(完結)婚約を破棄すると言われましても、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていましたよね?

にがりの少なかった豆腐

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どうしてそこまで

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 騒動が収まったとはいえ、あのまま会場に私たちが居続けるのは他の夜会の参加者からすれば邪魔になると判断し、私とキレス様は控室の方へ移動することにしました。

「先ほどは助かりました。あのような対応をせずすぐに逃げてしまえばよかったのですが、そうしてもまだ追ってきそうな雰囲気でしたので」

 会場を後にし、側仕えに急遽用意させた控室についたところで、キレス様に感謝を述べる。

 今回の騒動のどのくらいがキレス様の仕込みだったのかはわかりませんが、助けられたことに変わりはありません。
 それに今言ったように別の場所でコーリーに関係の修復を迫られていた可能性も十分ありますし、今回の件で彼に対して強くくぎを刺せたのは良い手でした。

「僕は君の婚約者として当然のことをしただけだ。それに君を他の者に取られるような状況にするつもりはないし、君に手を出すことがどれほどのことなのかを知らしめないといけないだろう」
「そこまでする必要は無いと思うのですが」

 私の言葉を聞いてキレス様は私の体を抱き寄せてきました。
 距離が近づいたことでキレス様の顔がよりはっきり見えるようになり、キレス様が使っている香水の香りがふわりと感じられ、私の心臓の鼓動が早くなったように感じました。

 キレス様はとても見目麗しい方なのです。学院内でもその容姿にひかれて好意を持っている方も多くいると聞いています。その上勉学も武術も優れている素晴らしい方なのです。
 侯爵家の子息という部分を除いても非常に素晴らしい方なのですが、そのような方がどうして私の婚約者になったのか、今でも本当に理解できていないのですよね。

「君が学園を卒業するまでは婚約しか出来ない。しかし、1年早く私は学園を卒業しなければならなんだ。私が近くに入れない間、君に余計な虫がつかないよう、あれくらいはさせてくれ」

 そう言えばキレス様は最高学年なので今年度で学園を卒業することになっていましたね。そして私の卒業は来年度。1年程差があるのですよね。それでキレス様はその間、他の方が私に手を出させないようにと、あのようなことをしたということですか。

「わかりました。ですが、どうしてそこまで……」
「最初に言っただろう。君を手放したくないからだ。私は君に一目ぼれした。その時に絶対に君を手に入れたいと思ったんだ」

 婚約者として初めて会った際にそう言われましたけれど、絶対にそれだけではない気がします。さすがに一目ぼれだけでここまで行動を起こせるとは思えません。
 今回の件も普通の貴族であればあのような場では何もせず、後から抗議などをするものなのです。

 だから、他にも理由があると思うのですが、私がキレス様と関わりだしたのは本当に最近からなのです。そのためキレス様の人となりは表面上のものしか知っていません。

 もう少しキレス様のことを知らなくては、そう心に誓ったところでキレス様が私の体を抱きしめてきました。

「君はまだ私の事を疑っているのかもしれない」
「いえ、疑っている訳では」

 私に対するキレス様の行動や好意は演技ではないと思っています。ですが、そこまで想ってもらえるだけの理由がわからなくて、今は嬉しさよりも困惑が勝ってしまうのです。

「いきなりこんなことを言われて、すぐに信用するような人は少ないから仕方がない。だけど、私が君の事を愛していることは本当だ。それだけは信用して欲しい。
 ノエル、私は君のことが好きだ」
「っ!?」

 最後の言葉だけ耳元で囁かれ、心臓が跳ね、身体が色を持ってゾワリと震えました。

 こういったことをいきなりされると驚くのでやめて欲しいところですね。
 キレス様が私の事を好いてくださっていることは十分にわかりますので、キレス様の気持ちをしっかりと受け止められるようにしなければなりませんね。
 
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