【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)

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19.

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 母が、振り向く。

「おとう、さま・・・」

 掠れた声。

「エリザ・・・」

 老人は持っていた杖から手を離した。
 硬い音が床に響いた。

 老人は手を彷徨わせ、ゆっくりと歩み寄ると、その無骨な手で母の顔を包んだ。

「エリザ、エリザ・・・」

 声を震わせながら、何度も母の名前を呼んだ。
 そして、抱きしめた。

「エリザ・・・、あぁっ、神よ。感謝しますっ」
「・・・お父様。申し訳ありません。お母様を守れませんでした」
「お前が生きていてくれただけで十分だ」
「お父様。ですが、わたくしは・・・」
「わかっている。マゼル様が知らせてくれたから。構わない。私はいつ死んでもいいほど歳をとったんだ。お前に会えたからには、いつ死んでも良い」

 母は、老人の胸の中で子供のように泣いた。

 こんな母を初めて見た。
 私が知っている、母はもっと、凛としていた。感情を抑え、人に甘えるような事はなかった。

 私は母の力になれなかったのだろう。
 虚しさがあった。

 マゼルさんが、私の肩に手を置いた。

「マゼル様。感謝します」
「いえ、感謝はフィアナに言ってください。彼女がいなければ助ける事は無理でした」
「フィアナ。ありがとう」

 老人は頭を下げた。

「公爵様、頭をあげてください」

 マザーは慌てていた。

 老人は頭を上げると、私を見てきた。

「マゼル様、この子が・・・」
「わたくしの子供です。セシリアよ」

 母が私を紹介する。
 私は老人を改めてまじまじと見た。

 母と同じ瞳の色彩を持ていた。髪は歳相応の白で、長く伸ばした髭も白い。目元が母とよく似ていた。
 目尻の皺が歳を重ねた時間を感じた。

 私は眼鏡を外し、老人に向き合った。

「セシリア、です」

 老人は、私の瞳の色を見て、一瞬目を見開くと、眉を寄せ、悔しそうに瞳を閉じた。

「あの時の・・・」

 小さかったが、そう聞こえた。

 ゆっくりと、目を開いたら時には、皺を深め眉を垂らしていた。

「孫か・・・」

 老人は呟いた。

 どう反応すればいいのか、わからなかった。
 彼から・・・、いや、からすれば、私はいない方がいい存在なのだ。
 私がいなければ、みんな幸せになれたはず。
 怖かった。

 どこまでもつきまとう、罪悪感。
 どんなに、大丈夫といわれても、不安になる。

 私はここにいていいのだろうかと、悩む。
 怖くなる。

 人の優しさがこれほどまで怖いとは知らなかった。

 老人はゆっくりと、私を抱きしめてくれた。
 少し匂う。
 男くさいと言うのだろうか、数日間お風呂に入っていなかったのか、少し汗臭い。香水と混じった独特の匂いもした。
 広い肩幅。
 私のおでこに当たる髭の感触が、こそばゆかった。

「娘だけでなく、孫にも会えるとは・・・。セシリア、おじいちゃんと呼んでくれ」
「お、じいちゃん・・・」

 口に出せば、老人は一層、目を細めた。
 
 私は信じていいのだろうか・・・。

「もう一回、呼んでくれ」
「・・・おじいちゃん」
「セシリア。あえて嬉しいよ」

 皺が一層深まった。

 私は、本当にここにいていいのー?

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