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断罪

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「わかっておりましたとも。婚約者をほったらかしにして他の女性に入れあげた挙句当の婚約者にはやってもいない罪をでっち上げ一方的に婚約を破棄するつもりであったことも、それにわざわざこんな場を選んで馬鹿をさらけ出すつもりだったことも」


ゲームの中ならまだしも。


「4人も愛人がいる妻の夫もしくは夫以外に4人いる愛人のひとりー…どちらも晴れがましい立場とは思えませんが。それが〝真実の愛〟だと仰るならどうぞ貫いて下さいませ」
「なっ…!」
「ですがっ! ー ー何故 その貴方の身勝手の為に私が傷つけられなければならないのでしょう?」
私は彼を愛していた。
幼馴染の婚約者、ヴェルハルト・シュバルツを。
初めは小さな子供同士の約束。
それが、親同士の約束を通じ、本物になったのは12の時。
初めて会った時から通算13年間、私は彼の隣にいたのだから。

「彼女が入学してきてからというもの、婚約者として最低限の義務すら果たさず他の女性に現を抜かした自分は悪くない、婚約者である私の責任だと触れ回って」
「実際その通りであろう」
「私へのプレゼント代がかさむと家令からお金を引き出してその女性に貢いだ挙句」
「なっーー?!」
バレないと思ってたのかしら?
「4人いる愛人の1人になれたと大喜び」
バカですか?
「私には甚だ理解出来かねますがー…付き合う義理も もうありません」
パチン、と手にしていた扇子を閉じ、その音を合図に人が割れ2人の紳士が私達の前に立った。
「ち、父上…!」
まさかのここにいる筈のない人物の出現に狼狽える。
「コーディリアから話を聞いてまさかとは思ったが、本当にこんな場でこんな真似をするとは…!恥を知れ!」
シュバルツ伯が胸倉を掴んで詰め寄るが
「お お言葉ですが父上!コーディリアとの関係に疲れていた私は彼女に癒されたのです!だからこそー…」
「だからこそ、婚約者であるコーディリアが高価な物を強請ってきて困るなどと言いながらここ数ヶ月家令から金を引き出していた、と?そんな言い訳が通ると本気で思っておるのか?」
「っ!どうしてーー?!」
お馬鹿さん、驚愕の表情。
「どうしたも何も、コーディリアはいつどこでお前と会って何をプレゼントされたか、いつからお前が冷たく自分を突き放し、他の女に夢中になったかしっかり把握し報告してくれたぞ?ーー こちらで裏もとった」
最後のひとことに言い返そうと開いた口が固まる。
「情けない事です 坊っちゃま…!幼い頃からの初恋同士であるお2人が大人になるにつれ贈り物が高価になるのもいた仕方のない事 と言われるまま用立てておりましたのにそれが全て偽りであったとは…!」
子供の頃から二人を見守ってきた老齢の執事は涙ぐむ。
「お前は家令に『父上にはくれぐれも内緒に頼む。コーディリアが浪費家だなんて思われたら可哀想だからね』などと嘯いたそうだな…?実際にはその時期にはもうプレゼントはおろかコーディリアと会う事さえしなかった」
「いや、全く会わなかったわけでは…、」
「学内でたまたますれ違うのは会うとは言いませんよ?またすれ違っても既に挨拶ひとつなかったではありませんか。ーー 彼女に出会われてからというもの、初めは会話が上の空、その次はあの転入生が困っている所を助けたらいたく感謝された、今時何と可愛いらしい女性だろうかと当て付け、以降どんどん 親しげに振舞われるようになり 学内でああまで浮ついておられるのは良くありません と遠回しに私が注意をしたら可愛げがないと聞く耳を持たず彼女の方に婚約者のある男性、しかも複数の殿方との交際は止めてくださるようお願いしたら地位を嵩にきて脅すとはとんでもない女だと逆に恫喝される始末ー…お話にならないので伯父さまに相談致しましたの」
「父上!こんな女の戯れ言を信じるのですかっ?実の息子ではなくこんなこう、ぐっ、?!」
更にきつく締めあげられたので発しきれなかったが高慢ちきな、とか続けたかったと思われる。
「黙れ!『裏をとった』と言ったのをもう忘れたのかその脳に詰まってるのはカビかなんかかっ?!勿論鵜呑みにするでなく確かめたわ!お前が誰と会い、どこで高価なものを求め、誰にそれを渡していたか!その間コーディリアとは一切会っていない事も!あの娘に夢中でヤニ下がってるお前の姿も!全てだ!」
「なっ…、そんな馬鹿なー…」
なら、なんでそのまま言われるまま金も出してくれて放っておいたのか。父に注意されたなら少しは聞く耳を持ったのにー…そんな考えが頭をよぎるが 続いた言葉には再度固まる。
「お前をもっと早く見限るべきだった」
苦々しく父伯爵は続けた。
「まさかここまで愚かだったとは」
「恋は人を盲目にするとは申せ あんまりな」
二人の冷たい視線と声に文字通り冷や水を浴び、足元がピシリと凍った気がした。
何故だ?先程まであんなに気分は高揚していたのに。
今宵こそ自分に相応しくない婚約者に引導を渡して、晴れて自由の身になって、そしてー…ふと愛しいミラルカに目をやるとその顔は青褪めていた。
王太子にしがみついているが普段愛らしく微笑んでる顔とあまりに違っていつものように魅力的には思えなかった。
「儂は事実を確認してすぐにお前を退学させて相応しい罰をくれてやるべきだと思った。ディオルグにもあわす顔がない、と」
ディオルグはコーディリアの父の名だ。ディオルグ・バルトア伯と父は幼い頃からの親友同士、結婚してからもその交友は続いていた。
だから自分とコーディリアも幼馴染なのだ。
「コーディリアが止めたのだ」
な、んだと…?
「コーディリアがもし、ヴェルハルトが他に好きな人が出来たから婚約破棄をしたいと願い出てきたなら、自分は受け入れる。お前を見捨てないでやって欲しい、とな」
「なっー…」
気付いていた?
コーディリアが自分の思惑を知っていた?
だったら何故この場に出てきたのだ?
いや、卒業パーティーを欠席する筈がないから当たり前なのだがー…だからこそ自分達はこの場でミラルカへの愛を証明しようと話し合ってー…
「だが、お前がもしこんな場で婚約破棄を言い出すような事があったなら……」
ーー あったなら?
「その時は自分の好きにさせていただきます、とな」
一際低く紡がれた声に竦みあがってコーディリアを見遣る。
「約束だ。コーディリア、ーー すまなかった」
ふ、と締め上げていた手を放されると腰が引け膝からその場に崩れ落ちた。
コーディリアに頭を下げる父が酷く遠くに見えた。
父と入れ替わりにす、と目の前にコーディリアが立った。
成長するにつれ自分よりずっと背が低くなった彼女を見上げるのは久しぶりだった。
背後のシャンデリアと相まってひどく眩しい。
「そのように怯えなくても命を取ったりしませんわよ?ーー 欲しくありませんもの、そんなモノ」
言いながらツ、心臓から顎へと扇子でなぞる姿は美しくー…何気ない仕草なのに後半酷く冷たく響く声音とあいまってなんだかとても怖かった。
「私もずっと言いたかっただけですの」すぅ、と大きく息を吸い込み
「貴方みたいな不実で馬鹿な殿方との結婚なんて私だって御免です!二度と私の前にその顔見せないで下さいませっ!…とね?」


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