モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり

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二章 新たなる街へ

第3話 野営

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 リューはカレーのスープの辛さが苦手みたいだった。
 香りがわずかに残る程度に薄めると、ようやく飲めるみたいだ。

「体がぽかぽかするよ」

 それでも効果があるのか、病弱な妹の顔に赤みが差した。いつも青白い顔をしているんだけど。

「この汁には体力を回復させる効果がある。魔力量によって回復量も変わるようだがな」

 ルナが僕たちに思念で話しかけると、カレーのスープを飲んでから人が変わったように、よく喋り、明るくなった母さんが

「それってポーションってこと? まあ、カレーは漢方薬のかたまりっていう料理研究家もいたしね。最高よ、カレー」

 とよく分からないことを言い出した。
 だけど、リューも咳があんまり出なくなったから、本当にカレーの効果はすごい。

「明日の朝、見回りに来た者に見つかると殺されるから、すぐにここを離れないといけないわ」

 母さんが移動するように言うと、ルナがリューを背中に乗せてくれると言ってきた。
 ありがたい。リューを歩かせるのは心配だったんだ。

 僕たちは、今はほとんど使われることのなくなった古い街道を、足元に気をつけながら進んだ。



「夜になる前に食事の準備をしましょう。今日はここで一晩過ごさないといけなくなるし」

 確かに暗くなったら危険だ。でもここにいても危険は変わらないよね。

「どうしたルーよ。儂がいれば獣に襲われることはない。そうだな、追い払っておこうか。それで安心できるだろう」

 ルナは「ワオーン」と吠えた。バタバタバタと鳥が飛び去る羽音が響いた。

「さあこれで襲われる心配はなくなった。枯れ枝を拾ってくるがいい」

 リューのことをルナに任せ、僕と母さんは薪を拾いに行くことにした。

「見てルーデンス。キノコが生えているわ。あ、でも食用じゃなく毒キノコだったらまずいよね。あきらめた方がいいよね」

 残念そうにキノコを見つめてため息をついている。

「どれが食べられる植物か分からないわ。春だから木の実もないし」

 母さんってこんなに活動的だっけ? あまり感情を見せない人だと思っていたんだけど。

「あなた達を守らないといけないからね。猫をかぶるのをやめたの」

 そういえば、父さんが生きていた頃はよく笑っていたっけ。そうだよね。人が変わったわけじゃないよね。

「このくらいあればいいんじゃない? リューの所に戻りましょう」



「まだ暖かいから火力は弱くしましょう」

 母さんが魔法でつけた薪の火は、その強さを自在に操ることができる。一晩中燃やしておきたいからと、魔法で火の勢いを弱めていた。

 僕は鍋にお湯を張って、ルゥを溶かした。

「多分火にかけるとドロドロになるけど、今は具材もないしスープのままがいいよね」

 母さんがブツブツと言いながら考え込んでいる。お玉でグルグル回すとどんどん茶色くなったお湯から素敵な匂いが広がった。

「三日分のパンはあるから。今日はパンとカレースープを食べましょう。まず手を洗ってね」

 母さんが、先に汲んでおいた温くなった水を手にかけて擦った。

「ほら、あなた達も」

 温かくて気持ちいい。

「じゃあ今度は手を入れてしっかり洗いましょう。これからは食事の前には必ず手を洗うようにね」

 今までそんなことしなかったのに。

「そうね。でも母さん思い出してしまったから。よくいままで汚れた手のまま食事していたわよね。あの家の人たちなんか、手づかみで食べていたし」

 追い出された家の兄弟たちは、とにかく食べ方が汚かった。嫌なこと思い出したよ。

「さ、このタオルで拭いて。じゃあ食事を頂きましょう」

 母さんは地面に敷いたシーツの上に、カレースープを入れたお椀とパンを乗せたお皿を並べた。リューのカレーは薄めてある。

 鍋に残ったスープはルナの分だ。

 固いパンをガリガリと食べ始めたら、母さんがスープにパンを入れた。

「何しているの母さん」

「カレーにパンを浸しているのよ」

「行儀悪くないの?」

「いいのよ。誰も見ていないし。ルーデンス、もう、ルーでいいよね。ルーもこうして食べてみて。おいしいわよ」

 パンは神様の体が僕たちに与えられた神聖な食べ物だって言っていたのに。何もつけずにそのまま食べないと怒られるのに。

「いいから。おいしく食べた方が神様も喜ぶわよ」

 リューがパンをお椀に入れた。じゃあ僕も。

 茶色のスープがくすんだ色のパンにじっくりと染みていく。スプーンで押すと、表面がクニッと潰れる。しばらくスプーンでつついていたら、中までしみ込んだスープのせいでパンはクタクタになった。

 その不思議な状態になったパンをすくって口に入れた。

 小麦の甘さとカレーの辛さが口の中で溶け合う。柔らかなパンが、口の中の皮膚に心地よくまとわりつく。

 柔らかくなったパンってこんなにおいしいの? いや、これはカレーのおかげだ。
 だってリューは微妙な表情をしているから。薄すぎて味がないんだろう。

 ゴクリ、とパンを飲み込んだとき、頭の中でまた声がした。

「ルゥ【カレー】のレシピ・開放
  メニュー1 カレーのスープ
  メニュー2 カレーのパンがゆ



「母さん! カレーのレシピが解放されたって頭の中で音楽が鳴っているよ!」
「うん。私にも聞こえてる。カレーパン粥だよね」

 体が熱くなる。疲れ切った体に魔力を乗せた熱い血液がめぐる。

「マリー殿、儂の鍋にもパンを入れてはくれないか」

 ルナが興味深そうに僕たちを見ている。母さんがパンを入れ、僕がお玉で潰した。

「これは! カレースープよりも回復力が上がっておる。ウオォォーン」

 体がポカポカしている。暗くなりかけて冷たくなった風も、今は全く気にならない。

 これはリューにも食べさせないと。

「リュー、一口だけでいいから食べてみて」

 スプーンですくい、「あ~ん」とリューの前に差し出した。

「あ~ん」

 大きく口をあけて、パクンとスプーンをくわえた。しかめっ面になりながらもゴクリと飲み込んでくれた。

「から~い。でもスープだけよりは食べやすい。だけどもういいかな。ヒャッ、熱い」

 リューの顔が赤くなる。血の巡りが良くなったみたいだ。

「温かい。寒くないよルー兄さま」

「もしかしたら、このままカレーの種類が増えたらリューの病気も治るかもしれないわ」

 そうだよ母さん。こんなに元気そうなリューを見るのは久しぶりだ。ギフト・ルゥのおかげかもしれない。

「さあ食べましょう。明日に備えて今日は休みましょう」

 僕は夢中でカレーパン粥を食べた。嬉しくて涙をこぼしながら。
 母さんは、「やっぱりお米でお家のカレーを作りたいわ」とよく分からないことを言いながら食べている。

「「「ごちそうさまでした」」」

 こんなに楽しい食事は久しぶり。ダンジョンで追放された時はショックだったけど、追放されてよかった。

「リュー、お皿は明日洗うから、鍋にお湯を張って。つけておかないと汚れがこびりつくから。スポンジも洗剤もないのは不便よね」

 鍋に一度お湯を張ってお玉でグルグルとかき混ぜた。お湯を一度捨て、もう一度お湯をいれなおし、その中に食器を入れていった。

「シーツが二枚しかないから体を寄せ合って寝ましょう」

 母さんが言うと、ルナが「それならば儂にもたれかかればいい。カレーのおかげでからだが熱くなっている。凍えて寝ることはないだろう」

 ルナがお腹を見せると、「うわぁ」とリューが飛びついた。

「ルナ、もふもふです。気持ちいいです」

 ルナが微笑ましくリューを見ている。
 母さんが、「リュー、歯磨きはちゃんとしなさい」とリューをルナから引きはがし、僕たちは歯磨きを始めた。

「本当にルーの魔法は便利よね。綺麗な水は衛生管理の基本だわ」

 追放されてからの母さんの言うことはよく分からないことが多いけど、母さんも元気になったのかな?

 ルナのお腹に肩を乗せると、もふもふで温かくて気持ちがいい。
「おやすみ、母さん。リュー」

 そのまま幸せな気持ちで眠った。


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