(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?

にがりの少なかった豆腐

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別視点 転がり込んだ幸運

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 コーリーが婚約破棄を言い放った夜会より少し前。
 
「キレスさま。例の件、こちらでも調べてみた限り事実のようです」

 夕食が終わった後、学園へ随伴している執事からそう報告を受けた。報告の内容は、とある貴族に関する不正疑惑だ。
 内容としては、本来なら国のために利用する金銭を着服し、それを指摘に利用、または他国へ横流しをしていた、という物だ。

 国の金銭を私欲のために勝手に利用していただけでも大罪であるが、それだけでなくそれを他国に流していたとなれば、それは売国行為にあたる。おそらく、この不正の件が正式に罪と認められれば、あの貴族は処刑される以外の道は無いだろう。

 普段であればこちらがいちいち調べるようなことではないのだが、この不正に対して私も無関係ではないのだ。
 
 今回こうして調べることになった経緯は私の婚約者、正確に言えばその親である人物がこの件の首謀者なのだ。その関係で別の貴族も同じ不正を行っていることが判明し、それを調べることになり、その結果が今回の報告になる。

「この学園に通っている息子の方はどうだ?」

 今回調べていた貴族には息子が居るのだがその者は特別目立った物ではない。しかし、個人的に思うところがあるため気になっていた。
 侯爵家に属する者である自分がこのような事に私情を挟むのはよろしくないが、出来れば不正に関わっていて欲しいところだな。

「多少の関りがある程度ですな。少なくとも完全に無関係と言える立場ではなさそうです」
「ふむ、そうか」

 それを聞いて私は喜びから口角を上げた。
 関りがあればどうとでもなる。実に好都合。本当にこの件が露見してくれてありがたいことだ。

 正直な話、最近まで件の息子に関して、私は一切知覚していなかった。そこらに居る有象無象の1人でしかなかった訳なのだが、数カ月前に参加した夜会でその状況は変わった。

 その夜会は、定期的に開催されている学園主催の夜会だ。
 学園で行われる夜会であるため、派閥などの関係で常に同じ者たちと顔を合わせることになる。学園に通い始めて、最初の1年は特に気にならないだろうが、これを2年3年と続けて行けば当然厭きる。
 故に3回生となれば派閥の輪から離れ、別のところに向かうこともあるのだ。

 そして私のその1人だった訳だが、その行動の中で私は人生で初めて一目ぼれという物をした。まあ、まだそれほど生きていない私の初めてなど大したものではないだろうが、それでもその時私は相当な衝撃を受けたのだ。

 その相手の名前はノエル。家の格は伯爵家だった。
 とはいえその時点では私にも婚約者がおり、その好意を表に出すことはできなかった。しかも、ノエルには婚約者が居た。それが件の息子だ。どうでもいいことだが、名前はコーリーという。

 しかし、この不正が発覚したことで私の婚約は白紙となった。これにより新しく婚約者を選ぶ必要が出てきたわけだが、上位爵位の者であっても婚約者が居る相手に求婚することはどう考えても外聞が悪い。罪に問われるようなことではないが体裁を重んじる貴族としては、そのような事をするのはご法度でしかない。

 この考えがあることによって私の初恋は幕を閉じた……ように見えた。
 そう、今回の件でその相手である息子がノエルの婚約者から外れることになったのだ。

 その相手の両親が不正を行ったことで、処刑が実行されることになれば、ほぼ確実に家は取り潰しになるだろう。そうなればその家の息子も貴族の籍から外れることになる。

 基本的に貴族の婚約は家同士のつながりを求めて行うものだ。例外もあるが、早々あるものでもない。
 だから、貴族ではなくなった相手を何時までも婚約者として留めておくことはない。例外として、過去に貴族籍から外れた者がそのまま婚約者と婚姻を結んだこともあるが、それは籍を向けた側に責が無く、また元は上の爵位だったため、降爵したという形にして婚姻を進めた形だ。

 ただ、今回に限ればその相手も不正に関わっているようである以上、そのような措置はとられないだろう。だからこそ私はそれを聞いて喜んだわけだが。

「父上の方へ報告を回しておいてくれ。あの家は早急に潰しておかなければ」
「今回の件が確実だとわかった時点で旦那様への報告はしております」
「それは助かる。それと、この書類も父上の方へ送って欲しいのだが」

 事前に用意していた婚約者についての提案をまとめた書類が入った手紙を執事に渡す。

「承知しました」

 執事はそう言って手紙を受け取るとすぐに懐へそれをしまう。
 これでこの報告が終わればすぐに父上のところへ届けてくれるだろう。他の者に取られるわけにはいかないのだ。取れる先手は取るべきだろう。


 そうして、報告が終わると同時に執事が私の元から離れて行った。

 父上は普段から私の婚約者について自分で決めろと言っている。さらに言えば候補者以外からでも問題はないとの言質を貰ってもいる。高確率で手紙に書いた内容は受け入れてもらえるだろう。問題があるとすれば彼女の家だが、両親の方は家格の関係でこちらが提案すれば断ることは無いだろう。しかし、彼女の方はどうなるのかはわからない。

 いや、断りはしないだろう。

 彼女も貴族だ。両親と同じように家格から拒否することは出来ないはずだ。私から婚約の打診を受ければ、内心どう思おうと断ることは出来ないものだ。
 強引に婚約に持ち込みたくはないという思いはあるが、あちらから私へ婚約の打診を持ってくることはあり得ないだろう。伯爵家の者が侯爵家の者へ婚約の打診をする等普通ならあり得ないのだから仕方がない事だ。

 ならば、最初がどうあろうとも婚姻を結ぶまでに私の事を好きになって貰えば良いのではないか。

 そう私はまだ先、いや、もうすぐ起こるであろうことを少し先走りながら考え続けていた。

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