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20 二度寝
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『散歩に行くぞ。起きろ、おい』
翌朝。
目を覚ました俺は、ベッドを抜け出してロッドの自室を訪れていた。まだ外は薄暗いが、朝であることに変わりはない。
犬姿だとドアノブに手が届かないので、現在屋敷の扉はどこも半開きになっている。そんなわけですんなり廊下に出ることができた俺は、きっちり閉じられた扉を前にガシガシと頑張って存在をアピールしていた。
ロッドは俺の部屋の近くに自室を割り当てられた。昨日用意された部屋に入ったロッドは「こんなに広い部屋。僕ひとりで使っていいんですか?」と目をきらきらさせていた。広いといっても俺の部屋よりは狭いけどな。あとロッドが暮らしていた騎士団の寮のような狭い部屋がここにはない。それこそ物置くらいだ。
きっちり扉を閉めているロッド。先程からその前をうろうろして起きろと声をかけているのだが、ロッドは起きてこない。主人の声を無視するなんて。
『おい、起きろ。散歩に行くぞ。俺が誘ってやっているのに無視するとは何事だ』
仕方がないので扉に向かって体当たりしてやった。ドンっと大きな音がして、ようやくドアノブがまわった。
「……まだ夜です」
『朝だ』
とぼけたことを言うロッドは、眠そうに目を細めている。というか寝ている。立ったままうつらうつらしている彼の足を踏んで『起きろ!』と声をかけておく。隠しもしない欠伸をしたロッドは、唐突に俺を抱き上げるとそのまま自室に引っ込んでしまう。おいこら。散歩に行くって言ってるだろうが。
『起きろ、馬鹿!』
ジタバタしてやるが無反応なロッドは、俺を抱きしめたままベッドに寝転がる。無力な俺は動けない。
『おい、ロッド』
「……」
すやすや寝息を立て始めるロッドの腕の中で、半眼になる。おいこら。散歩はどうなった。俺は抱き枕じゃないぞ。
※※※
「なにしてるんですか!」
『……はっ!』
フロイドの大声にぱっと目を開ける。いつの間にか俺も寝ていたらしい。くわぁと欠伸をこぼす俺であったが、体が揺れてぴたりと口を閉ざす。
「おはようございます。ウィル様」
どうやらロッドに抱えられているらしい。今度はきちんと目を開けている彼は、ベッドに腰掛けている。そんなロッドを仁王立ちで睨みつけているのはフロイドであった。
きっちり着替えを済ませているフロイドは、まだ寝巻き姿のロッドに腹を立てているらしい。せっかく俺が起こしてやったのに。二度寝なんてするからだぞ。ニマニマしながらロッドの顔を見上げていれば、フロイドが「ウィル様」と俺を見据えてきた。え、俺?
『あ?』
「なんで一緒に寝てるんですか」
あ、気になるのはそこ? なんでと言われても。
『こいつがどうしても俺と一緒に寝たいという顔をしていたから。一緒に寝てやっただけだ。心優しい俺に感謝しろ』
ペシペシとロッドの腕を叩けば、「ありがとうございます」という素直な言葉が返ってきた。素直な奴は好きだぞ。
『ふむふむ。俺と一緒に寝て楽しいだろ』
「はい。僕、犬を飼って一緒に寝るのが夢だったので」
『俺はおまえのペットではない』
「すごく楽しかったです」
『ペットではない』
念押しするがロッドにはあまり伝わらない。
俺を抱きしめたまま満足そうに口元を緩めている。
こいつ、もしや俺のお世話係という仕事を忘れたわけじゃないだろうな。なんか本当にもふもふのペットを手に入れたとでも思っていそうな空気である。
「ほら、はやく着替えてください」
パンパン手を叩くフロイドに急かされてベッドをおりる。くるくる自分の尻尾を追いかけてから、ロッドにはやくしろとアタックしておく。
『散歩に行くぞ』
「朝食まだです」
『散歩が先』
「僕、食べないと力でません」
『散歩が先!』
素早く廊下に出る俺をフロイドが追いかけてくる。ロッドはのろのろ着替えており追いかけてもこない。なんてやる気のなさだ。
仕方がないのでフロイドをお供に散歩を楽しむことにする。けれども外に駆け出す前にフロイドによって抱き上げられてしまった。気にせず足をシャカシャカ動かすが、フロイドは怯まない。部屋の方角へと戻ってしまう。
『なにをする!』
「先に食べてくださいよ。いつまでも片付かないんですけど」
怖い顔するフロイドは無言で俺を部屋に戻した。
『クッキーを出せ!』
「出しません」
『クッキーを出せ!』
「出しませんてば」
クッキー缶は俺の手が届かないところにある。フロイドの仕業だ。ぴょんぴょん飛び跳ねてみるが一向に届かない。なんで犬なんだ。猫だったら登れたかもしれないのに。
用意された朝食をたいらげて、もう一度クッキーを催促するがフロイドには無視されてしまう。
怒った俺はソファーに飛び乗ってクッションをくわえる。そのまま振りまわそうとするが意外と重くて苦戦していれば、フロイドにクッションを奪われてしまった。
『なにをする!』
「それはこちらのセリフですよ」
『クッキー! クッキー!』
「だめです!」
強気なフロイドは「まったくもう」と腰に手を当てて俺を見下ろしてくる。クッキーくらい別によくない? あとロッドはどこに消えたんだ。はやく戻ってこい、俺の子分。
翌朝。
目を覚ました俺は、ベッドを抜け出してロッドの自室を訪れていた。まだ外は薄暗いが、朝であることに変わりはない。
犬姿だとドアノブに手が届かないので、現在屋敷の扉はどこも半開きになっている。そんなわけですんなり廊下に出ることができた俺は、きっちり閉じられた扉を前にガシガシと頑張って存在をアピールしていた。
ロッドは俺の部屋の近くに自室を割り当てられた。昨日用意された部屋に入ったロッドは「こんなに広い部屋。僕ひとりで使っていいんですか?」と目をきらきらさせていた。広いといっても俺の部屋よりは狭いけどな。あとロッドが暮らしていた騎士団の寮のような狭い部屋がここにはない。それこそ物置くらいだ。
きっちり扉を閉めているロッド。先程からその前をうろうろして起きろと声をかけているのだが、ロッドは起きてこない。主人の声を無視するなんて。
『おい、起きろ。散歩に行くぞ。俺が誘ってやっているのに無視するとは何事だ』
仕方がないので扉に向かって体当たりしてやった。ドンっと大きな音がして、ようやくドアノブがまわった。
「……まだ夜です」
『朝だ』
とぼけたことを言うロッドは、眠そうに目を細めている。というか寝ている。立ったままうつらうつらしている彼の足を踏んで『起きろ!』と声をかけておく。隠しもしない欠伸をしたロッドは、唐突に俺を抱き上げるとそのまま自室に引っ込んでしまう。おいこら。散歩に行くって言ってるだろうが。
『起きろ、馬鹿!』
ジタバタしてやるが無反応なロッドは、俺を抱きしめたままベッドに寝転がる。無力な俺は動けない。
『おい、ロッド』
「……」
すやすや寝息を立て始めるロッドの腕の中で、半眼になる。おいこら。散歩はどうなった。俺は抱き枕じゃないぞ。
※※※
「なにしてるんですか!」
『……はっ!』
フロイドの大声にぱっと目を開ける。いつの間にか俺も寝ていたらしい。くわぁと欠伸をこぼす俺であったが、体が揺れてぴたりと口を閉ざす。
「おはようございます。ウィル様」
どうやらロッドに抱えられているらしい。今度はきちんと目を開けている彼は、ベッドに腰掛けている。そんなロッドを仁王立ちで睨みつけているのはフロイドであった。
きっちり着替えを済ませているフロイドは、まだ寝巻き姿のロッドに腹を立てているらしい。せっかく俺が起こしてやったのに。二度寝なんてするからだぞ。ニマニマしながらロッドの顔を見上げていれば、フロイドが「ウィル様」と俺を見据えてきた。え、俺?
『あ?』
「なんで一緒に寝てるんですか」
あ、気になるのはそこ? なんでと言われても。
『こいつがどうしても俺と一緒に寝たいという顔をしていたから。一緒に寝てやっただけだ。心優しい俺に感謝しろ』
ペシペシとロッドの腕を叩けば、「ありがとうございます」という素直な言葉が返ってきた。素直な奴は好きだぞ。
『ふむふむ。俺と一緒に寝て楽しいだろ』
「はい。僕、犬を飼って一緒に寝るのが夢だったので」
『俺はおまえのペットではない』
「すごく楽しかったです」
『ペットではない』
念押しするがロッドにはあまり伝わらない。
俺を抱きしめたまま満足そうに口元を緩めている。
こいつ、もしや俺のお世話係という仕事を忘れたわけじゃないだろうな。なんか本当にもふもふのペットを手に入れたとでも思っていそうな空気である。
「ほら、はやく着替えてください」
パンパン手を叩くフロイドに急かされてベッドをおりる。くるくる自分の尻尾を追いかけてから、ロッドにはやくしろとアタックしておく。
『散歩に行くぞ』
「朝食まだです」
『散歩が先』
「僕、食べないと力でません」
『散歩が先!』
素早く廊下に出る俺をフロイドが追いかけてくる。ロッドはのろのろ着替えており追いかけてもこない。なんてやる気のなさだ。
仕方がないのでフロイドをお供に散歩を楽しむことにする。けれども外に駆け出す前にフロイドによって抱き上げられてしまった。気にせず足をシャカシャカ動かすが、フロイドは怯まない。部屋の方角へと戻ってしまう。
『なにをする!』
「先に食べてくださいよ。いつまでも片付かないんですけど」
怖い顔するフロイドは無言で俺を部屋に戻した。
『クッキーを出せ!』
「出しません」
『クッキーを出せ!』
「出しませんてば」
クッキー缶は俺の手が届かないところにある。フロイドの仕業だ。ぴょんぴょん飛び跳ねてみるが一向に届かない。なんで犬なんだ。猫だったら登れたかもしれないのに。
用意された朝食をたいらげて、もう一度クッキーを催促するがフロイドには無視されてしまう。
怒った俺はソファーに飛び乗ってクッションをくわえる。そのまま振りまわそうとするが意外と重くて苦戦していれば、フロイドにクッションを奪われてしまった。
『なにをする!』
「それはこちらのセリフですよ」
『クッキー! クッキー!』
「だめです!」
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