ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

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窮地に追いやられた時に真価を発揮する

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空からこちらを見下ろす赤い瞳。蝙蝠のような皮膜がついた翼。
頭からは二本の角が生えて、肌は闇のように黒かった。

魔人。
勇者でしか太刀打ちできない伝説の存在。

「馬鹿な、どうして魔人がここに!?」

「貴様らがディズモンを殺したのか。よくもやってくれたな!」

魔人が手を振り払う。
それだけで、闇の魔力を纏った風が周囲の兵士達を吹き飛ばす。
圧倒的な力だ。


「あいつは生贄を集めるのに優秀だった。余計なことをしてくれる」

こいつは、ゲームでいえば中盤以降でやっと姿を現す存在だ。
どうあがいても、今の俺達に勝ち目はない。

俺の両脇を支えようとするハイネとミラを交互に見る。
最悪だ。最悪な形で出会ってしまった。

俺は二人の背中を押し飛ばして、ジンに命令する。

「撤退だ! ジン、この場にいる全員の命と引き換えても、ミラとハイネを生かせ!」

その命令に、ジンも、ハイネもミラも目を丸くする。

「なにを言っているのですか父上!?」

「冗談ではない! たとえお前が死んでも、二人を守るんだ。分かったな!?」

俺の本気が伝わったのか、ジンは大きく頷き、大声を張り上げる。

「騎馬隊、ハイネとミラ殿を拾い撤退しろ! 急げ、動けない者は置いていけ。二人を死守しろ!」

それを合図に全兵士が動き始める。

「ちょっと待ってください、どうして私を!? 父上はどうするのです!?」

「俺は、こいつを倒す」

空に浮かび、上空から俯瞰して様子を見ていた魔人を睨みつける。

「ほう、貴様ごときが俺に歯向かうか」

「ディズモンを殺したのは俺だ。文句があるなら俺にいえ」

「待って、ルドルフ様はすぐに手当てしないと死んでしまうのよ!?」

「ジン早くしろ!」

「ハッ!」

ジンとその部下が、ハイネとミラを捕まえて無理矢理、二人を馬上に引き上げる。

これでいい。
俺の代わりは、いくらでもいる。
しかし、二人は世界を救う為に絶対必要な存在なのだ。




ハイネは怒号響き渡る戦場で、流されるままに馬に乗せられて、魔人に立ち向かう父上の背中を見ていた。

助けなければいけない。
自分が生き残るより、父上が助かるほうが、遥かにいいはずである。

ずっと父のようになりたいと願い、その背中を追っていたのに、いまは、ただひたすらに遠ざかっていく。

助けたい気持ちはあるが、いま駆け付けたところで、あの魔人には勝てない。
それほどまでに、あの魔人から放たれるプレッシャーは圧倒的だった。

本能が逃げろと叫んでいる。
魔人から逃げたとしても、だれもハイネを責めないだろう。

父を見捨てるのか?
でも仕方ないだろ。
無属性の自分になにができるというのか。

僅かな時間のなかで、自分を慰める言葉と、責める言葉が次々と溢れだして交錯する。

恐怖から、現実から目を逸らし、ハイネは視線を落とそうとした。
しかし、視界の端を突如通り抜けていった眩い光に目を奪われる。

自分と同じく保護されたはずのミラが兵士の拘束を振り払い、父上へと駆けていく、その姿を。

ミラの背中は、聖なる光に守護されているかのように光輝いていた。




魔人を前にして、俺に出来ることは、できるだけ長く時間稼ぎをするくらいだ。

しかし、腹に矢が刺さり、魔力も尽きた俺は、殺される前から死にそうな状態だ。だから、魔人の一撃を正面から受けて、ハイネ達を救う一瞬の隙をつくる程度しかやることがない。

魔人は虚空に手を突っ込み、どこからともなく巨大な剣を取り出した。
呪われたように赤黒い不気味なその剣が、容赦なく俺に向かって振り下ろされる。

(ここまでか……)

死を受け入れて、せめて一撃、手痛いしっぺ返しを叩きこんでやろうと、拳を構える。

だが、攻撃が俺に当たることは無かった。

眩い光が、その攻撃を防いだ。

颯爽と駆け付けた光の少女。
光に反射して煌めく美しい銀髪が躍動して翻る。

彼女の手には俺が地面に落としていた破滅の剣ブレイクソードが握られていた。

魔人は思わぬ伏兵に目を見開き余裕の表情を崩す。

「な、何者だ!?」

「ふん!」

ミラは神々しい光を纏っていた。
圧倒的だった魔人のプレッシャーを、ギラギラと輝く神聖な閃光が打ち消す。

それは間違いなく、聖女へ覚醒した証だった。

「絶対にルドルフ様は殺させない。わたしが命に代えてもお守りする」

ミラが破滅の剣ブレイクソードを掲げると、主の望みに答えるように、刃から漆黒のオーラを吹き上げる。

そのオーラは、チート武器破滅の剣ブレイクソードのみに許された魔法属性『破滅』が発動していることを意味する。

ゲームでは勇者のみ装備できる武器であり、他のキャラに持たせることすら出来ない。そのはずだった。

なのに彼女はその力を解放している。

勇者しか装備できないのはゲームのシステムの話だ。
実際に俺だって、装備するだけなら出来ていた。

けれども、ミラは破滅の剣ブレイクソードの真の力を引き出していた。
勇者の力のみに呼応すると思われたそれは、もしかすると、聖なる力に覚醒した者にのみ応える力だったのかもしれない。

ゲームではミラに持たせることがシステム上不可能だった。
でもここはゲームじゃない。現実だ。
ゲームでは出来なかったシステム外の行動奇跡も、ここなら起こりえる。

闇のオーラを纏う破滅の剣ブレイクソードの剣先を空に向けて、ミラが構える。

「魔人だがなんだか知らないけど、あたしの愛するひとを傷つける奴に容赦はしない」

「っぐ!?」

聖なる光と破滅の闇が混じり合う。
白と黒、光と闇。
相反する二つの光が、破滅の剣《ブレイクソード》に集約されていく。

魔人は咄嗟に、闇のオーラを展開して防御壁を張る。

しかし、あの剣はその程度で防げる能力ではない。
魔人、魔獣に対する戦闘ダメージを200%上乗せ。筋力、俊敏など各種ステータスを2倍に増加。属性『破滅』は相手に固定ダメージ与える。

それに加えて、ミラが覚醒した聖属性の力は魔人へのダメージ上乗せ120%の特攻能力がある。

魔人はあらゆるダメージを80%軽減する能力を持つが、基礎ステータス2倍になり、その上で320%のダメージ増加が加わった聖女の攻撃は、魔人の能力を余裕で貫通する。

優しき閃光ホーリー・スマイト

極大の閃光が、音を置き去りにして、闇を切り裂く。

大いなる存在を連想させる幻想的な光の柱が、夜空に向かってそびえたち、魔人の体を貫いた。
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