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制裁
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私だって頑張ったのだ。
いくら可愛いくても、ヒロインであっても。
私達は幼馴染でずっと一緒で、長い間一緒にいたのだから話せばわかってもらえるはず、と言葉を尽くした。
けれど貴方は一層私を悪し様に罵るばかりだった。
好きだったからこそ、辛かった。
そう、〝だった〟だ。
だから、
私が つい と片手を挙げて合図をするとメイドが箱を手に急ぎ足でやってきた。
「貴方との過去も、もう要りません。ーーお返ししますわ。学園に入学してから頂いたささやかな贈り物たちです」
そう言って彼の前に箱をおろしたメイドには軽蔑の表情がありありと浮かんでいた。
呆然と座り込んだままの自分を冷たく見下ろし、彼女は踵を返す。メイドもそれに続く。
が、ふと 何か思い出したように立ち止まった。
「 ー ー 嗚呼 ひとつ 忘れてましたわ…?」
小さく呟いて指に差していた指輪を抜き取る。
青い小さな石がついた金色の指輪、それを振り向きざま思い切りヴェルハルトに投げつける。
前世日本人なら思わず「ストラーイク!!」と叫んでしまいそうな見事さでそれはヴェルハルトの顔にヒットし、一瞬のち床に硬質な音を立てて転がった。ヴェルハルトの頰に小さな傷がはしり、赤い血が僅かに滲んだ。
そんな事には頓着せずに
「それも、お返ししますわ。貴方が〝婚約者である印に〟と入学の際私に贈って下さった ーー 私に下さった物の中では1番高価なものですわ、お返し致しますので愛しい彼女への贈り物への足しにでもなさったらいかが?」
投げ抜いた姿勢のままそう言い放ったコーディリアは今度こそその場を後にした。あまりにも堂々とした態度に周囲もこぞって道を開け、どこからかぽつりと
「カッコいい…」
という声があがり、それはさざ波のように広がった。
このコーディリアの一連の態度に先程まで泣いて婚約者に縋っていた令嬢達が立ち上がった(?)。
「そうよ!浮気したのはそっちなのに何故私が破棄されなきゃいけないの?!破棄するのはこっちよ!この浮気男!」
「婚約者の義務なんてそもそも果たしていなかった癖になんで偉そうなの?!」
「あんたみたいな男私だって御免よ!」
口々に責めたてたれ、男の方もぐ、と言葉に詰まる。先程まではこちらに分があった筈なのに、完全に形成逆転してしまっている。
それは王太子の婚約者も同様で
「コーディリア様…、素敵」
小さく呟いたあと王太子に向きなおり
「幼い頃から王妃教育とアンタの尻拭いをしてきたのは誰だと思ってんのよこのクズ!!」と王太子の顎に見事なアッパーカットを決めた。
お見事。
既に出口に差し掛かりながら声と音だけを拾っていた私は小さく呟きながら広間を後にした。
私が流れを変えれば、ああなる事は多少は予想していたけれど、思っていたより派手、というか思い切りいったなー、悪役令嬢サマ。
私は取り巻きではなかったけれど、彼女達が大なり小なりヒロインを口撃していたのは確かだし、悪役令嬢もとい王太子の婚約者は結構派手に言うだけでなくささやかな嫌がらせとか、してたけど。
まあ、ご本人が言ってた通り王太子の婚約者として頑張ってきたのは本当だ(見てたらわかる)し、ヒロインならそれくらい耐えるのが当たり前、よねぇ?
ーー 逆ハー狙いなら(敵が増えて当たり前だから)、ね?
帰りの馬車の中、私は勿論、冷静にーー いたかったけど無理だった。
「ふ、えぇぇ…、」
堪えていた涙が一気に噴き出した。
好きだったのに、
頑張ったのに。
なんであんな酷い事が言えるの、元から私のこと 嫌いだったの?
だからあんなに冷酷になれるの?
覚悟はしていた。
だから泣かないでいられると思ったのに無理だった。
初めて会った時の嬉しさを、結婚しようと言ってくれた時の手の暖かさを、婚約してから会う度向けてくれた優しい笑みを、そしてその度に感じた愛しさを。
まだ覚えてるから。
だけど、だからこそ負けたくはなかった。
みっともなく縋る私なんて私が許せない。
そうさせる貴方も許せない。
だから、受けて立った。
立つ必要なんかほんとはなかったのに。
私自身がこの後ちゃんと立つ為に、必要だった。
もう終わった、ケジメはつけた。
だから、今だけ泣いてもいい。
泣いて全部流しちゃえばいい。
どうせ、馬車の車輪や馬の嘶き、御者の鞭の音に紛れて外には聞こえやしない。
だから、今だけ。
いくら可愛いくても、ヒロインであっても。
私達は幼馴染でずっと一緒で、長い間一緒にいたのだから話せばわかってもらえるはず、と言葉を尽くした。
けれど貴方は一層私を悪し様に罵るばかりだった。
好きだったからこそ、辛かった。
そう、〝だった〟だ。
だから、
私が つい と片手を挙げて合図をするとメイドが箱を手に急ぎ足でやってきた。
「貴方との過去も、もう要りません。ーーお返ししますわ。学園に入学してから頂いたささやかな贈り物たちです」
そう言って彼の前に箱をおろしたメイドには軽蔑の表情がありありと浮かんでいた。
呆然と座り込んだままの自分を冷たく見下ろし、彼女は踵を返す。メイドもそれに続く。
が、ふと 何か思い出したように立ち止まった。
「 ー ー 嗚呼 ひとつ 忘れてましたわ…?」
小さく呟いて指に差していた指輪を抜き取る。
青い小さな石がついた金色の指輪、それを振り向きざま思い切りヴェルハルトに投げつける。
前世日本人なら思わず「ストラーイク!!」と叫んでしまいそうな見事さでそれはヴェルハルトの顔にヒットし、一瞬のち床に硬質な音を立てて転がった。ヴェルハルトの頰に小さな傷がはしり、赤い血が僅かに滲んだ。
そんな事には頓着せずに
「それも、お返ししますわ。貴方が〝婚約者である印に〟と入学の際私に贈って下さった ーー 私に下さった物の中では1番高価なものですわ、お返し致しますので愛しい彼女への贈り物への足しにでもなさったらいかが?」
投げ抜いた姿勢のままそう言い放ったコーディリアは今度こそその場を後にした。あまりにも堂々とした態度に周囲もこぞって道を開け、どこからかぽつりと
「カッコいい…」
という声があがり、それはさざ波のように広がった。
このコーディリアの一連の態度に先程まで泣いて婚約者に縋っていた令嬢達が立ち上がった(?)。
「そうよ!浮気したのはそっちなのに何故私が破棄されなきゃいけないの?!破棄するのはこっちよ!この浮気男!」
「婚約者の義務なんてそもそも果たしていなかった癖になんで偉そうなの?!」
「あんたみたいな男私だって御免よ!」
口々に責めたてたれ、男の方もぐ、と言葉に詰まる。先程まではこちらに分があった筈なのに、完全に形成逆転してしまっている。
それは王太子の婚約者も同様で
「コーディリア様…、素敵」
小さく呟いたあと王太子に向きなおり
「幼い頃から王妃教育とアンタの尻拭いをしてきたのは誰だと思ってんのよこのクズ!!」と王太子の顎に見事なアッパーカットを決めた。
お見事。
既に出口に差し掛かりながら声と音だけを拾っていた私は小さく呟きながら広間を後にした。
私が流れを変えれば、ああなる事は多少は予想していたけれど、思っていたより派手、というか思い切りいったなー、悪役令嬢サマ。
私は取り巻きではなかったけれど、彼女達が大なり小なりヒロインを口撃していたのは確かだし、悪役令嬢もとい王太子の婚約者は結構派手に言うだけでなくささやかな嫌がらせとか、してたけど。
まあ、ご本人が言ってた通り王太子の婚約者として頑張ってきたのは本当だ(見てたらわかる)し、ヒロインならそれくらい耐えるのが当たり前、よねぇ?
ーー 逆ハー狙いなら(敵が増えて当たり前だから)、ね?
帰りの馬車の中、私は勿論、冷静にーー いたかったけど無理だった。
「ふ、えぇぇ…、」
堪えていた涙が一気に噴き出した。
好きだったのに、
頑張ったのに。
なんであんな酷い事が言えるの、元から私のこと 嫌いだったの?
だからあんなに冷酷になれるの?
覚悟はしていた。
だから泣かないでいられると思ったのに無理だった。
初めて会った時の嬉しさを、結婚しようと言ってくれた時の手の暖かさを、婚約してから会う度向けてくれた優しい笑みを、そしてその度に感じた愛しさを。
まだ覚えてるから。
だけど、だからこそ負けたくはなかった。
みっともなく縋る私なんて私が許せない。
そうさせる貴方も許せない。
だから、受けて立った。
立つ必要なんかほんとはなかったのに。
私自身がこの後ちゃんと立つ為に、必要だった。
もう終わった、ケジメはつけた。
だから、今だけ泣いてもいい。
泣いて全部流しちゃえばいい。
どうせ、馬車の車輪や馬の嘶き、御者の鞭の音に紛れて外には聞こえやしない。
だから、今だけ。
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