【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

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 毎日、母の側にはマゼルさんの姿があった。

 二人はずっと窓の近くにあるソファーに座り、手を繋いで外を見ていた。時折、顔を合わせ微笑み合う。
 二人の横顔は幸せそうだった。
 お互いにお互いを思い遣っている顔。

 あの後マゼルさんから、母の真実を聞いた。所々、口を濁していたが、追求はしなかった。今だけは・・・考えないでいた。
 この二人をそっとしてあげたかった。
 
 
 二人の間にはゆっくりとした時間が流れていた。
 温かな日差しが入り込み、暖炉の火が暖かな色を湛えている。
 二人の止まっていた時間が動き出しているように見えた。

 そんな二人が羨ましかった。
 美しいと思った。

「側にいかないの?」

 ロイが隣でいた。いつの間に来たのだろう・・・。
 気づかないほど見入っていたのか・・・。
 
 私は首を振った。

「・・・邪魔だと思う」
「そんな事ないよ」

 そうは言ってくれたが、私は動けなかった。
 ロイが手を繋いでくれた。その温もりが心地よかった。
 



 *******

 目を覚めた時母は、私を見て泣いた。どこか夢うつつで、目がとろん、としていた。それでも、私を見てくれた。

「セシリア、大きくなったわね」

 私の金の髪をなぜてくれた。
 別れてから7年以上たった母の手は柳のように細く、骨と筋がはっきり見えるほど痩せていた。でも、あの頃の温かさは変わっていなかった。

「ごめんね、セシリア」
「ふっ・・・」

 もう一度、会えたら罵ろうと思っていた。

 助けたい。
 確かにそう思いながら生きてきた。母を一度たりとも、忘れたことはなかった。
 でも、それは、母を見返す為でもあった。かける言葉や文句を用意していたはずなのに、出てこなかった。

 どうでも良くなっていた。

 やはり母は母なのだ。
 私は、母を愛している。
 恨んでも恨みきれない。
 
「母さん・・・」
「もう、まだまだ子供、ね」

 たまらず下を向いた。涙がボロボロと床に落ちる。鼻水まで垂れてしまった。
 ロイやマゼルさん、マザーがいたと言うのに、恥ずかしさなんかなかった。

 止まらない涙。

「母さん、母さん、母さん!!」

 子供に戻ったみたいに呼んでしまった。叫んでいた。泣いていた。ベッドの脇ですがるようにワンワンと。

 母は、涙が止まるまでずっと頭をなぜてくれた。


*******

 

 遠くで見ているとマゼルさんが気づいて呼びかけてくれた。

「おいで、セシリア」
「でも・・・」

 邪魔になるのではないだろか・・・。

「セシリア、来て」

 母も呼ぶ。
 おずおずと行けば、マゼルさんが膝の上にひょいと乗せた。

「なっ!?」
「可愛いいな」

 抱きしめてくれる。

「マゼルさん!!子供扱いしないでください!」
「子供だよ」
「・・・・・・」
子供。それで、いいだろう」

 泣きそう。

「僕が本当の父親であるべきだったんだ」
「・・・いいの?」
「勿論だよ。セシリアは君の娘。なら、僕の子供だよ」

 泣きそう。

 私は父を知らない。
 甘え方なんて、知らない。

 どうすれば、いいの?


「なに、やってるのですか?叔父上。セシリアが困っているじゃないですか。離してあげてください」
「ロイ、いたのか?」

 今気づきました、と言うように言うマゼルさん。

 ロイが冷めた表情で近づいて来た。
 
「初めから知っているくせに」
「なんだ、嫉妬か?お前も参加するか?」
「なっ?!」
「どれがいい??義理の兄役か?それとも、義理の息子役か?」
「あっくっ、叔父上!!」
 
 義理の兄?義理の息子?
 えっと・・・えっ?

 どう考えればいいのか?

 ロイは真っ赤になっていた。

「叔父上。お客様がきました。その方を見ても、その強気なら、僕も見習いますよ」


 ロイは扉に視線を送る。
 開かれたままのドアの向こうに人影があった。
  杖をついた老人がマザーと一緒に佇んでいる。

 その姿を見て、マゼルさんは、私をゆっくり下ろすと立ち上がった。

「リンサス公爵・・・」

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