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二人の神子
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真実を知るカミーユであるが、言えるはずもない。自分の友人兼部活仲間が国の内外から血眼で探されている超絶加護持ちの神子様だなんて、口が裂けても言えない。
せっかくの就職先がパーだし、友情も木っ端みじんになる。
(しかし、見事に対比になってるでござるな)
女子生徒のほうは、周囲に担ぎ上げられた感がするが、男子生徒は自ら先導している雰囲気がある。
加護の有無を見抜く力などカミーユにはない。そういった特殊な技能持ちは、力が強ければ強いほど神殿や国が独占をしているから、早々お目にかかれるものではない。
「水色の髪の男子生徒がマイルズ・コールマン男爵令息。赤みのあるブルネットの女子生徒がラミィ・ロックベルさんよ」
コールマンということは、ティンパイン貴族ではないのだろうか。ティンパイン貴族は動物に関係する家名が付くことが多い。
「コールマン男爵はあまり聞かない名でござ……ですが、他国留学生ですか?」
あやうくいつものござるが出るところだったカミーユは、慌てて咳払いで誤魔化した。
女性生徒たちは気にした様子もなく、噂の相手が気になるのか口を開く。きっと、話したくてうずうずしていたのだろう。
「いいえ、コールマン男爵は新興貴族ですよ」
「もとは商家だったそうだけど、爵位を買ったそうよ。先々代だから、彼が三代目だったかしら」
「特別な功績が認められたわけじゃないし、婚姻によって得た爵位ではないから普通の家名なのよね」
動物由来の家名は、ティンパインでは一種の格の一つである。
その家が興された時は注目されるが、後世に引き継がれるにつれて恒常化して忘れられがちだが、意味があるのだ。
カミーユに教えてくれた女子生徒の声は、特別大きくなかった。だが、家名の話題になった途端、マイルズがこちらを見て睨んできた。
(家名にコンプレックスがあるタイプでござるか……)
面倒なタイプである。貴族は虚勢を張ってなんぼなところもあるが、度が過ぎるプライドは足を引っ張る。
カミーユだって、元侯爵家の一員だ。貴族の見栄っ張りなところは知っているし、父親がそういう人間だった。
そんなもので腹が満たされるわけではないし、トラブルになりやすい。カミーユにはあまり共感できない心理だし、できれば関わりたくない。
だが、この手の噂をしているのはカミーユに教えてくれた女子生徒だけではない。似たような会話が周囲のいたるところで行われている。家名のことが出るたびに、マイルズは首を振り回す勢いで睨みつけている。
マイルズの視線がこちらに留まらないうちに、女子生徒にお礼を言って素早く退散する。
「なんやった?」
「学園の生徒に『神子様』かもしれない生徒がいるでござる。マイルズ・コールマンとラミィ・ロックベルの二人を巡って、派閥争いっぽいものが起こっているようでござるよ」
その場に沈黙が下りる。
どっちも偽物だと知っている面子にしてみれば、心底関わりたくない類だ。藪蛇だったらたまらない。
(シン殿は無視するでござろうな。神子だと言い張っているのは赤の他人でござる。事実がバレて空気は悪くなっても、本人たちの自業自得としかいえないのでござる)
ラミィのほうは大人しそうだが、マイルズは気も強ければ、我も強そうだ。こちら側から特にアクションを起こさなくても、自爆するだろう。
彼らのきっかけは些細な嘘や誤解だったかもしれないけれど、これだけ周囲を巻き込んでいるとなれば何事もなく収束とはいかないだろう。
平民たちの噂話で終われば良かったものの、貴族や王族も通っている学園で広まってしまったのだから。
せっかくの就職先がパーだし、友情も木っ端みじんになる。
(しかし、見事に対比になってるでござるな)
女子生徒のほうは、周囲に担ぎ上げられた感がするが、男子生徒は自ら先導している雰囲気がある。
加護の有無を見抜く力などカミーユにはない。そういった特殊な技能持ちは、力が強ければ強いほど神殿や国が独占をしているから、早々お目にかかれるものではない。
「水色の髪の男子生徒がマイルズ・コールマン男爵令息。赤みのあるブルネットの女子生徒がラミィ・ロックベルさんよ」
コールマンということは、ティンパイン貴族ではないのだろうか。ティンパイン貴族は動物に関係する家名が付くことが多い。
「コールマン男爵はあまり聞かない名でござ……ですが、他国留学生ですか?」
あやうくいつものござるが出るところだったカミーユは、慌てて咳払いで誤魔化した。
女性生徒たちは気にした様子もなく、噂の相手が気になるのか口を開く。きっと、話したくてうずうずしていたのだろう。
「いいえ、コールマン男爵は新興貴族ですよ」
「もとは商家だったそうだけど、爵位を買ったそうよ。先々代だから、彼が三代目だったかしら」
「特別な功績が認められたわけじゃないし、婚姻によって得た爵位ではないから普通の家名なのよね」
動物由来の家名は、ティンパインでは一種の格の一つである。
その家が興された時は注目されるが、後世に引き継がれるにつれて恒常化して忘れられがちだが、意味があるのだ。
カミーユに教えてくれた女子生徒の声は、特別大きくなかった。だが、家名の話題になった途端、マイルズがこちらを見て睨んできた。
(家名にコンプレックスがあるタイプでござるか……)
面倒なタイプである。貴族は虚勢を張ってなんぼなところもあるが、度が過ぎるプライドは足を引っ張る。
カミーユだって、元侯爵家の一員だ。貴族の見栄っ張りなところは知っているし、父親がそういう人間だった。
そんなもので腹が満たされるわけではないし、トラブルになりやすい。カミーユにはあまり共感できない心理だし、できれば関わりたくない。
だが、この手の噂をしているのはカミーユに教えてくれた女子生徒だけではない。似たような会話が周囲のいたるところで行われている。家名のことが出るたびに、マイルズは首を振り回す勢いで睨みつけている。
マイルズの視線がこちらに留まらないうちに、女子生徒にお礼を言って素早く退散する。
「なんやった?」
「学園の生徒に『神子様』かもしれない生徒がいるでござる。マイルズ・コールマンとラミィ・ロックベルの二人を巡って、派閥争いっぽいものが起こっているようでござるよ」
その場に沈黙が下りる。
どっちも偽物だと知っている面子にしてみれば、心底関わりたくない類だ。藪蛇だったらたまらない。
(シン殿は無視するでござろうな。神子だと言い張っているのは赤の他人でござる。事実がバレて空気は悪くなっても、本人たちの自業自得としかいえないのでござる)
ラミィのほうは大人しそうだが、マイルズは気も強ければ、我も強そうだ。こちら側から特にアクションを起こさなくても、自爆するだろう。
彼らのきっかけは些細な嘘や誤解だったかもしれないけれど、これだけ周囲を巻き込んでいるとなれば何事もなく収束とはいかないだろう。
平民たちの噂話で終われば良かったものの、貴族や王族も通っている学園で広まってしまったのだから。
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