【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

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閑話、過去と現在 マゼル視点

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 手紙は僕の全てを左右するものである。


 最初は、彼女の純潔が奪われたこと。
 次は彼女が賊に襲われたこと。
 立つ続けに届いた悪夢とも言える内容。

 そして、彼女からの手紙がもたらされたー、彼女に『娘』がいると言う、手紙。



*******

 クーデターは、予想より大きかった。
 そんな中届いた二度の手紙は僕の戦意を削った。

 それを上手く隠し、兄の横に立った。
 今すぐにでも駆けつけて、彼女を探したいのに、行くこともできない自分を呪った。もう一人自分がいればどんなにいいのだろう、と何度も思った。

 ふつふつと煮えたぎるような思い。
 その怒りで邪魔なものを排除した。怒涛の毎日。兄の為に働いた。兄につくした。彼女を忘れたい一心で。八年と言う年月。
 結婚の話も舞い込んできたが、彼女以外は考えられず、独り身を通した。

 そんな中、兄が死んだ。
 暗殺された。
 皇后派によって。

 そして、まだ幼い三人の甥っ子。

 僕は身の危険を感じ、末の甥を連れて一時的に国を出た。
 兄の死により、甥たちにまで黒い手が伸びていたのだ。
 争いごとを嫌う末っ子は、僕に懐いていた。だから、二人で国を出ようと思ったのは、自然なことだったのだ。

 丁度、フィアナからの手紙がきた頃でもあり、彼女に会いに行くのを口実にした。

 そこで、セシリアがいた。

 直接には顔を合わせなかったが、遠目からセシリアを見た。
 
 持っている色は違うが、彼女によく似た顔立ちをしていた。

 少女を見て、泣いた。

 彼女が生きていてくれた喜び。
 僕じゃない男との子供である悔しさ。
 
 君の側にいたい。
 今すぐにでも君を探しにゆきたい!

 でも、できなかった。

 ここで、彼女を探しながら生きていくのもありなのかと考えもしたが、甥が、を脱ぎ捨てる事を決意したのだ。

 の為に。

 自由に生きれないあの子を手に入れたいが為に。

 僕もかつてそうであったように、一途に思っている姿があった。
 その気持ちが痛いほどにわかった。
 
「彼女の母親の名誉のために権力が欲しいのですか?」

 甥に言われた。

「僕はまだ、子供です。叔父上と言う後ろ盾が欲しいです」
「お前が欲することは、あの子を自由にするとは違うと思うぞ」 
「そうかもしれません。でも、世の中から隠れるようにして生きなくてすみます」
「茨の道であろうと?」
「僕が進むもの自体が茨です。僕は彼女を護ります」
「なら、誓え!何があっても彼女を護ると!」
「はい!その力を得ます」

 僕らは帝国に帰った。
 フィアナにセシリアを託して。
 この孤児院を守るために、グリフィアス国に気づかれないように資金援助をしながら。

 僕らは権力を取り戻すために。
 皇后を討ち取った。皇后派の貴族も・・・。そして、大人たちの傀儡になっていた二人の甥までもを・・・。

 この地を平穏にして、彼女たちを迎え入れるために力を尽くした。
 
 七年という月日が経っていた。

 やっと、やっとだ。長かった。
 長すぎた。

 彼女の娘の危機である知らせを受け取り、甥は動き出した。
 全ての仕事を僕に押し付け向かったのだ。

 どんなにまぶしかったか・・・。
 あの行動力があれば・・・僕も・・・。
 過ぎ去った過去を悔やんでもしかたない。

 あいつが、帰ってきて困らない程度を頑張ろう・・・。

 
 やっと帰ってきた甥は晴れやかな表情だった。

 あまりにムカついたので、残っていた仕事を全てお返しして、彼女の娘に会いに行った。

 彼女の娘はセシリアと言った。
 真っ直ぐにこちらを見る姿は彼女と同じものだった。懐かしい。
 そっくりだ。色は違えど、彼女の娘だ。
 父親がでなければ、この僕が抱きしめていたはずの子だ。

 涙が流れた。
 
 僕は彼女を助ける為に、セシリアから朧げな記憶を聞き出し、その街に行ってみた。
 あまり覚えていないように言っていたが、その記憶はちゃんとしたものだった。

 汚い路地。すえた匂い。
 こんなところに彼女が・・・。
 怒りで爆発しそうだった。憎しみでどうにかなりそうだった。
 あの美しい彼女がなぜ、こんな場所に・・・。

 セシリアの言っていた娼館を見つけ入る。きつい香水に鼻が曲がりそうになった。
 擦り寄ってくる女どもにも辟易した。
 醜い。姿と言うより、その精神が・・・。

 主人に聞けば、彼女はいないと言われた。
 そんなはずはない。
 
 セシリアの記憶は正しい。
 古い記憶なだけで、要所は押さえていた。

 金をちらつかせると、主人は簡単に口を割ってくれた。

 彼女は奥の部屋で寝かされていた。
 病気だった。

 やつれた頬。
 青紫の唇。
 細い腕。今にも折れてしまいそうな指。

 どんなに、変わろうと、僕が見間違えるはずがない。彼女だ。

「エリザ?」

 そっと触れると、彼女はうっすらと目をあけ、僕を見た。瞳のは変わっていなかった。あの頃と同じ、何にも負けない芯のある色。

「マゼル、さま?ゆめ?わたく、し・・・、死んだ、のかしら」

 とろけてしまいそうな優しい笑み。
 あの頃と変わっていない、美しい笑み。

「夢でないよ。君を迎えにきたんだ」
「・・・・・・っ。あっ・・・、わた、わたくしを、見ないで!!」

 現実だと悟ったのか、目を大きく見開き、涙が溢れた。
 動けない身体をよじろうとするので、僕は抱きしめた。

「もう、離さない。さあ、帰ろう。僕たちの家に。セシリアもいるんだ。だから、帰ろう」
「・・・セシ、リアも?」
「あぁ、いるよ。フィアナもいる。だから帰ろう」

 口を数度、はくはくと開き言葉にならない声をあげる。喜びとも聞こえる嗚咽。

 僕はエリザを抱え、娼館をでる。
 従者として来ていたナディックとに後を託した。エリザには聞こえないように指示をして。
 
「きちんと聞いておけ。多少痛めつけても、だ」
「はい」

 許さない。
 絶対にー。絶対に許さない。


 

 馬車に乗って揺れる。
 僕らは何も語らなかった。
 空白の時はもう、戻らない。
 語り合ってもいい思い出はなかった。

 ただ、指を絡ませて、互いの体温を確認するように抱きしめ、存在を、愛情を確かめるように見つめあった。
 

 僕らは、それだけでも幸せだった。
 今までの時間を取り戻すように、その身を寄せ合った。

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