリウスが豪快に笑った。

「おう、人気者だな」

「やめてくれ」

 アクセルは小さくウメいた。

 席に着くと、すぐに店員が駆け寄ってくる。

「いらっしゃいませ。ご注文は」

 以前なら、呼んでも来なかった。

 それが今は。

「エールを四つ」

 クリスが注文する。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 店員は丁寧に頭を下げて去った。

 ミラがウレしそうに笑う。

「アクセルくん、すごいね」

「何が」

「みんな、こっち見てるよ」

「見られてるのが、すごいのか」

 アクセルは苦笑する。

 ミラは首を傾げた。

「だって、認められてるってことでしょ」

「そうだな」

 ダリウスがテーブルをタタく。

「俺たちのパーティ、有名になったぜ」

「有名って」

「ストーンゴーレムを倒したって話、もう街中に広がってる」

 クリスが静かにウナズく。

「ギルドの公式記録にも残ったわ」

「そうか」

 アクセルは視線を落とした。

 実感が湧かない。

 数日前まで、自分は無能と罵られていた。

 それが今は。

「アクセル」

 クリスの声。

「ん」

「これに慣れる必要はないけど」

 彼女は微笑む。

「受け入れてもいいのよ」

「受け入れる」

「あなたは実力を証明した。それだけよ」

 シンプルな言葉。

 だが、胸に響いた。

 エールが運ばれてくる。

 四人は軽く杯を合わせた。

「今日も、よく頑張った」

 クリスの音頭。

「おう」

 ダリウスが豪快に飲み干す。

 ミラもウレしそうに杯を傾ける。

 アクセルは、ゆっくりと味わった。

 少しだけ、肩の力が抜けた気がした。

 そこへ。

「失礼します」

 若い冒険者が近づいてきた。

 二十歳前後だろうか。

 緊張した面持ちで、アクセルを見ている。

「あの、アクセルさんですよね」

「ああ、そうだが」

「やっぱり」

 若者の顔が輝いた。

「ストーンゴーレムを倒したって、本当ですか」

「本当だ」

 アクセルはウナズく。

「すごい。デバフだけで、あんな化け物を」

「いや、一人じゃない」

 アクセルは仲間を示した。

「みんなで倒したんだ」

「でも、デバフがなきゃ無理だったって」

 若者は興奮気味に続ける。

「俺、ずっとデバフは使えないって思ってました」

「そうか」

「でも、アクセルさんを見て、考えが変わりました」

 真剣な目。

「俺も、補助職を目指そうと思います」

 アクセルは、少し驚いた。

 自分の行動が、誰かに影響を与えている。

 それは、予想していなかった。

「頑張れ」

 短く、だが心を込めて言う。

「ありがとうございます」

 若者は深く頭を下げて去った。

 ミラが笑う。

「アクセルくん、いい顔してた」

「そうか」

「うん。すごく」

 ダリウスが肩をタタく。

「お前、人に影響与えるタイプだな」

「そんなつもりはない」

「つもりがなくても、そうなってる」

 クリスが静かに言った。

「それが、実力者の宿命よ」

 アクセルは何も言えなかった。

 酒場を出ると、夕暮れの街が広がっていた。

 オレンジ色の光が石畳を染めている。

 人通りは多い。

 市場帰りの人々、仕事を終えた職人たち。

 その中を、四人は歩く。

「明日は何する」

 ダリウスが尋ねた。

「ギルドに寄る必要がある」

 クリスが答える。

「次の依頼を確認しないと」

「そうだな」

 アクセルはウナズいた。

 そこへ。

「あの」

 声がかかった。

 振り向くと、少女が立っていた。

 十代半ばだろうか。

 手には、小さなノートを握りしめている。

「アクセルさん、ですか」

「ああ」

「あの、サイン、いただけますか」

 サイン。

 アクセルの手が止まった。

 サイン?

 自分に?

「私は」

 言葉が出ない。

 少女は期待に満ちた目で見ている。

 クリスが小さく笑った。

「どうぞ」

 促されて、アクセルはノートを受け取る。

 ペンも差し出された。

 何を書けばいい。

 名前だけでいいのか。

 手が震える。

 結局、自分の名前を書いた。

 ただの名前。

 それだけ。

「ありがとうございます」

 少女が満面の笑みで受け取る。

「大切にします」

 そう言って、駆けていった。

 アクセルは、その背中を見送る。

「初めてのサインね」

 クリスが言った。

「ああ」

「どうだった」

「分からない」

 アクセルは正直に答えた。

「ただ、変な感じだ」

「変?」

「俺は、何も変わってない」

 アクセルは自分の手を見る。

「なのに、周りの反応が変わった」

「それは」

 クリスが歩き出す。

「あなたの真価が、やっと知られただけよ」

「真価」

「ええ。最初からあったもの」

 彼女は振り返った。

「それを、周りが理解し始めた。それだけ」

 ミラが横に並ぶ。

「アクセルくんは、ずっとすごかったんだよ」

「そうだぜ」

 ダリウスもウナズく。

「俺たちは最初から分かってた」

 三人の言葉。

 それが、胸に染みた。

 アクセルは、小さく笑った。

「ありがとう」

 素直に、そう言えた。

 ギルドの前を通りかかったとき。

 エミリアが外に出てきた。

「あ、アクセルさん」

「エミリアさん」

 彼女は少しホホを染めている。

「明日、お時間ありますか」

「明日?」

「はい。ギルドマスターが、お話があるそうで」

「ガレスさんが」

 アクセルは首を傾げる。

「分かった。試験の件だろう。朝、来る」

「お待ちしてます」

 エミリアは丁寧に頭を下げた。

 その視線が、少しだけ長くアクセルに留まる。

「あの」

「ん」

「初めて、ギルドに来られたとき」

 エミリアの声が、少し震える。

「覚えていますか」

「ああ」

「あの時は、本当に」

 言葉を選ぶように。

「心配、していました」

「心配」

「はい。一人で、大丈夫かなって」

 彼女は小さく笑う。

「でも、今は」

 視線を上げた。

「本当に、立派な冒険者になられて」

「エミリアさん」

「ギルドの受付として」

 彼女は深く息を吸う。

「誇りに、思います」

 そして、小さく付け加えた。

「個人的にも」

 最後の言葉は、ほとんど聞こえなかった。

 だが、そのホホの赤みが、全てを物語っていた。

「ありがとうございます」

 アクセルは、真っ直ぐに答えた。

「これからも、よろしくお願いします」

「はい」

 エミリアは笑顔でウナズいた。
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