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ハルカ嬢の魔力は一向に向上しなかった。
本人も努力しているし、教える魔法使いも必死だったがーー最初の魔力の顕現から2カ月、城内に諦めムードが漂い始めた。
カリンがまた調子に乗り出した。いやお前、何の能力もないだろ。
魔物がいない範囲は確実に狭まり、混乱は徐々に広まっているのに。いくらこの王城周辺からはまだ遠いとはいえ呑気すぎないか?
「君はどう思う?」
茶葉を携えて来てはお茶をご馳走になる、が日課になっている俺は候補の中でも一番落ち着いている(と思われる)ツキナ嬢に尋ねてみる。
他の候補(カリンを除く)はいつ帰れるのかと鬱々した状態になっている中、彼女だけは変わらず、最近特に情緒不安定なカンナ嬢を毎晩優しく抱きしめて寝つかせているという。
「質問の意図がわかりませんわ、クレイル様」
「聖女の魔力の顕現には何が足りないのだろいか?」
「私達のいた世界には元々魔法がありませんのよ?クレイル様」
「わかっている、君に色々教えてもらったからな。だが、聖女は君達の中に必ずいるはずで、魔法を知らない者でもこちらの魔法使いに教わる事でその才を顕現する者がいるのはハルカ嬢の件でもわかる。聖女の魔力の顕現を促すには教える以外に何をすれば良いのか……」
「つまりクレイル様はハルカ様を聖女だとは思ってらっしゃらない?」
「!いや、そんなつもりでは…、だが、そうか違うかの感覚だけで言えば違うのではないか、単にハルカ嬢は魔法の才があっただけなのではないかという気はしている」
「あんまりな言い様ですわね。ハルカ様は頑張っていらっしゃるのに」
「ハルカ嬢を貶めるつもりではない!」
「わかってますわ。クレイル様を含め周りの者は誰もそんな風に責めたりなさらない事は。ですが空気は伝わる。ハルカ様はそれに押し潰されそうになっているしこの宮全体にも影響が出ています。今やれる事は空気の入れ替えでは?」
「、どういう事だ?」
「毎回ハルカ様の稽古の経過を確認してはカリン様が嫌味を言い、周りはそれに眉を顰めて揉めるのがこの宮の日課になっていますでしょう?可能な限りハルカ様とカリン様の生活圏を完全に切り離す事です。そしてハルカ様の事をカリン様に教える様な者はハルカ様のそばからに排除。この宮に住んでいなければ魔力は顕現しないなんて禁止事項はないのでしょう?」
「っ、そうか!なるほどーーそれならハルカ嬢も重圧から解放されるな」
「はい。周りの目があるからハルカ様は自分を追い詰めてしまうしカリン様は逆に衆目を集めようとなさるのですわ。どちらも人目から離した場所にお部屋ごと移されては?」
「確かに、そうだな。この城は広いし離れた宮同士に移ってしまえば互いの様子を窺うような真似も出来なくなるという事か」
「その様子を目の当たりにしてストレスを感じる人も減りますわ」
♢♢♢
苦笑して告げると、礼を言って去って行った。
実際、毎日アレだと宮の空気が悪いのよ。
カンナちゃんも限界近いし。
ーーそれは何処も同じか。とっととレベルアップして下さいなハルカ様。
その思いは通じることなく季節が冬になり、カンナちゃんが風邪をひいた。城の中とはいえ冷暖房完備が当たり前の現代人にはきつい。私はカンナちゃんに付き添っていた。
「お姉さま……私、帰れる?」
「帰れるわよ。一緒に帰って遊ぶ約束いっぱいしたでしょ?戻ったらハロウィンよきっと」
「ハロウィン、ランドにコスプレして行きたいな…」
「約束したでしょ?後でやっぱりママと行くとか言わないでよ?」
「ママはコスプレ嫌いだもん」
「そうなの?楽しいのに」
「うん……」
苦しそうだ。私は握る手に力を込める。
「歌……うたって」
「いいよ。じゃ、カンナと雪の女王ね?」
私は歌った。いつもよりドアの外に野次馬が多い事に不覚にも気付かなかった。
♦︎♦︎♦︎
ーー本当に上手というか、綺麗に響く声だ。春を告げる様な。生きる活力が湧いてくるような。それにいつもは引っ詰めている長い髪をおろした姿も新鮮だった。
カンナ嬢の見舞いにきたつもりがメイド達に止められてうっかり盗み聴きの仲間入りをしてしまった。
だが、聴けて良かった。
最近はこの宮でもヒステリーか一体いつ帰してくれるのかと、涙ながらの訴えばかりが響きこちらまで鬱になりそうだったのだ。
ツキナ嬢は自分と同じか少し下くらいにしかみえないがこの先の見えない状況で良くああ落ち着いていられるものだ。
……そういえば取り乱す姿を見た事がない気がする。
いや、俺はたまに来るだけだから見た事がないだけだろう。
側仕えのメイド達に訊くと、
「ああ!ありますよ~お菓子作ってる時に分量間違えて悲鳴あげて大慌てなさったりとか!」
それを聞いてちょっとホッとした。
ーーん?何故俺はホッとしたのか。それが疑問の始まりだった。
この国の冬は長い。四季はあるが夏が短くて冬が長いのだ。聖女の顕現がなければこの冬を越せないかもしれない。候補召喚は夏だったのに、未だ聖女は不明のままだ。
小さな疑問でも、調べずにはいられなかった。どちらにしろ冬が終わる前に魔物が王都に迫ってくれば彼女達を守りきれるかわからない。
それでは、帰してやることも出来ないではないか。
本人も努力しているし、教える魔法使いも必死だったがーー最初の魔力の顕現から2カ月、城内に諦めムードが漂い始めた。
カリンがまた調子に乗り出した。いやお前、何の能力もないだろ。
魔物がいない範囲は確実に狭まり、混乱は徐々に広まっているのに。いくらこの王城周辺からはまだ遠いとはいえ呑気すぎないか?
「君はどう思う?」
茶葉を携えて来てはお茶をご馳走になる、が日課になっている俺は候補の中でも一番落ち着いている(と思われる)ツキナ嬢に尋ねてみる。
他の候補(カリンを除く)はいつ帰れるのかと鬱々した状態になっている中、彼女だけは変わらず、最近特に情緒不安定なカンナ嬢を毎晩優しく抱きしめて寝つかせているという。
「質問の意図がわかりませんわ、クレイル様」
「聖女の魔力の顕現には何が足りないのだろいか?」
「私達のいた世界には元々魔法がありませんのよ?クレイル様」
「わかっている、君に色々教えてもらったからな。だが、聖女は君達の中に必ずいるはずで、魔法を知らない者でもこちらの魔法使いに教わる事でその才を顕現する者がいるのはハルカ嬢の件でもわかる。聖女の魔力の顕現を促すには教える以外に何をすれば良いのか……」
「つまりクレイル様はハルカ様を聖女だとは思ってらっしゃらない?」
「!いや、そんなつもりでは…、だが、そうか違うかの感覚だけで言えば違うのではないか、単にハルカ嬢は魔法の才があっただけなのではないかという気はしている」
「あんまりな言い様ですわね。ハルカ様は頑張っていらっしゃるのに」
「ハルカ嬢を貶めるつもりではない!」
「わかってますわ。クレイル様を含め周りの者は誰もそんな風に責めたりなさらない事は。ですが空気は伝わる。ハルカ様はそれに押し潰されそうになっているしこの宮全体にも影響が出ています。今やれる事は空気の入れ替えでは?」
「、どういう事だ?」
「毎回ハルカ様の稽古の経過を確認してはカリン様が嫌味を言い、周りはそれに眉を顰めて揉めるのがこの宮の日課になっていますでしょう?可能な限りハルカ様とカリン様の生活圏を完全に切り離す事です。そしてハルカ様の事をカリン様に教える様な者はハルカ様のそばからに排除。この宮に住んでいなければ魔力は顕現しないなんて禁止事項はないのでしょう?」
「っ、そうか!なるほどーーそれならハルカ嬢も重圧から解放されるな」
「はい。周りの目があるからハルカ様は自分を追い詰めてしまうしカリン様は逆に衆目を集めようとなさるのですわ。どちらも人目から離した場所にお部屋ごと移されては?」
「確かに、そうだな。この城は広いし離れた宮同士に移ってしまえば互いの様子を窺うような真似も出来なくなるという事か」
「その様子を目の当たりにしてストレスを感じる人も減りますわ」
♢♢♢
苦笑して告げると、礼を言って去って行った。
実際、毎日アレだと宮の空気が悪いのよ。
カンナちゃんも限界近いし。
ーーそれは何処も同じか。とっととレベルアップして下さいなハルカ様。
その思いは通じることなく季節が冬になり、カンナちゃんが風邪をひいた。城の中とはいえ冷暖房完備が当たり前の現代人にはきつい。私はカンナちゃんに付き添っていた。
「お姉さま……私、帰れる?」
「帰れるわよ。一緒に帰って遊ぶ約束いっぱいしたでしょ?戻ったらハロウィンよきっと」
「ハロウィン、ランドにコスプレして行きたいな…」
「約束したでしょ?後でやっぱりママと行くとか言わないでよ?」
「ママはコスプレ嫌いだもん」
「そうなの?楽しいのに」
「うん……」
苦しそうだ。私は握る手に力を込める。
「歌……うたって」
「いいよ。じゃ、カンナと雪の女王ね?」
私は歌った。いつもよりドアの外に野次馬が多い事に不覚にも気付かなかった。
♦︎♦︎♦︎
ーー本当に上手というか、綺麗に響く声だ。春を告げる様な。生きる活力が湧いてくるような。それにいつもは引っ詰めている長い髪をおろした姿も新鮮だった。
カンナ嬢の見舞いにきたつもりがメイド達に止められてうっかり盗み聴きの仲間入りをしてしまった。
だが、聴けて良かった。
最近はこの宮でもヒステリーか一体いつ帰してくれるのかと、涙ながらの訴えばかりが響きこちらまで鬱になりそうだったのだ。
ツキナ嬢は自分と同じか少し下くらいにしかみえないがこの先の見えない状況で良くああ落ち着いていられるものだ。
……そういえば取り乱す姿を見た事がない気がする。
いや、俺はたまに来るだけだから見た事がないだけだろう。
側仕えのメイド達に訊くと、
「ああ!ありますよ~お菓子作ってる時に分量間違えて悲鳴あげて大慌てなさったりとか!」
それを聞いてちょっとホッとした。
ーーん?何故俺はホッとしたのか。それが疑問の始まりだった。
この国の冬は長い。四季はあるが夏が短くて冬が長いのだ。聖女の顕現がなければこの冬を越せないかもしれない。候補召喚は夏だったのに、未だ聖女は不明のままだ。
小さな疑問でも、調べずにはいられなかった。どちらにしろ冬が終わる前に魔物が王都に迫ってくれば彼女達を守りきれるかわからない。
それでは、帰してやることも出来ないではないか。
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