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第18話:興味という名の違和感
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第18話:興味という名の違和感
国営薬局の灯りが落とされ、作業場には静寂が戻っていた。
昼間の喧騒が嘘のように、空気は落ち着いている。
ギ・メイは、調剤台の引き出しを閉めかけて――ふと、手を止めた。
そこにしまわれているのは、あの処方箋だ。
指先が、自然と引き出しに戻る。
――ジャック・シンドー。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥に小さな引っかかりが残る。
「……どうして、気になるんだろう」
独り言のように呟き、処方箋を取り出す。
内容は、もう覚えている。
それでも、もう一度、目を通す。
症状。
経過。
患者の生活背景。
何度見ても、過不足がない。
過剰な説明もなければ、曖昧な言い回しもない。
淡々としているのに、どこか誠実だ。
「患者の顔が……浮かぶ」
それが、いちばん不思議だった。
書かれているのは文字だけのはずなのに、
診察室の光景が、自然と想像できてしまう。
――この医師は、どんな声で話すのだろう。
――どんな表情で、患者の話を聞くのだろう。
そこまで考えて、ギ・メイはわずかに眉を寄せた。
「……違う」
小さく、首を振る。
自分でも分かっている。
これは、ただの興味ではない。
少なくとも――
甘い感情ではない。
処方箋を畳み、机に置く。
ギ・メイは、静かに考える。
医会に疎まれる医師。
問題児と呼ばれながら、患者からは信頼されている人物。
そして、
“誰が見ても同じ判断に辿り着ける処方箋”を書く医師。
「……信用できるのか」
問いは、声にならなかった。
この医師は、例外なのか。
それとも、単なる変わり者なのか。
制度を壊す側なのか。
それとも、制度の中で出来ることを、限界までやろうとしているだけなのか。
ギ・メイは、自分の胸に残る違和感を、丁寧に切り分けていく。
――知りたい。
それは確かだ。
だが、その理由は単純ではない。
この医師が、
信頼に足る人物なのかどうか。
それを見極めなければならない。
「……変ね」
ふと、苦笑が漏れる。
ただの薬師が、
医師の“在り方”を見極めようとしている。
本来なら、そんな必要はない。
処方箋に従って、調剤をすればいい。
それだけのはずなのに。
処方箋を引き出しに戻し、鍵をかける。
ギ・メイは、作業場の灯りを落とした。
扉へ向かいながら、ふと思う。
もし――
もしこの医師が、
ただの気まぐれで、ただの自己満足で、
あの処方箋を書いているのだとしたら。
その時は、距離を取ればいい。
だが。
「……違う気がする」
根拠はない。
確証もない。
それでも、
もう一度、その医師の仕事を見てみたいと思ってしまった。
それが、恋なのか。
それとも、警戒なのか。
ギ・メイ自身にも、まだ分からない。
ただ一つ言えるのは。
この興味は、
踏み込むべきかどうかを判断するためのものだということ。
薬局を出る直前、彼女は夜風に当たりながら、小さく息を吐いた。
「……油断は、しない」
そう、自分に言い聞かせる。
名医と呼ばれる医師。
問題児と呼ばれる男。
ジャック・シンドー。
その存在が、
これから先、自分にとって
味方になるのか、そうでないのか――
ギ・メイは、まだ答えを出さない。
答えを出すのは、
もう少し先でいい。
---
国営薬局の灯りが落とされ、作業場には静寂が戻っていた。
昼間の喧騒が嘘のように、空気は落ち着いている。
ギ・メイは、調剤台の引き出しを閉めかけて――ふと、手を止めた。
そこにしまわれているのは、あの処方箋だ。
指先が、自然と引き出しに戻る。
――ジャック・シンドー。
名前を思い浮かべただけで、胸の奥に小さな引っかかりが残る。
「……どうして、気になるんだろう」
独り言のように呟き、処方箋を取り出す。
内容は、もう覚えている。
それでも、もう一度、目を通す。
症状。
経過。
患者の生活背景。
何度見ても、過不足がない。
過剰な説明もなければ、曖昧な言い回しもない。
淡々としているのに、どこか誠実だ。
「患者の顔が……浮かぶ」
それが、いちばん不思議だった。
書かれているのは文字だけのはずなのに、
診察室の光景が、自然と想像できてしまう。
――この医師は、どんな声で話すのだろう。
――どんな表情で、患者の話を聞くのだろう。
そこまで考えて、ギ・メイはわずかに眉を寄せた。
「……違う」
小さく、首を振る。
自分でも分かっている。
これは、ただの興味ではない。
少なくとも――
甘い感情ではない。
処方箋を畳み、机に置く。
ギ・メイは、静かに考える。
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問題児と呼ばれながら、患者からは信頼されている人物。
そして、
“誰が見ても同じ判断に辿り着ける処方箋”を書く医師。
「……信用できるのか」
問いは、声にならなかった。
この医師は、例外なのか。
それとも、単なる変わり者なのか。
制度を壊す側なのか。
それとも、制度の中で出来ることを、限界までやろうとしているだけなのか。
ギ・メイは、自分の胸に残る違和感を、丁寧に切り分けていく。
――知りたい。
それは確かだ。
だが、その理由は単純ではない。
この医師が、
信頼に足る人物なのかどうか。
それを見極めなければならない。
「……変ね」
ふと、苦笑が漏れる。
ただの薬師が、
医師の“在り方”を見極めようとしている。
本来なら、そんな必要はない。
処方箋に従って、調剤をすればいい。
それだけのはずなのに。
処方箋を引き出しに戻し、鍵をかける。
ギ・メイは、作業場の灯りを落とした。
扉へ向かいながら、ふと思う。
もし――
もしこの医師が、
ただの気まぐれで、ただの自己満足で、
あの処方箋を書いているのだとしたら。
その時は、距離を取ればいい。
だが。
「……違う気がする」
根拠はない。
確証もない。
それでも、
もう一度、その医師の仕事を見てみたいと思ってしまった。
それが、恋なのか。
それとも、警戒なのか。
ギ・メイ自身にも、まだ分からない。
ただ一つ言えるのは。
この興味は、
踏み込むべきかどうかを判断するためのものだということ。
薬局を出る直前、彼女は夜風に当たりながら、小さく息を吐いた。
「……油断は、しない」
そう、自分に言い聞かせる。
名医と呼ばれる医師。
問題児と呼ばれる男。
ジャック・シンドー。
その存在が、
これから先、自分にとって
味方になるのか、そうでないのか――
ギ・メイは、まだ答えを出さない。
答えを出すのは、
もう少し先でいい。
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