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母が、振り向く。
「おとう、さま・・・」
掠れた声。
「エリザ・・・」
老人は持っていた杖から手を離した。
硬い音が床に響いた。
老人は手を彷徨わせ、ゆっくりと歩み寄ると、その無骨な手で母の顔を包んだ。
「エリザ、エリザ・・・」
声を震わせながら、何度も母の名前を呼んだ。
そして、抱きしめた。
「エリザ・・・、あぁっ、神よ。感謝しますっ」
「・・・お父様。申し訳ありません。お母様を守れませんでした」
「お前が生きていてくれただけで十分だ」
「お父様。ですが、わたくしは・・・」
「わかっている。マゼル様が知らせてくれたから。構わない。私はいつ死んでもいいほど歳をとったんだ。お前に会えたからには、いつ死んでも良い」
母は、老人の胸の中で子供のように泣いた。
こんな母を初めて見た。
私が知っている、母はもっと、凛としていた。感情を抑え、人に甘えるような事はなかった。
私は母の力になれなかったのだろう。
虚しさがあった。
マゼルさんが、私の肩に手を置いた。
「マゼル様。感謝します」
「いえ、感謝はフィアナに言ってください。彼女がいなければ助ける事は無理でした」
「フィアナ。ありがとう」
老人は頭を下げた。
「公爵様、頭をあげてください」
マザーは慌てていた。
老人は頭を上げると、私を見てきた。
「マゼル様、この子が・・・」
「わたくしの子供です。セシリアよ」
母が私を紹介する。
私は老人を改めてまじまじと見た。
母と同じ瞳の色彩を持ていた。髪は歳相応の白で、長く伸ばした髭も白い。目元が母とよく似ていた。
目尻の皺が歳を重ねた時間を感じた。
私は眼鏡を外し、老人に向き合った。
「セシリア、です」
老人は、私の瞳の色を見て、一瞬目を見開くと、眉を寄せ、悔しそうに瞳を閉じた。
「あの時の・・・」
小さかったが、そう聞こえた。
ゆっくりと、目を開いたら時には、皺を深め眉を垂らしていた。
「孫か・・・」
老人は呟いた。
どう反応すればいいのか、わからなかった。
彼から・・・、いや、彼らからすれば、私はいない方がいい存在なのだ。
私がいなければ、みんな幸せになれたはず。
怖かった。
どこまでもつきまとう、罪悪感。
どんなに、大丈夫といわれても、不安になる。
私はここにいていいのだろうかと、悩む。
怖くなる。
人の優しさがこれほどまで怖いとは知らなかった。
老人はゆっくりと、私を抱きしめてくれた。
少し匂う。
男くさいと言うのだろうか、数日間お風呂に入っていなかったのか、少し汗臭い。香水と混じった独特の匂いもした。
広い肩幅。
私のおでこに当たる髭の感触が、こそばゆかった。
「娘だけでなく、孫にも会えるとは・・・。セシリア、おじいちゃんと呼んでくれ」
「お、じいちゃん・・・」
口に出せば、老人は一層、目を細めた。
私は信じていいのだろうか・・・。
「もう一回、呼んでくれ」
「・・・おじいちゃん」
「セシリア。あえて嬉しいよ」
皺が一層深まった。
私は、本当にここにいていいのー?
「おとう、さま・・・」
掠れた声。
「エリザ・・・」
老人は持っていた杖から手を離した。
硬い音が床に響いた。
老人は手を彷徨わせ、ゆっくりと歩み寄ると、その無骨な手で母の顔を包んだ。
「エリザ、エリザ・・・」
声を震わせながら、何度も母の名前を呼んだ。
そして、抱きしめた。
「エリザ・・・、あぁっ、神よ。感謝しますっ」
「・・・お父様。申し訳ありません。お母様を守れませんでした」
「お前が生きていてくれただけで十分だ」
「お父様。ですが、わたくしは・・・」
「わかっている。マゼル様が知らせてくれたから。構わない。私はいつ死んでもいいほど歳をとったんだ。お前に会えたからには、いつ死んでも良い」
母は、老人の胸の中で子供のように泣いた。
こんな母を初めて見た。
私が知っている、母はもっと、凛としていた。感情を抑え、人に甘えるような事はなかった。
私は母の力になれなかったのだろう。
虚しさがあった。
マゼルさんが、私の肩に手を置いた。
「マゼル様。感謝します」
「いえ、感謝はフィアナに言ってください。彼女がいなければ助ける事は無理でした」
「フィアナ。ありがとう」
老人は頭を下げた。
「公爵様、頭をあげてください」
マザーは慌てていた。
老人は頭を上げると、私を見てきた。
「マゼル様、この子が・・・」
「わたくしの子供です。セシリアよ」
母が私を紹介する。
私は老人を改めてまじまじと見た。
母と同じ瞳の色彩を持ていた。髪は歳相応の白で、長く伸ばした髭も白い。目元が母とよく似ていた。
目尻の皺が歳を重ねた時間を感じた。
私は眼鏡を外し、老人に向き合った。
「セシリア、です」
老人は、私の瞳の色を見て、一瞬目を見開くと、眉を寄せ、悔しそうに瞳を閉じた。
「あの時の・・・」
小さかったが、そう聞こえた。
ゆっくりと、目を開いたら時には、皺を深め眉を垂らしていた。
「孫か・・・」
老人は呟いた。
どう反応すればいいのか、わからなかった。
彼から・・・、いや、彼らからすれば、私はいない方がいい存在なのだ。
私がいなければ、みんな幸せになれたはず。
怖かった。
どこまでもつきまとう、罪悪感。
どんなに、大丈夫といわれても、不安になる。
私はここにいていいのだろうかと、悩む。
怖くなる。
人の優しさがこれほどまで怖いとは知らなかった。
老人はゆっくりと、私を抱きしめてくれた。
少し匂う。
男くさいと言うのだろうか、数日間お風呂に入っていなかったのか、少し汗臭い。香水と混じった独特の匂いもした。
広い肩幅。
私のおでこに当たる髭の感触が、こそばゆかった。
「娘だけでなく、孫にも会えるとは・・・。セシリア、おじいちゃんと呼んでくれ」
「お、じいちゃん・・・」
口に出せば、老人は一層、目を細めた。
私は信じていいのだろうか・・・。
「もう一回、呼んでくれ」
「・・・おじいちゃん」
「セシリア。あえて嬉しいよ」
皺が一層深まった。
私は、本当にここにいていいのー?
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