ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

文字の大きさ
39 / 42

ヴァリアンツの牙は折れやしない

しおりを挟む
「あり得んッ、あり得んッ! 魔人の力だぞ!? 伝説の存在だぞ! どうして我がこれ程の傷を」

ディズモンは恐怖を感じていた。

全身の至る所から、血が溢れ出ていた。
傷口から魔人の力が抜けていくのを感じる。
立っているのもやっとで、はやく倒れてしまいたかった。

十回殺してもお釣りがくるほどの魔法を喰らわせてやったのに、ルドルフ・ヴァリアンツは剣を盾にして、致命傷を避けながら、ディズモンを着実に追い詰めていた。

「ふう、ふう、ふう、もう終わりかディズモン。安心しろ、すぐにあの世に送ってやるぜ」


確実に蓄積されたダメージは相手の方が上だ。
なのに、何故倒れない!?

ボロボロのルドルフが剣を振り上げる。
ディズモンが後ずさりして一歩さがると、地面に足をひっかけて、尻もちをついてしまう。

「や、やめろ、こんな殺し合いは無意味だ! 永遠の命を手に入れるのだ。こんな辺境の地で死んでたまるか!」

起死回生の一手はないか、ディズモンが周囲を見渡す。

既に戦闘は終わっていた。
いや、違う。誰もが手を止めて、この一騎打ちを見届けていた。

そこには、まだ戦えるディズモンの兵士達が残っていた。

「お前等ッ、何をしている見てないで助けろ馬鹿者!」

死を目の前にして、迫真の籠ったディズモンの命令に、兵士の一人がハッと顔をあげる。手に持っていた弓を構えて、ルドルフに向けて矢を放った。

「しまった!」

一騎打ちを見届けていた、ジンの間抜けな声が響く。
しかし、もう遅い。

ディズモンに集中していたルドルフの腹に、深く矢が突き刺さる。
それは、放置すれば、間違いなく致命傷となる一撃であった。

「いやーーー!」

「父上ぇ!」

ミラとハイネの絶叫が、全兵士の耳に届く。
張り詰めた糸が切れたように周囲が動きだす。

「一騎打ちの誓いすら守れぬのかッ、ディズモン!」

ジンが兵士に命令をだしながら、ディズモンを責める。

「ふん、命を失うくらいなら、そんなもの幾らでも捨ててくれるわ!」

既にルドルフは剣を手放して、腹を抑えながら四つん這いに伏せていた。

漆黒の剣が地面に転がる。

「クソッ、この剣がッ、こんな剣さえなければここまで苦戦しなかったものを!」

忌々しいそうに、ディズモンが剣を蹴り飛ばして、手の届かない位置まで弾く。

この距離なら、助けがくるより先にこの男の首を跳ねれる。

ここまで虚仮にされたのは、ディズモンにとっても生まれて初めてだ。
必ず、この手で殺さねば気すまない。

ゆっくりと、ディズモンは倒れるルドルフのもとへと足を進める。



腹が痛い。
いつの間にか矢が腹に突き刺さっていた。

正直、立っているのもやっとで、朦朧としながらディズモンとの闘いに集中していたから、射られたことにすら気が付かなかった。

こちらに近づく足音が聞こえる。顔をあげれば、醜悪な笑みを浮かべ俺を見下ろすディズモンが目の前にいた。

「はっはっは! いい気味だルドルフ! なにがヴァリアンツは倒れないだ! 無様にひれ伏してみっともない」

みっともないのはテメエの方だ。
魔人なんぞの力に頼りやがって。
いや、俺も破滅の剣ブレイクソードの力を借りて、最後は息子のハイネ頼りだから、人のことは言えないか。

「はあ、はあ……無様なのはどちらだろうな。そんな姿になって、ようやくこんな辺境の中年貴族といい勝負だったのだから」

「勘違いするな。勝ったのは私だ、貴様は死ぬ。剣も失った、もう貴様に勝ち目はない。偉そうにのたまっていたヴァリアンツの牙とやらは、もう折れたのだ。私に歯向かったことを、あの世で後悔するがいい」

ディズモンが剣を振り上げる。

俺はそれを見上げて、


「ふっふっふ」

思わず笑ってしまう。

「何が可笑しい!?」

ああ、おかしいよ。
みっともないのも、勘違いしているのも全部お前の方さ。

「ヴァリアンツの牙は決して折れない。誇りを失ったお前如きに剣と盾たる我らの牙に、傷一つつけられやしない」

「剣もない貴様に出来ることはないッ死ね!」

―――ヴァリアンツの牙とは、我らの心だ。

誇り高く、正しくあろうとするプライドだ。
たとえ剣を手放そうとも、失われる物ではない。

まだ残っている。
貴様にとどめを刺すために残していた最後の力が!
剣よりもはるかに使い慣れた鋼鉄の拳俺の武器が!

魔力を最後の一滴まで絞りだす。
右手の拳が、眩いばかりに雷撃の閃光を放つ。

俺を舐めたなディズモン。
矢が一本腹に刺さった程度で止まってたら、馬鹿なヴァリアンツ軍の総大将は務まらねえんだよ。

つまりは根性だ!

不意を突くように、勢いよく立ち上がり、振り下ろされる剣をギリギリで躱す。

「なっ!?」

「終わりだぁぁディズモォォォン!」

雷を纏ったゲンコツが、ディズモンの顎をとらえる。
確かな感触と共に、穿った下顎が、空へと飛んでいく。

倒れたディズモンを見下ろすと、顔の下半分が消失しており、完全に息絶えていた。
それを見届けて、俺は誰にも聞こえないように、情けなく囁いた。

「か、勝った。死ぬかと思ったぞ」




気が抜けた途端に、腹の痛みが我慢できない程に膨れ上がってきた。

やばい、冗談抜きで死ぬかも。

その場で倒れそうになったところを、二人の兵士に支えられる。
こいつらは確か、ジンが俺につけた護衛だったな。

どうやら怪我もなく生き延びたらしい。良かった、良かった。

「チ゛チ゛ウ゛エ゛~!!!」
「ルドルフ様ぁぁぁわーん!」

ん?
父上?
それと聞きなれた女の声がしたぞ、まさか!?

「お前達、そのヘルムを外せ!」

ヘルムの下にあった顔は、泣きじゃくるハイネとミラであった。

「はあ~、お前達マジか」

あれだけ来るなと言ったのに、勝手についてきたらしい。
ということは、ジンもグルだな。
クソ、どうして俺にはあんなに厳しくするくせに、弟には甘いんだよ!


馬に乗ったジンが慌てて駆け寄ってくる。

「父上、すぐに治療を!」

「ああ、頼むよ」

ようやく平穏が訪れる。
これで少しは休めるだろう。

その時だった

「これはどういうことだ。なぜディズモンが死んでいる……生贄の血はどこだぁぁぁ!」

その咆哮は、魂を揺さぶる根源的な恐怖を宿していた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏芽みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...