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19 引っ越し
「……なんか増えてる」
帰宅した俺を出迎えたディック兄上は、荷物を抱えるロッドを確認するなり目を剥いた。
「なんだこいつは! 誰なんだ」
大声を出す兄上の前まで歩いていったロッドは「はじめまして」と呑気に挨拶をしている。
「王立騎士団所属のロッドです。本日からウィル様のお世話係になりました」
「勝手に妙な係を作るんじゃない」
「ですが殿下に命じられたことなので」
はぁ!? とフロイドを振り返った兄上は「殿下はどういうつもりなんだ」と嘆いてしまう。
オロオロするフロイドは、「申し訳ありません!」と素早く頭を下げた。それを真似してぺこぺこするロッドはぼんやりしている。
『俺の子分が増えた。喜べ』
嬉々として成果を報告するが、兄上は難しい顔で腕を組んでいる。人が増えたことをあまり嬉しくは思っていないようだ。だがこれは仕方のないことなので許してほしい。ロッドを野放しにしておくと、あの美人な先輩であるハンクをはじめ色々な人に秘密をばら撒いてしまいそうなのだ。
『でも本当はロッドじゃなくてハンクがいい』
ニヤッと笑えば、ロッドが「先輩はダメです」と眉尻を下げた。なんでダメなんだ。誰だよ、と呟く兄上はなんかもう諦めたような顔だった。
聖女の力をもってしても人間に戻るのは難しそうと教えてやれば、兄上は天を仰いだ。その絶望しきった顔を横目に、ロッドが「僕の部屋はどこですか」とマイペースに問いかけてくる。
『ふむふむ。俺の部屋に住んでもいいぞ。特別だからな。さっき見た寮の部屋みたいだな』
「ありがとうございます」
「いやダメですよ!」
苦言を呈してくるフロイドは、「あなたの部屋はちゃんと用意しますから」とロッドの荷物を奪い取った。そのまま使用人に預けると背中を押して屋敷内へと誘導する。
『部屋の準備ができるまで俺の部屋にいるといい。今ならクッキーもつけてやる』
「ありがとうございます」
なんだかわくわくする俺とは対照的に、フロイドは苦い顔で「なんか妙に気が合ってる」と頭を抱えている。俺がロッドと仲良くすることの何が問題なんだ。
そうして俺の自室に踏み入ったロッドは、物珍しそうにきょろきょろし始める。「広いですね」と感心している彼は、若干浮き足立っている。
『隣の部屋は俺の寝室。ベッドが広いから一緒に眠れるぞ。今日は泊まって行け』
「ありがとうございます」
「ダメです! ダメ!」
怖い顔で割り込んでくるフロイドは「今日中にはあなたの部屋も用意できます!」と腰に手を当てた。なにをそんなにピリピリしているのか。
『よし、ロッド。俺についてこい!』
「はい」
ぼんやりしているロッドを促して、室内を案内してやる。
『これは俺が気に入っているクッション。勝手に使うなよ』
「わかりました」
『こっちには俺のおやつが隠してある。勝手に食べるなよ』
「はい」
素直に頷くロッドに「おやつのクッキーを出せ」と命じてみる。すぐさま「はい」と返事をした彼は、俺が教えたおやつの隠し場所からクッキーを取り出した。
早速一枚もぐもぐしていれば、フロイドがすごい勢いでロッドの手からクッキー缶を奪い去っていった。
「勝手にあげないでください!」
「……」
「聞いてるんですか!?」
多分聞いていないロッドは首を傾げている。
「油断してるとすぐクッキーばかり食べるんですから」
ネチネチ文句を言ってくるフロイドは、クッキー缶を閉めると再び俺の手が届かない場所に置いてしまう。おのれ、フロイド。俺のおやつタイムを邪魔しやがって。
しかし実にいい子分を手に入れた。フロイドは文句ばかりで俺の命令を素直に聞かないからな。
ソファに飛び乗ってお気に入りのクッションに顎をのせてうだうだする。ソファの前に正座するロッドがじっと俺を見つめてくる。その様子を少し後ろから見守るフロイド。
「触ってもいいですか」
『ちょっとだけなら』
「ありがとうございます」
さっと手を伸ばしてくるロッドは、絶妙な力加減で頭を撫でてくる。なんだか心地よさに眠くなる。
大きく欠伸をすれば、開いた口にまた指を突っ込まれた。気にせず口を閉じておく。
『……』
「……」
無表情なロッドと見つめ合うこと数秒。微動だにしないロッドは、絶対にこの状況を楽しんでいた。犬に噛まれるのが好きなのだろうか。変人だな。やれやれとため息を吐いていれば、目を見開いたフロイドが「こら!」と大声を出した。
「また噛んでる! 何してるんですか、ウィル様!」
勢いよく寄ってきたフロイドがロッドの腕を掴んで引き抜いた。なぜか頭ごなしに俺を叱りつけてくるが、ちゃんと見ていたのか? どう見ても勝手に人の口へと指を突っ込んできたロッドが悪いだろうがよ。俺悪いところないよな。
甘噛みなんで大丈夫です、とやる気なく説明するロッドもなんなんだ。その言い方だと俺が悪いみたいじゃないか。ふざけやがって。先程は案外気が合うと思ったが、やっぱりこいつは失礼男だ。
『噛みついてやろうかぁ!?』
勢いよく立ち上がってロッドに向かえば、またもやフロイドが「やめなさい!」と大声出してきた。
帰宅した俺を出迎えたディック兄上は、荷物を抱えるロッドを確認するなり目を剥いた。
「なんだこいつは! 誰なんだ」
大声を出す兄上の前まで歩いていったロッドは「はじめまして」と呑気に挨拶をしている。
「王立騎士団所属のロッドです。本日からウィル様のお世話係になりました」
「勝手に妙な係を作るんじゃない」
「ですが殿下に命じられたことなので」
はぁ!? とフロイドを振り返った兄上は「殿下はどういうつもりなんだ」と嘆いてしまう。
オロオロするフロイドは、「申し訳ありません!」と素早く頭を下げた。それを真似してぺこぺこするロッドはぼんやりしている。
『俺の子分が増えた。喜べ』
嬉々として成果を報告するが、兄上は難しい顔で腕を組んでいる。人が増えたことをあまり嬉しくは思っていないようだ。だがこれは仕方のないことなので許してほしい。ロッドを野放しにしておくと、あの美人な先輩であるハンクをはじめ色々な人に秘密をばら撒いてしまいそうなのだ。
『でも本当はロッドじゃなくてハンクがいい』
ニヤッと笑えば、ロッドが「先輩はダメです」と眉尻を下げた。なんでダメなんだ。誰だよ、と呟く兄上はなんかもう諦めたような顔だった。
聖女の力をもってしても人間に戻るのは難しそうと教えてやれば、兄上は天を仰いだ。その絶望しきった顔を横目に、ロッドが「僕の部屋はどこですか」とマイペースに問いかけてくる。
『ふむふむ。俺の部屋に住んでもいいぞ。特別だからな。さっき見た寮の部屋みたいだな』
「ありがとうございます」
「いやダメですよ!」
苦言を呈してくるフロイドは、「あなたの部屋はちゃんと用意しますから」とロッドの荷物を奪い取った。そのまま使用人に預けると背中を押して屋敷内へと誘導する。
『部屋の準備ができるまで俺の部屋にいるといい。今ならクッキーもつけてやる』
「ありがとうございます」
なんだかわくわくする俺とは対照的に、フロイドは苦い顔で「なんか妙に気が合ってる」と頭を抱えている。俺がロッドと仲良くすることの何が問題なんだ。
そうして俺の自室に踏み入ったロッドは、物珍しそうにきょろきょろし始める。「広いですね」と感心している彼は、若干浮き足立っている。
『隣の部屋は俺の寝室。ベッドが広いから一緒に眠れるぞ。今日は泊まって行け』
「ありがとうございます」
「ダメです! ダメ!」
怖い顔で割り込んでくるフロイドは「今日中にはあなたの部屋も用意できます!」と腰に手を当てた。なにをそんなにピリピリしているのか。
『よし、ロッド。俺についてこい!』
「はい」
ぼんやりしているロッドを促して、室内を案内してやる。
『これは俺が気に入っているクッション。勝手に使うなよ』
「わかりました」
『こっちには俺のおやつが隠してある。勝手に食べるなよ』
「はい」
素直に頷くロッドに「おやつのクッキーを出せ」と命じてみる。すぐさま「はい」と返事をした彼は、俺が教えたおやつの隠し場所からクッキーを取り出した。
早速一枚もぐもぐしていれば、フロイドがすごい勢いでロッドの手からクッキー缶を奪い去っていった。
「勝手にあげないでください!」
「……」
「聞いてるんですか!?」
多分聞いていないロッドは首を傾げている。
「油断してるとすぐクッキーばかり食べるんですから」
ネチネチ文句を言ってくるフロイドは、クッキー缶を閉めると再び俺の手が届かない場所に置いてしまう。おのれ、フロイド。俺のおやつタイムを邪魔しやがって。
しかし実にいい子分を手に入れた。フロイドは文句ばかりで俺の命令を素直に聞かないからな。
ソファに飛び乗ってお気に入りのクッションに顎をのせてうだうだする。ソファの前に正座するロッドがじっと俺を見つめてくる。その様子を少し後ろから見守るフロイド。
「触ってもいいですか」
『ちょっとだけなら』
「ありがとうございます」
さっと手を伸ばしてくるロッドは、絶妙な力加減で頭を撫でてくる。なんだか心地よさに眠くなる。
大きく欠伸をすれば、開いた口にまた指を突っ込まれた。気にせず口を閉じておく。
『……』
「……」
無表情なロッドと見つめ合うこと数秒。微動だにしないロッドは、絶対にこの状況を楽しんでいた。犬に噛まれるのが好きなのだろうか。変人だな。やれやれとため息を吐いていれば、目を見開いたフロイドが「こら!」と大声を出した。
「また噛んでる! 何してるんですか、ウィル様!」
勢いよく寄ってきたフロイドがロッドの腕を掴んで引き抜いた。なぜか頭ごなしに俺を叱りつけてくるが、ちゃんと見ていたのか? どう見ても勝手に人の口へと指を突っ込んできたロッドが悪いだろうがよ。俺悪いところないよな。
甘噛みなんで大丈夫です、とやる気なく説明するロッドもなんなんだ。その言い方だと俺が悪いみたいじゃないか。ふざけやがって。先程は案外気が合うと思ったが、やっぱりこいつは失礼男だ。
『噛みついてやろうかぁ!?』
勢いよく立ち上がってロッドに向かえば、またもやフロイドが「やめなさい!」と大声出してきた。
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